〈第一章 いつもの三人組み〉 『~1~』
はじめまして、碧といいます♪
今回は、『クリスマスの魔法』という、クリスマスをテーマとした物語を
書こうと思っています。季節的にも、気分的にも。
よろしければこの物語に付き合ってください。
〈第一章 いつもの三人組み〉
『~1~』
12月19日、ニューヨーク。
高層ビルが立ち並ぶ大都会に、真っ白で儚い雪がシンシンとふっていた。
この年に入って初めての雪が音も無くゆっくりと、ニューヨークを真っ白に染めている最中、アンバー・ウィルソンは自宅アパートの窓辺にひじをついて、
ラジオから聞こえてくる天気予報に耳をすましていた。
「さて次はニューヨークの天気予報です。
ニューヨークでは初雪がふり始めたところで、この雪は1月初旬までふることでしょう。
先週は雷雨などが各地で起こりましたが、今週以降天気は落ち着くもようです。
ですが気温はいまだ下がり続ける一方なので、お出かけの際にはコートなどで暖を取るよう心がけてください。
さて次はサンフランシスコの天気予報です」
そこまで聞いてアンバーはラジオのスイッチを消した。
部屋の中が静かになって、耳をすませば初雪がふってくる音が聞こえてきそうな気がする。
ラジオではこの雪は一月初旬までふり続けるって言っていた。
ということは今年のクリスマス、2年ぶりのホワイトクリスマスになるってことだ!
「ィヤッタァー!」
思ったより大きな声で、こぶしを空に突き出して叫んだ。
ご近所さんにはうるさいかもしれないけど、正直どうでもいい。なんたって今年のクリスマスには、真っ白でロマンチックな雪がふるのだから。それだけで十分だ。
去年なんて雪がふったのはクリスマスが終わった次の週。
灰色のアスファルトむき出しのクリスマスなんて、サラおばあちゃんが作る豆スープと同じくらい最悪。でも今年は大丈夫。真っ白な、ニューヨークのクリスマスになるんだから。
雪がふればショッピングモールのクリスマスの飾りつけは一段と華やかさがアップするし、
学校の男子の大半がかっこよく見れる気がするし(本当に少しね)、
パパのギャグにも一応面白味が感じれるようになる。
雪ってだけで私の周りの世界はキラキラって輝きだす気がする。
クリスマスに合わせて換えた赤色のカーテンの向こうにはアンバーが望む最高の景色が広がっていこうとしていた。部屋の中も、クリスマスを今か今かと待ち構えている。
絨毯は赤色と緑色のものにして、暖炉の代わりのストーブには、
「ジェンダのショッピングモール」で買ってきた、色鮮やかな靴下がぶら下がっている。
扉の一つ一つにはリースをぶら下げて、リビングの机にはクリスマスローズが飾ってある。
ペットの猫のルージイの毛布も、ちびっ子サンタクロースの模様がついているものに変えてある。
アンバーと弟のジェイクのベットカバーももちろんトナカイの絵柄、何から何までクリスマス仕様だ。
そして何と言ったって主役は、貯めに貯めて買った大きなクリスマスツリー。
天井にくっつきそうなくらい大きくて、幹の部分や枝の部分が腐っているところなどが無い、完璧なクリスマスツリーだ。
それは居間の右上に置いてあって、ストーブの明かりで綺麗な飾り達がチカチカと瞬いている。
赤と白の縞々の棒キャンディーに、ちびサンタクロース、クッキーマンや綺麗な色のボール、
可愛らしい顔の天使や、金色、銀色などのモールで飾り付けられている。
てっぺんには、これまた色々なショッピングモールや雑貨店を見て回って選びに選んだお星様。
金色で大きくて、とても目立つ星だ。目立ちすぎてせっかくの他の飾りが色あせて見えるくらい。
思わず感嘆のため息がもれてしまうくらい素敵すぎて、立派なクリスマスツリーになった。
今年はいつも以上にウィルソン家がクリスマスに力を入れる理由があった。
何かというと、今まで入院していたアンバーの母、エリーゼが退院して家に帰ってくるのが、
クリスマス・イヴだからなのだ。
エリーゼは産まれた時からもっている心臓の持病かなにかで入退院を繰り返していたけれど、
今回は今までの状況よりはるかに悪いらしく、過去最長の2年間ケイトウェディン病院に入院していた。
エリーゼがいないと、料理とか洗濯とか家事全般はすごく大変だったし、第一とてもつまらなかった。エリーゼは優しいし、それプラスとても面白い。パパなんかよりずっと。
っていうよりか、エリーゼがパパのつまらないギャグに対するツッコミが絶妙に笑えた。
エリーゼはアンバーやジェイクの本当の母親じゃない。いわゆる継母。
でも、シンデレラの継母みたいに意地悪じゃないし、ガリガリの不気味な感じでもない。
どっちかって言うとコロンコロンしてる。
だからと言って自分で自分の体重が支えられないくらいのデブじゃない。
ほど良いデブって言うんだろうか、まぁそんな感じ。
ぽっちゃりで顔が少し赤くて、いつもブーツを履いている。冬でも夏でも関係なく。
エリーゼの言うことだと、ブーツっていうのは全人類にとって最高の履物らしい。
私もブーツは好きだし、冬はこれでもかっていうくらい毎日ブーツばかり履いているけど、
エリーゼみたいに夏はショートブ-ツを履くんだっていうくらいのブーツへの愛は持ち合わせていない。
最初に言っておくが、エリーゼが本当の母親じゃないからって、私達がむくれて話もしないとは思わないで頂きたい。実の母親が死んだのは、私が3歳のとき。
わたしはまだオムツをはいてる幼児だったし、ジェイクなんて産まれてまもない赤ん坊だった。
だから母親の顔だって覚えてないし、思い出もこれといってないわけ。
ぼんやりと輪郭だけなら少しは思い出せるのだけれど。
それから少したってからパパは、同じ空港会社で働いていたエリーゼと結婚した。
パパが言うには、本当のママと出会ったときと同じときめきを感じたらしい。
ということで、本当のママよりエリーゼと過ごした時間の方が長いから、エリーゼの方が母親って感じ。
だから本当の母親がいないってことに不満を感じたこともないし、家出したいって思ったこともない。
本当のパパとママがそろっている家庭と大して変わらない気がする。私としては。
そんな大好きなエリーゼが帰ってくるのだから、クリスマスは最高のものにしなければならない。
飾りつけはもちろん、プレゼントの中身だって天気だって、どうにかしないといけないわけである。
家の中の飾りつけはほとんどパーフェクトに近い。
クリスマスカラーである赤と緑にそろえてあるし、所々にある置物や壁掛けも可愛いものにしてある。
トイレの便座カバーもマットも雪だるま模様だし、お風呂には天使の形のアロマキャンドル。
きっとこれをみたらエリーゼはびっくりして泣き出すが、笑い出すと思う。
エリーゼの感情表現はそのどちらかしかないんだもの。
だから私達が喧嘩とかをすると怒らず、自分が泣いて私達を反省させるって方法をずっと貫いてる。
見た目的には以外だが、結構頭で考えている人だ。
その証拠に、エリーゼに分からないなぞなぞは一つも無い。
子供相手だからって手加減しないから、トランプのダウトやオセロ、じゃんけんや引っ掛け問題で楽しんだ記憶はゼロと言っていいほど、全く無い。
それでも、一生懸命遊んでくれるところや、友達と喧嘩したり男子にからかわれて泣いている時、
優しく抱きしめてくれるエリーゼが大好きだった。
エリーゼが帰ってきたら、一番最初にギュッと抱きしめてもらおう。
それから、チキンやケーキを食べながらおしゃべりを飽きるほどして、久しぶりに絵本でも読んでもらおうかな、「子猫のジャン君」とか「キミのしっぽどこへ行く」とか。
ジェイクは口癖の、「ガキじゃないんだから」を連発するだろうけど、
心の中ではかなり嬉しがっていると思う。意外と甘えんぼだしね。
そんなクリスマス・イヴの光景を想像しただけで、本当にクリスマスが待ち遠しくなる。
早く来てくれないかな、12月24日と25日、聖なる夜が。
エリーゼと久しぶりにゆっくりと過ごしたいっていうのもあるし、もうひとつ個人的な期待も、クリスマスには待ち構えているんだよね。
パパにもジェイクにも話してないし、まぁエリーゼには帰ってきたらすぐに話すつもり。
やっぱり恥ずかしいけど、エリーゼは女性だし自慢したいなぁとも思っちゃうからさ。
何かというとそれは、25日のクリスマスに、マイケル・ジェイソンとデートをすること!
キャーーーって叫んじゃうでしょ?ねぇねぇ。
もう本当に嬉しすぎて、誘われたときは思わず飛び上がっちゃったくらい。
あのマイケルとデート。天国に昇るくらい幸せなことなんだから。
数学とスペイン語で同じクラスのあのマイケルと。かっこよすぎるあのマイケルと。
みんなの憧れ、あのマイケルと。本当にもう夢みたい。
もちろん夢なら覚めないでほしいけど、幸運なことに夢じゃない、現実。
夢の中で、デートに誘ってくれたマイケルが次の瞬間ジェニファ先生になって、
「That right!!!」って誰でも何でも指差しながらスキップし始めることはない。
ジェニファ先生のスキップってある意味、恐ろしいんだもの。
まるで、羽の生えた四本足のたこが踊っているみたいに見えるの。驚きものでしょ?
とにかくすごくすごく楽しみ。こんなにも幸せなことが重なったクリスマスなんて始めて。
クリスマスおかしな失敗は決してしないように、それプラス上手くいけばキスまでいけるかもしれない。
すごく楽しみなんだけど少し悩んじゃうことが。デートに着ていく服をどうするか、っていうこと。
普段の私の服装は、ジーパンとかショーパンにTシャツやチュニックっていう格好。
基本的ラフな感じなんだけど、デートのときくらい女の子っぽい可愛らしい服装にするべきなのか、いつもどおりの格好で自分をアピールしたほうがいいのか。そんじょそこらの子らとは違いますよって。そこらへんで悩んでいるわけ。
それに他にも、デートでのマナーは?トイレ行きたくなったらどうすればいい?
オナラしたくなったら?映画の途中でお腹が鳴っちゃったら?はしゃぐべき?おしとやかにするべき?
もう疑問ばかりで、クエスチョンマークばかりが頭の中をくるくる回っている。
だからこそ、今日は強力な助っ人を呼ぶことにしたの。強力?もしかしたら凶力かもだけど。
それは、いつも一緒にいる、アシュレイとリアン。あっ、言っておくけれどちなみにリアンは男ね。
女みたいな名前でよく間違えられてるけど。本人もそれを気にしてる様子。
僕は世界で一番ツイてない名前をつけられた奴だよっていつも嘆いてる。
その二人とは、学校に入ってから科学の授業で仲良くなった。
だって科学のジル先生の肌ったら、授業をやるたびにしなびていってる気がするんだもの。
それで私は準備室においてあるカエルとかねずみとか蛇のホルマリン漬け達に、
栄養を吸い取られてるんじゃないかって推測してたの。
で、同じ格好で同じ推測で、不気味なホルマリン漬けたちがハリを取り戻してるんじゃないかって
毎時間見張ってるのが3人もいたら、お互い自然と仲良くなるのが普通ってわけ。
そんな二人はお世辞にも恋愛経験豊富ってわけじゃないけど、アシュレイは女の子だからオシャレ方面のことで頼りになるし、リアンは男子だからね。結論、各性別の意見を聞こうと思ったってわけ。
まぁ、少しは役に立つアドバイスを言ってくれると思うし。クリスマスの飾りつけも自慢したいし。
早く来てくれないかな。もう本当に今は気分が絶好調。
そう思いながらアンバーが朝食の後片付けをしていると、ピンポーンとチャイムが鳴った。
玄関の扉の向こうからクスクス、ゲラゲラ、ワッ八ッ八と笑う声がする。
つまりアシュレイとリアンが来たってことだ。家に来るときはいつもそう。
大きな文字盤の時計の前を通って玄関に行き、茶色い木に金色の真鍮の取っ手に手を置いて、
静かに扉を押した。誰もいない。目の前の灰色の廊下は人っ子一人としていない。
だがこんなことにはもう慣れっこ。どうせ・・・、
「いったぁ!いてて、足ぶった!」
「僕はおでこだよ、アシュレイの手のせいで」
「うーるさいなぁ。男なんでしょ我慢しなよ」
「男だったら痛がったらいけないわけ?」
「そのとーり」
ギャーギャーギャーギャー、やっぱりだ。アシュレイ、リアンのおばかコンビは扉の裏に隠れていて驚かせるつもりだったらしい。
あれっ誰もいない、何で?まさかお化け?・・・キャーが狙いだったらしいけど、
アシュレイとリアンの手はもう読めてる。だから叫び声を発する代わりに扉を思いっきり押してやった。
そしたら扉がアシュレイとリアンの手やらおでこやら足やらを直撃、というわけだ。
おでこや足をさすりながら、アシュレイとリアンはぞろぞろと勝手に家に入っていった。
リビングに入ると、白いマフラーをほどきながらアシュレイが口を開いた。
「全くーアンバーったらさぁ。あんなに強く押さなくても」
「あんなところに隠れてるあんたらがいけないんでしょ」
「でも、あれは僕のアイデアじゃなかった、アシュレイのだ。それなのに道連れとはねぇ」
「はぁ、何言ってんの?あんたがニヤニヤ笑いながら思いついたことでしょ」
「違うね、アシュレイのだ」
「ううん、リアンちゃんの!」
「ちょっと!リアンちゃんなんてやめろよな。僕は男だ、れっきとした」
「あらまぁ、ゴメンね!てっきり女の子だと思っちゃった!弱々しい名前のせいで」
「なんだって!?」
「何よ?」
「もう、ストーーーーーーーップ!!!」
両手を開いて二人の間に割って入った。その左右でにらみ合っている二人。いつもの光景だ。
世界が終わるまで続きそうなプチ口喧嘩を止めるのはいつも私。
全くめんどうくさくなる。喧嘩してもらうために呼んだわけじゃないのに。
それに今私の気分は南国フルーツより甘酸っぱいんだから、その気分を台無しにしないでよね。
つくづく、本当にこの二人を呼んでよかったのだろうかと不安になる。