彼との対話2
「彼女は、永遠なんて無いって言うんだ。」
そこは、ファミリーレストランだった。
そして彼は、そこのポテトだった。
「ほう、主よ。それは何でだい?」
ポテトは少し、しなびていた。
でも俺はその方が好きだったから、それで良かった。
「何でって、実際にそうだろ?いつかは死ぬんだし。」
俺はそのお喋りなポテトに向かって真面目に言う。
より一層しなびたポテトは、深く項垂れながら呟いたようだった。
「君はいつの間にそんなに大人になってしまったんだい?・・・淋しいことだ。」
フォークを口に持っていき、一口でポテトを平らげる。
芋を何度か咀嚼し、喉の奥に押し込むと俺はまた口を開いた。
「ただそれは、彼女の不倫経験がそうさせるんじゃないかって思うんだ。」
「ふむ・・・。」
すると今度は別の細長いポテトからそんな声が聞こえた。いつの間に。
そしてまたしばらくの熟考時間。
やがてポテトを食べ過ぎて、喉がつかえそうになり水を慌てて流し込んだ所で、解答が返って来る。
まずは彼の順番からだ。
「いくら結婚して契約を交わしても、所詮それは破られてしまう物なのだと彼女は知った。」
そして俺。
「だから愛情によって結婚を求めるんだろうな。」
「きっと彼女は心の中では永遠を信じたがっているんだね。」
「・・・そうだといいけど。」
「ふぅ。・・・君は相手を好きになるほどに、欠点ばかりを気にして不安を感じるその悪い癖を直したほうがいいな。」
そう言いながら、ポテトは呆れたように肩をすくめて見せた。
そんなポテトに、俺は躊躇なくフォークを刺して口へ運ぶ。
「分かってるよ。」
とうとう皿の上には、ポテトは一つだけになってしまった。
固くて、冷たい。
「『永遠はあるって信じさせてよ!』いつかそう言った彼女に、俺は『あるよ。信じさせてやるよ。』って言ったんだ。」
「・・・例え嘘になるかもしれなくても、彼女にそんな冷めた言葉は言いたくなかったんだね。」
「・・・うん。」
「けど逆に、今度は君の方が信じられなくなってしまった。」
「・・・俺はかつての不倫相手に、『昔の彼女を返せよ!』って言ってやりたいよ。」
「お前のせいで彼女は大事な事が信じられなくなってしまったんだ、って?」
「きっとね。それから彼女は、どこか倫理観が欠如してしまったんだ。」
「そのせいで、君も彼女が信じられなくなってしまった、と?・・・怒る相手が違うんじゃないかい?」
「わかってる!わかってるんだけど・・・。」
俺は固くフォークを握り締め、強くテーブルを叩いた。
ウェイトレスが顔を上げて、こっちを見る。
固くて冷たいポテトは俺に言った。
「怖いんだね。」
「・・・怖い。」
「君は深入りすればするほど、それを失う事を考え、非常に怖がりになってしまう。」
「ずっと深入りしないようにしていたのは俺の方だって気付いたよ。彼女なんかよりよっぽどね。」
「主よ。・・・もう手遅れだな。」
「ああ、手遅れだ。」
「今だろうがこの先だろうが、彼女を失えば君はまた取り返しのつかない傷を負うだろう。」
「・・・・・・。」
「そしてきっと君はまた・・・。」
何か言いかけていた彼を、俺は一息に口の中へ放り込んだ。
固くなったポテトは、思った通りひどく味気なかった。