翼の生えた少年
僕に、念願の翼が生えた。やっとこれで空が飛べるんだ。
でも僕に翼をくれた大きな鳥は言った。
「空を飛ぶには、とてもとても高くて、とてもとても広い場所じゃないといけないよ。でなければ風にのれずに、空から落ちてしまうからね。」
それから僕は、とてもとても高く、とてもとても広い場所を探しに家を出た。
翼はとても大きくて、小さい体の僕にはすごく重かった。でも空を飛ぶためならと思って、一歩一歩しっかりと歩いていく。
時には肩が抜けそうになり、時には翼の重さにつぶれそうになったりもした。
ふらふらになり、あちこちにぶつかって傷ついた。
疲れ果て、何度も倒れそうになった。
だけど僕は旅をする。飛べる場所を探して、旅をする。
ある時ふと路地裏を見ると、そこへは空へと続く坂があった。
ここならきっと・・・。
僕はそう思って、ボロボロになった足を踏み出す。坂はどんどん上へと伸び、このまま空へとつながっているんじゃないかと思わせる。だんだん疲れも忘れ、駆け足で坂を上っていく。
僕はそこに、とうとう空に近い場所を見つけた。
羽根を大きくはばたかせる。
・・・だめだ。
ここはとても狭すぎる。
坂の上はすごく高かったけど、目の前にもっと高いビルが建っていた。ここから飛んでも、すぐにあのビルにぶつかってしまう。僕はとても悲しくなって、地面にひざをついた。大きな羽根も、地面について汚れてしまう。傷ついて、このままでは空を飛べなくなってしまう!
僕は必死で立ち上がると、坂を下りるため、また一人、歩き始めた。
僕の翼も、また眠りについた。
より一層、翼は重く、僕の肩にのしかかる。もう既に、腕は上がらず、肩には血がにじんでいる。
だけど、旅を止めようとは思わない。
だって、空を飛べるんだよ?
眠ることも食べることも忘れ、ただひたすら空を求め、歩く。
歩き続けたその先で、ただ一度だけ、僕は眠りについた。
なんだかとても、落ちついたんだ。
そのおもちゃのビルにいたたくさんのおもちゃたちが、あまりにも賑やかだったから。
それから僕は七つの海と三つの大陸を渡り、とうとう一度も休むことは無かった。
「おかえり。」
誰かがそう言った。
いつの間にか、元の場所へ戻ってきてしまったみたいだ。でもそこは、旅立った時とは全く違っていた。地面が高くせり上がっていて、とても空に近い。
「進むんだ。進んでいれば、何かが変わる。」
誰が言っていたのか思い出せない。
でも、その言葉は僕の翼から聞こえたような気がした。
僕は頂上に立ち、吹き抜ける風に身を任せる。
・・・そこは、この世のどこよりも、空に近く。
風を身にまといながら、翼は眠りから覚め、自然とその両手を広げた。
また風が吹いた。
あっけないほど簡単に、僕は空を飛んでいた。
遥か空は、地面の上を歩いていた頃とは全く違う世界を見せてくれる。
僕は、ぐるりと周りを見回した。
風の子供達のかけっこ。
雲のうたた寝。
鳥たちの歌。
憧れていた空に、僕はいた。
誰よりも自由で、誰よりも遠くへいける気がした。
しかし、僕はついに力尽き、粉々になってしまう。
そのまま、風になった。
・・・今度は空の旅を続けるんだ。
よし、また歩いていこう。今度はどこまで行けるだろうな。
あーあ、空を飛ぶのも、楽じゃない。
僕は、そう思った。