表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編集  作者: 安楽樹
【短編集】
13/42

誰よりも速く走りたかった馬

・・・僕らが空を飛ぶ蝶に羨望の眼差しを向けるのと同じように、

蝶もまた、地面を力強く走りたいのかもしれない。



その馬は、どの馬よりも速かった。

それを確認するため、彼は毎日毎日草原を走り回っていた。

速く走る事こそが彼にとって全てであり、もう他には何もいらないと思っていた。風を切るあの感覚。地面を力強く蹴るあの快感に、彼は酔いしれる。


しかし、他の誰も彼について行く事ができなかったため、彼はずっと孤独であり、それがいつしか不満に変わっていった。彼は自分と速さを競い合う相手を探していたが、もう地上で誰も彼についていけるものはいなくなってしまった。


ある時、彼が空を見上げると、自分を追い抜いていくツバメが見えた。

何にも邪魔される事なく空気を切り裂いて飛んでいく姿を想像し、馬は更なるスピードを欲した。

その新たな世界を求めて追いかけてみるが、とうとう彼に追いつく事はできなかった。


それから彼はツバメを何度も追い抜こうとして走ったが、やっぱりツバメに追いつく事はできない。

地面を走って追っていくと、坂の起伏があり、川があり、森があって、真っ直ぐに空を飛ぶツバメに追いつくのには到底無理があったのだ。


その馬の様子を空から見ていたツバメが、空から降りてきて馬の背へと降り立った。

ツバメは馬が自分を追い抜こうとしているのは分かっていたので、からかい半分で馬に話し掛けた。


「どうして君はいつも僕の後をついてくるんだい?」


負けず嫌いの馬は、ツバメにからかわれたのが気に入らず、鼻息を荒くしながら答えた。


「地面は狭すぎて、僕の力が出せないんだ。もし僕にも羽が生えていたら、後ろをついてくるのは君のほうだと思うけどね。」


それを聞いたツバメは馬鹿にしたように笑いながら、「じゃあ僕が神様に頼んで、君に羽をつけてもらおうか?」そう言って、また空に飛び立って行ってしまった。



次の日、馬が眠りから醒めると、背中から立派な羽が生えている事に気付いた。

馬は大喜びし、早速空を飛ぶ練習を始める。

羽を懸命に動かし、羽ばたいて空を走る。程なくして、馬は空を飛ぶ事ができるようになった。皆はその姿を見て、彼の事をペガサスと呼ぶようになった。


しかしペガサスは空は飛べるようになったものの、その大きな体ではスピードが全然出ない。もちろん空を切り裂いて飛ぶあの感覚は味わえるはずもなく、ましてやツバメになど到底かなうはずもなかった。


馬は仕方なく、前のように地面を走ろうと思ったが、今度は大きな羽が邪魔になり、前のように速く走る事ができなくなってしまった。

・・・今や、彼は地上のどの馬よりも遅くなってしまったのだった。


さらに、大きな羽は目立つので、ライオンなどの肉食獣によく狙われるようになった。

彼自身は空へ飛んで逃げればいいのだから、いつも無事ではあったが、同じ群れの仲間が代わりに食べられてしまうのだった。

その為、他の馬たちは皆、彼を避けるようになった。


馬は相変わらず孤独であり、また同じ不満を感じながらも空と草原を行き来していた。

・・・いくら大空を飛べたとしても、空に彼の好物の青草はないのだ。

ツバメもあれから姿を消し、他の馬からは避けられ、時折すれ違うコウモリだけが、同情に満ちた目で彼を見ていた。


とうとう孤独に耐え切れなくなった彼は、神様に頼んで自分をツバメにしてもらった。

もう速く飛ぶ事などに興味はなく、時々地面を速く走る馬に複雑な視線を投げかける。

そして時折空から降り、馬の背に止まって話し掛けるのだ。


「やあ、どうして僕の後をついてくるんだい?」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ