七夕
遠距離恋愛の二人。
年に一度の七夕の日。
随分と久し振りに二人は会う約束をした。
「久し振りに、会えるね。」
「うん、ようやく。」
「遅れたりしないでよ?」
「はは、気をつけるよ。それよりも、当日は七夕だろ?」
短冊に願いを書いておけという彼。
彼女は彼に早く会うことができますように、と書く。
「あ・え・ま・す・よ・う・に、と。」
「これで大丈夫よね。なんたって、織姫と彦星の年に一度の逢瀬の日なんだから。」
「笹はないけど、・・・まぁ仕方ないか。」
七夕当日。
空は生憎の大雨。
ザーッ・・・
『・・・新幹線は、現在全面運行を見合わせており・・・』
「うそっ!何で今日に限ってなの!?」
新幹線が動かないと、彼はこちらに来れない。
彼女はがっかりしながら彼に電話をかけるが、何度かけても彼は出なかった。
一応約束の時間に駅で待ってみるが、やはり彼は来ない。
それでも、ずぶ濡れで待ちつづける彼女。
「何で電話にも出ないの?・・・もう最低・・・。」
「・・・ぐすっ・・・。」
「織姫と彦星も、雨だからきっと会えないんだね・・・。」
『RRRRRR・・・』
彼女が、どうでもいいやと言う気分になってきた所へ、電話がかかってきた。
表示されるのは、彼の名前。
(今更かかってきても、もう遅いよ・・・。)
そう思いながらも、彼女は電話に出た。
「・・・もしもし、竹彦?」
「お前今どこにいるんだ?」
「え、駅だけど・・・。今日・・・駄目だったね・・・。」
「何言ってんだ早く戻ってこいよ。家に入れないだろ?」
「・・・え?」
それだけ言うと電話は切れてしまった。
彼女は半信半疑ながらも走って家に戻る。
そして、もう真っ暗な自宅の前に目を凝らすと、ドアの前には、彼女と同じくずぶ濡れの彼がいた。
「何で!?どうやって来たの!?」
「・・・何だよ、来たらいけなかったか?」
「そうじゃなくて!何で!?」
「はは、うそうそ。実はお前を驚かそうと思ってさ。昨日のうちに着いて、今日はコレ取りに行ってたんだ。
・・・そう言って彼が指差した先には、背の高さほどの笹があった。
「せっかく七夕だったからさ。」
「・・・・・・。電話ぐらい出てよね?」
「あ~、多分圏外だったから。電波届かなかったんだと思う。」
「全く、何やってるのよ・・・。心配するでしょ、・・・バカ。」
夜には雨も上がり、綺麗な星空が広がった。
二人は並んで空を見上げている。
「今日晴れてなかったからさ、七夕の二人と同じように、会えなくなっちゃったかと思った。」
「・・・ふ~ん。」
「何その気のない返事~。すごく悲しかったんだからねっ。」
「・・・だってさぁ、知らないの?・・・織姫と彦星は、地面から見られるのが恥ずかしいから、雲に隠れて会うんだよ?」
へぇ~。
・・・そうなんだ、知らなかった。
私はそう言うと、カーテンを閉める。
「あれ、せっかく星が綺麗なのに。」
彼が言う。
確かにそうだけどさ。
だってね。
私たちも、空から二人に見られたら恥ずかしいでしょ?