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短編集  作者: 安楽樹
【短編集】
10/42

翼の生えた少年


僕に、念願の翼が生えた。やっとこれで空が飛べるんだ。

でも僕に翼をくれた大きな鳥は言った。


「空を飛ぶには、とてもとても高くて、とてもとても広い場所じゃないといけないよ。でなければ風にのれずに、空から落ちてしまうからね。」


それから僕は、とてもとても高く、とてもとても広い場所を探しに家を出た。

翼はとても大きくて、小さい体の僕にはすごく重かった。でも空を飛ぶためならと思って、一歩一歩しっかりと歩いていく。

時には肩が抜けそうになり、時には翼の重さにつぶれそうになったりもした。

ふらふらになり、あちこちにぶつかって傷ついた。

疲れ果て、何度も倒れそうになった。

だけど僕は旅をする。飛べる場所を探して、旅をする。


ある時ふと路地裏を見ると、そこへは空へと続く坂があった。

ここならきっと・・・。

僕はそう思って、ボロボロになった足を踏み出す。坂はどんどん上へと伸び、このまま空へとつながっているんじゃないかと思わせる。だんだん疲れも忘れ、駆け足で坂を上っていく。

僕はそこに、とうとう空に近い場所を見つけた。

羽根を大きくはばたかせる。


・・・だめだ。

ここはとても狭すぎる。

坂の上はすごく高かったけど、目の前にもっと高いビルが建っていた。ここから飛んでも、すぐにあのビルにぶつかってしまう。僕はとても悲しくなって、地面にひざをついた。大きな羽根も、地面について汚れてしまう。傷ついて、このままでは空を飛べなくなってしまう!


僕は必死で立ち上がると、坂を下りるため、また一人、歩き始めた。

僕の翼も、また眠りについた。

より一層、翼は重く、僕の肩にのしかかる。もう既に、腕は上がらず、肩には血がにじんでいる。

だけど、旅を止めようとは思わない。

だって、空を飛べるんだよ?

眠ることも食べることも忘れ、ただひたすら空を求め、歩く。


歩き続けたその先で、ただ一度だけ、僕は眠りについた。

なんだかとても、落ちついたんだ。

そのおもちゃのビルにいたたくさんのおもちゃたちが、あまりにも賑やかだったから。


それから僕は七つの海と三つの大陸を渡り、とうとう一度も休むことは無かった。


「おかえり。」

誰かがそう言った。

いつの間にか、元の場所へ戻ってきてしまったみたいだ。でもそこは、旅立った時とは全く違っていた。地面が高くせり上がっていて、とても空に近い。


「進むんだ。進んでいれば、何かが変わる。」


誰が言っていたのか思い出せない。

でも、その言葉は僕の翼から聞こえたような気がした。

僕は頂上に立ち、吹き抜ける風に身を任せる。

・・・そこは、この世のどこよりも、空に近く。


風を身にまといながら、翼は眠りから覚め、自然とその両手を広げた。


また風が吹いた。

あっけないほど簡単に、僕は空を飛んでいた。


遥か空は、地面の上を歩いていた頃とは全く違う世界を見せてくれる。

僕は、ぐるりと周りを見回した。


風の子供達のかけっこ。

雲のうたた寝。

鳥たちの歌。


憧れていた空に、僕はいた。

誰よりも自由で、誰よりも遠くへいける気がした。


しかし、僕はついに力尽き、粉々になってしまう。

そのまま、風になった。

・・・今度は空の旅を続けるんだ。

よし、また歩いていこう。今度はどこまで行けるだろうな。


あーあ、空を飛ぶのも、楽じゃない。

僕は、そう思った。


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