運命
それを一言で表すならば、『運命』という言葉が一番合っているんじゃないだろうか。
懐かしい道を歩いていた。
今日は風が強く、目に砂が入らないように、僕は風から目を逸らした。
すると、君が目の前に現れたんだ。それは突然というより、僕らはそこで待ち合わせでもしていたかのように。
吸い込まれるように僕が手を伸ばすと、君は故郷に帰ってきたみたいに、僕の手の中に収まったよね。
風に運ばれてきた君は、またすぐに風に乗ってどこかへと消えていった。
分かってたんだ。君はすぐにどこかに行ってしまう事なんて。
それは、人生という大きな航海の中での、ほんの小さな波の一つだったけれども、僕はそれを忘れたくないと思った。
今日はとても、僕を含めたみんなが故郷の光景の中に溶け込んでいる気がした。
あの、風に大きく揺られている樹も、犬と共に駆け回る子供たちも、子供連れで犬の散歩に来ている女の人も。
もうすぐこの街を出て行ってしまう僕には、あの子供たちが幼い頃の僕たちに重なって見えた。
・・・感傷的すぎるかな。
自分を少し客観的に見て、ありもしない周囲の視線を気にしてしまう。
だけどやっぱり、自分が過ごしたこの街をもう一度見ておきたくて、この公園に一つだけ建っている、展望台に登った。
・・・相変わらず、殺風景なだけのこの公園に似合わない前衛的なデザインだな。と、二人がすれ違うのがやっとの階段を上りながら考えるのはこれで何度目だろう?
また、そう考える日が来るのだろうか。
屋上まで上がると、この街が大体一望できるのだった。まだまだ、緑が多くて嬉しい。
さすがにここは風が強いけど、それがこの街も僕との別れを惜しんでいるような気がして、そう思うと何だか寒さも苦にならなかった。
ぐるりと見渡す。
あれはきっとあの建物だ。あの橋はきっとあの道の橋だろう。あそこはどこだろう?まだ行ったことは無かったかな。
何かこの街に別れの言葉を贈ろうと思ったが、何も出てこなかった。
思い出は、言葉にならない。
「お待たせ。」迎えが来たみたいだ。
じゃあね。そろそろ僕は行くよ。
またきっと、ここに戻ってくる事もあるだろう。
新しい街で、僕は変わってしまうかもしれないけど。
・・・でも君は。
できればずっと、このままで。
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要するに、風で飛んできた枯草に何気なく手を伸ばしたら、本当に取れてしまった!
という感動を表したかったのですよ。