【vol.1】4.別れられない僕の別れ
6/3 別れられない僕の別れ
恋に捕まった僕は、結局彼女と別れられない。
彼女から彼氏の不満を聞かされる度に、微かな期待をしてしまう。
もうすぐ遠くへ行く僕に向かって、「いつ帰って来るの?」と聞かれる度に、微かに期待をしてしまう。
だから僕も、冗談交じりに「彼氏がいなければ、一緒に来てよって言ったんだけどなぁ。」と言った。
だけど彼女は、冗談としてしか受け取ってくれない。
そしてとうとう、僕の旅立ちの日。
彼女は、泣いてしまうから会いたくない、と言った。
僕は、「最後のわがままだから。」そう言って彼女に会ってもらう。
そして、片付いた部屋の片隅から出てきた、シンプルなオルゴールを彼女にあげた。
『time will tell.』
それから、ふと思い出した気持ちを伝えた。
「手紙をくれたよね。
会って間もない頃のこと。
僕が貸した傘を返してくれた時。
なかなか会えなかったせいで、傘と一緒に手紙があった。その手紙に、お礼と一緒に書かれていた何気ないメッセージ。
それが、僕にはすごく嬉しかったんだよ?」
前と同じようにずっと見送ってくれる彼女を背に、僕は大きい荷物を背負って歩き出した。
次に彼女に会うのはいつになるか分からないけど、この分じゃ、そう遠くないかもな。
見慣れたはずの街の景色も、何だか初めて見るように、掛け替えの無い物のように思えた。
……明日の自分は、とても想像できなかった。