【vol.1】1.ごめんね。
彼氏がいる少し年上の女性との、淡い恋の思い出。
1.ごめんね。
2.小さなつむじ風は突然に
3.彼女とレモンチューハイ
4.別れられない僕の別れ
5.弱くてずるい女
6.彼女のいるワンシーン
7.蛍の光、彼女の唇
8.ごめんね。
5/21 「ごめんね。」
「ごめんね。」
彼女はよくそう言う。
新しいバイト先で知り合った、少し年上の彼女。
大人しそうな第一印象と違った、二人の時の無邪気すぎる笑顔は、僕が興味を抱くには充分すぎるほど魅力的だった。
『ロミオとジュリエット効果』なんて分析してる理性とは裏腹に、気が付けば僕は既に惹かれていて。
気が付くと彼女の事を考えていて。
「とにかく、年上はやめとけ。……思いがけない苦労をする事になるから。」
誰かの言葉が耳をかすめた。
狩人を惑わせるアゲハチョウの羽根を持つ彼女。
彼女を捕まえた男は、誰もが逃がさぬよう、篭の中で大事に育てる。
だけど何時の間にか、彼女は篭を抜け出して。
彼女を篭から出してあげたかったのに、何時の間にか僕が篭の中で。
「電話したらだめだよ。……今日はでかけるから。」
「あとメールも送ったらだめ。」
「私とは、会わないほうがいいよ。」
「……貴方が、迷惑するから。」
……。
「ごめんね。」彼女はよくそう言う。
……僕にはそれが、「彼を好きで、ごめんね。」と。
そう聞こえるのだ。