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レベッカの商人ライフ奮闘記〜婚約破棄から始まる恋と靴と陰謀の物語〜  作者: 華空 花
終章 婚約破棄から始まった恋と靴と陰謀の顛末
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54. この関係を終わらせますわ!

「ここは……?」


 馬車を降りたレオンが、首を傾げた。

 それはそうだろう、目の前にはゆったりと川が流れているだけだ。

 川の水は、相変わらずキラキラと輝いている。


「レオン様と来た事は、ありませんでしたわね」


 レオンは貴族。そして婚約時にはもう、士官学校で厳しい鍛錬を積んでいる最中だった。レベッカも、もう追いかけっこを楽しむ歳でもなかった。

 この川辺は、レベッカにとって楽しい子供時代の思い出の場所だ。レオン以外との。

 だからこそ、ここに一緒に来たかった。


 これで最後かもしれない。そう思うと、他に相応しい場所があったのかもしれないと思わないでもなかった。

 それでも、過去に決別をつけるなら、こんなに相応しい場所もない。


「誰かと来たのか……?」


 それには答えず、川縁へと歩く。後ろから、レオンの足音が続いた。


 マルセイユとの面会が終わった後、レオンはスタンフィールド家の馬車を帰した。

 そして、アヴァロ家の馬車でここへ来たのだ。


(ちゃんと、終わらせなくてはいけませんわ)


 この先を、自分の足で歩くためにも。


「あの……マディソンさん達はどうなるのでしょう」


 川縁で足を止め、出たのはそんな言葉だった。気になっているのは事実だが、逃げだったのは自覚があった。

 横に並んだレオンが、レベッカを見る。その優しげな顔を、ずっと見ていられたらどんなに良かっただろう。


「マディソンは妻子を人質に取られていた。ロバート元中佐は、横領を認め証言を行った。そもそも、横領は私利私欲によるものでもない。その分は酌量されるだろう。もちろん、罪は罪だ。償わなければならないが」

「そう、ですの……」


 マディソンの立場になったら、誰だって同じ事をすると思う。レベッカだって例外ではない。

 大切な人を人質に取られたら……同じ事をするかもしれない。


 ロバートだって、失ったかつての部下の子供達への支援をしていただけだ。その手段は罪だったが、行為そのものは善意だった。

 納得できない気持ちは正直ある。だが、無罪放免と行かないのもわかる。ここで取り締まらなければ、マディソンやロバートのような存在を無限に生み出すことになるだろう。


「ローズマリーさんは……」

「彼女も騙されていた。それは考慮されるべきだ」

「そう、だと良いなと思いますわ……」


 彼女は、愛した男と逃げるためと悪事に手を染めた。倉庫火災の実行犯は彼女だったのだ。

 騙されていたとはいえ、ローズマリーはマディソンとは事情が違う。彼女には、引き返すチャンスがあった。ヴィクターを止める事が出来たはずだった。

 やったことはとんでもないことだ。許されない事。それでも、責める気にはなれない。


「アルマール伯爵家は、爵位を剥奪され、領地も没収される。クラウス商団もほぼ解体されるだろう」

「……急に全てを失って放り出されて、お辛いでしょうね」

「仕方がない。そのままにはしておけない」

「はい」


 レオンが生きている世界は、そうなのだ。そういう厳しい世界で、歯を食いしばりながら生きているのだろう。

 それなのに、レベッカにはそんなところを見せた事がない。いつも優しく笑っていた。


「ヴィクターの処遇はまだ決まっていないが、相当期間は収監されるだろうな」


 川に視線を投げる。

 ここで、二人で笑い転げて遊んだ。時には泣いて、でもほとんどを笑って。

 楽しかった。ヴィックは、レベッカの子供時代を照らしてくれていた。


(そう、これはわたくしにとっては、真実ですわ)


 ヴィクターがどう思っていたのだとしても。あの時レベッカが感じていた感情は、ヴィックに抱いた気持ちは嘘にはならない。

 一緒に遊ぶのが楽しい、とても良い友達だという気持ちは。


「ここは、よくヴィックと遊んでいた場所ですの」


 レオンが息を飲んだ音が聞こえた。

 水の音が遠くなり、レオンの息づかいだけがレベッカの鼓膜を打つ。


「そうか」

「ヴィックは、本当にいいお友達でしたの」


 だからこそ、ヴィクターにはここで別れを告げよう。

 いつか、ヴィックが戻るまで。


「レオン様。わたくし、その……」


 そうして、レオンとの関係もちゃんと終わらせなければ。

 これからの、長い未来のために。


「婚約破棄、とっても、悲しかったです。もう近づかないようにって言われて、本当に寂しくて……。わたくしの夢の隣には、いつもレオン様がいたのに、あんなに突然いなくなってしまうとは思っていなかったんですわ」

「ああ……」


 レオンの瞳が、悲しそうに伏せられた。


「すまなかった」

「いいえ、あれで良かったんですわ。わたくし、人の心をなんにもわかっていなかったのです。ずっと自分自分、自分のことばかりで……きっと婚約破棄を言い渡されていなければ、わからないままでしたわ」


 ポケットから、ハンカチを取り出す。暗号解読をした時、レオンが差し出してくれたものだ。

 綺麗に洗濯をして乾かしてきた。


「これ、ありがとうございました。なんだか、お守りみたいで心強かったですわ。だから、お返しします」

「どういう意味だ?」

「わたくしは、わたくしの足で歩かなくてはいけないと思いましたの」


 ハンカチを受け取ったレオンが、困惑した表情を浮かべつつポケットへと仕舞う。

 もうお守りは、ない。


「だから、レオン様に言いたい事があるんですわ! わたくし、ちゃんとレオン様との事を終わらせないと、先に進めないんですの!」

「は⁉︎ ちょっと待て」

「待ちません!」


 ぐいとレオンへと踏み出すと、レベッカに圧倒されたようにレオンが一歩下がった。


「わたくし、結婚に感情はいらないと言いましたわ。あの時は、本当にそう思っていたんですの。でも、違うんですわ。わたくしはレオン様と結婚するという事を当たり前に来る未来だと信じて、それしか考えていませんでしたの。ヴィクター様から求婚されて、どうしてか良いお返事を出来ずにいたのに、まだ気づいてなかったんです。本当に愚かだったのです。レオン様との結婚を当たり前に来る未来だと信じていたのは、それこそわたくしの感情が前向きだったからですのに。そんな事もわからないでわたくしったらあんな酷い事を……。わたくしがなにも迷わず、レオン様と結婚する気になれていたのは、全部レオン様がとても優しくして下さったからで……わたくしはそんなレオン様の気遣いにも気づかず自分自分自分ばかりで本当に情けないですわ。婚約破棄されて当然です。レオン様のお気持ちなんてこれっぽっちも考えていなかった、当たり前だと思って胡座をかいていたのです。それに、婚約破棄を考え直して欲しいと何度も言いましたが、それこそ気持ちの押し付けですわよね。やっぱりレオン様のお気持ちを少しも! 考えられてなくてわたくし……」

「ま、待て待て待て情報量が多い上にちょっと傷つくこと言うな⁉︎」

「——っ、やっぱりわたくしって! 本当に! レオン様のお気持ちが考えられないんですのね⁉︎ 待ってくださいまし、どの部分で傷つけてしまいましたの⁉︎」


 レオンにまた一歩近づく。その分また後ろへ下がろうとしたレオンの右手を捕まえた。逃げられないように、両手でその大きな手を包む。


「あ、いや、どこでというわけでは……」

「レオン様、わたくしに至らないところがあればおっしゃってください! お菓子はちゃんと分量を守って作らなければいけないって、前は言ってくださいましたわよね⁉︎」

「は⁉︎ それとこれとは話が別だろ⁉︎」

「わたくしが至らないという点においては同じですわ!」


 レオンが逃げ出したそうに手を引く。それを、レベッカも負けじと引っ張る。


「離せ」

「嫌です」

「レベッカ嬢、今、押し付けは良くないとか反省していなかったか⁉︎」

「もちろん反省しましたけれど、今レオン様に逃げられたらこの関係を終われませんわ!」


 叫ぶように言い切ると、レオンの動きが止まった。

 意を決したように、レベッカの瞳を真っ直ぐに射る。その真剣さに、目が逸らせない。


「そうか、終わらせたいか」

「はい。ですので、わたくしレオン様に言いたい事があるのですわ」

「いや待て、俺もレベッカ嬢には言いたい事がある。奇遇にも、この関係を終わらせるために」


 どくんと胸が跳ねた。

 レベッカが言った事と同じ事を言われただけ。それなのに、あまりにも衝撃を受けて固まってしまう。

 手から力が抜け、レオンの手を滑り落としてしまった。


(レオン様は終わらせたいと思っていらっしゃったのね……当然ですわ)


 それの指す意味は違うのだろう。だとしても、終わらせると先に言ったのはレベッカだ。

 やはり、自分は相手の気持ちをなにも考えられていない。


「あ、あの、待ってくださいまし。わたくし、本当に言いたい事があるんですの」

「俺もだ、レベッカ嬢」

「え、嫌です聞きたくありません!」

「なぜ⁉︎」

「なぜも何もありません! レオン様、わたくし至らないところが山のようにあるんですわ。でも、前向きにお役に立てる妻であろうと思っていました。レオン様はちょっと真面目一辺倒で融通が効きませんが、そういう方にこそその、ちょうど良いというか、足して二で割ったらお互い良い塩梅になるのでは思いますの!」

「融通が、効かない……」


 なぜかショックを受けたような顔をしたレオンに、拘束された時庇ってもくれなかったとつい恨み言を言ってしまう。

 呻いたレオンが頭を抱えた。


「でもレオン様は、いつでも優しくて心配して下さって、良いところがたくさんあります。わたくしにとっては、良いところしかなくて……あの、だからわたくし、えっと、なにを言うんでしたかしら……その……」


 嘘だ、どうしても伝えなければいけない言葉はわかっている。それはたった二文字の言葉。

 それだけの音が、胸の鼓動に邪魔されて出て来ない。


「レオン様には新しい婚約者の方がいらっしゃると思いますけれど、どうしても伝えたくて」


 レオンとはもう会えなくなる。新しい婚約者候補は、婚約者になっただろうか?

 婚約者のいる男性と会ったり手紙を交わすのは、外聞が悪すぎる。レオンのためにも、ここで終わらせなければならない。

 ただ、どうしても自分の気持ちを伝えたかった。

 押し付けなのかもしれない、それでも。


「新しい婚約者? なんだそれは」

「え? 子爵家の令嬢だとお聞きしましたけれど……」

「いつ、誰に⁉︎」

「夜会にご一緒した時、ヴィクター様に……」

「あいつ……!」


 レオンが大きなため息をつき、首をふる。


「そんな存在はいない」

「レオン様に知らされていないだけでは? わたくし達の婚約も、決まってから伝えられましたでしょ?」

「そうだとして、七月の話だぞ? もう十一月も後半だ。こんなに時間が経っても俺が知らないなら、最初からそんな話はなかったか破談になったかだ。おおかた、あいつの嘘だろうな」

「まあ……!」


 ずっと、レオンには新しい婚約者候補がいるのだと思って来た。

 そんな存在は、いなかった……?


(だとしても、同じですわ。レオン様はいつか……)


 いつかその手を誰かと繋ぐのだろう。

 それならば余計に、今言わなければ前に進めない。一生後悔してしまう。


「いえ、そうだとしても伝えなければいけませんわ。レオン様、わたくし————」

「待ってくれレベッカ嬢!」

「んんんッ⁉︎」


 意を決して喋ろうとしたレベッカの口を、飛びつくようにレオンが塞いだ。

 もう一方の腕は肩を支えるように回され、距離が縮まる。胸が飛び跳ねるように鳴り、一瞬で全身が急激に熱くなった。


「なっ、なんでふゅの⁉︎」

「頼む待ってくれ、手を離しても一旦なにも言わないで黙って欲しい」

「とうひゅて」

「俺にもプライドがある。レベッカ嬢、俺の話を先に聞いて欲しい」


 真剣な瞳がレベッカを捕らえる。視線を逸せない。

 そっとレオンの手が離れた。すぐに息を吸い込む。黙れと言われて黙れるわけがない。


「……なにを言われる気なんですの怖い!」

「信用ないな⁉︎ あー、いや、そうではなくて。レベッカ嬢、婚約破棄の件だが」

「嫌です!」

「まだなにも言っていない!」

「終わらせるって先ほどおっしゃったのを忘れましたの⁉︎」

「君もそう言ってただろう⁉︎」

「わたくしはその、後悔したくないのでもう一度万に一つの可能性に賭けてみようと思っていただけですわ! だってレオン様は婚約破棄してからもずっと優しくてわたくしを守ってくれてて、わたくしが何にも知らずにのほほんとしている時もずっとわたくしの無実を信じて色々動いて下さっていて……そうまでして下さってじゃあこれで役目は終わりだなんてあんまりですだからこの元婚約者という立場を終わらせなければいけないのですれおんしゃまわしゃくしむもごもごも」


 再びレオンの手がレベッカの口を塞いだ。


「あぁもう! レベッカ嬢、婚約破棄は撤回させてくれ!」

「ひぇ……⁉︎」


 自分でも何を言おうとしたのか、変な音が喉から漏れた。

 レオンの手が再び離れる。

 思わず俯いてしまい、今度は顔を上げるタイミングを失う。

 視界には、レオンの手。


「こっちを、見てくれないか」

「は、はい……」


 おそるおそる視線を上げると、真っ直ぐで強く美しい、伝説の獣のような瞳がレベッカを射る。


「レベッカ嬢、いや、レベッカ。俺と結婚してくれ」

「ほ、本気で、言って、らっしゃいますの……?」


 どくん、どくんと鼓動が跳ねた。頭がぼうっとしてくる。

 望んでいた言葉だった。それなのに、驚き過ぎて何も言葉が浮かんで来ない。まるで時間が止まったかのよう。

 終わらせると言ったレオンの言葉は、その意味は、自分と同じだったのだろうか。


「ああ、本気だ。必要なら、アヴァロ男爵やスタンフィールド子爵にひざまずいて謝罪する」

「そんな、いけませんわ……」


 それ以降、なにも言葉が出て来ない。ただ、鼓動だけがあまりに早く暴れている。

 思考がまとまらない。レオンは、結婚してくれと言ったのか?


(夢ですの……?)


 そっと自分のほおを両手で包んだ。熱い。ほおが。

 試しに左手でほおをつねった。もちろん痛い。


「夢ではないんだが」

「そんな事を言われるとは思っていませんでしたの……。わたくし、レオン様の気持ちをちっとも、考えていませんでしたのに……」


 レオンが小さくため息を吐いた。


「前に言っただろう。君が、笑っていても泣いていても、好きな事をしている姿が好きだと。君はそのままでいい。俺の気持ちを考えて君を失わないでくれ。そういうところを含めて好きなんだ」

「す……」

「俺が、俺の気持ちを考えない奴は駄目だと思うような、狭量な男だと思われていたのは俺の落ち度だ」


 そんな事を思ったことはない。ただ、自分の至らない点を思い知っただけだ。

 それなのに、レオンはその欠点すら好きだと言ってくれるのだろうか。


「俺は最初から、君のことが好きだった。まるで太陽のようで、君がいる世界は明るく楽しかった。君に会えるのが嬉しかったし、婚約破棄なんて考えた事もなかった。結婚するのを、実は楽しみにしていた。こうして、最初から君に俺の気持ちを伝えていれば良かった。俺の方こそ至らなかったんだ」

「あの……」


 最初から?

 だとすれば、レベッカがレオンになんとも思っていないと言ってあんなに怒ったのは……。


「ご、ごめんなさい……!」

「嫌ならいいんだ。俺の気持ちを伝えたかっただけだから」


 レオンの瞳が優しげに、そして少し寂しそうにレベッカを見つめた。

 柔らかに浮かんだ笑みに、胸が締め付けられるように疼いた。

 嫌だなんてあるはずがない。レオンとの未来を、彼と共に叶える夢を諦めなくていいのだ。その事が、じわじわと身体に染み込む。


「ちが……」

「ん?」

「違いますレオン様!」


 慌ててレオンの手を取る。どっと時間が押し寄せ、レベッカの胸に明るい光が灯った。

 レオンの手のぬくもり。それを感じ、たまらずその手をぶんぶんとふってしまう。


「とっても嬉しいです!」

「……本当か?」

「とっても嬉しくなるとこうしたくなるんですの! でも、それはレオン様にだけです」


 レオンの空いた手が、そっと添えられた。二人で手と手を握り合う。


「レオン様! わたくし、レオン様が好きです」

「……そうか」


 レオンが戸惑ったように小さな笑みを浮かべた。

 その戸惑いを吹き飛ばすように、大きく頷く。


「わたくし、レオン様と結婚する事を当然だと思っていましたの。そこに、特別な感情はないと思っていました。でも、違ったんですわ。当然と思うほど、わたくしの気持ちが前向きだったのです。いつも優しく、笑って話を聞いてくださるレオン様だからこそ結婚したかったのですわ。他の誰でもなく、レオン様と。わたくし、最初からちゃんとレオン様のことが好きだったのです。なのにわたくしったら、レオン様が婚約破棄してくださらなければそんな事にも気づかなかったかもしれません。だから、良かったんですわ。わたくし、ちゃんと自分の気持ちに気がつけました、レオン様が好きです」


 レオンが破顔した。それにつられて、レベッカの顔にも笑みが浮かぶ。

 胸に灯った光が、波のように身体中を照らしていく。


「光栄だ」

「だからレオン様、わたくしと結婚してくださいまし!」

「あははは、それはさっき俺が言ったんだが」


 たまらずという風にレオンが吹き出し、二人でひとしきり笑う。

 同じ気持ちだった、それが心から嬉しい。


「わたくしは、何度も言いましたわ。婚約破棄は考え直して下さいと」

「そうだったな」


 レオンの手が、そっと離れる。そう思った次の瞬間に、レベッカはレオンに抱きすくめられていた。

 息が詰まる。胸が早鐘を打ち、思考が止まる。ただ感じるのは、全身を包む温もりと、全身を染め上げる熱。

 そして、光。


「やっぱり嫌だと言ってももう聞かない」

「言いませんわ。わたくしレオン様とずっと……一緒にいたいです」

「もう遠慮しないぞ」

「……はい」


 そっとレベッカを解放した手が優しくほおを撫でた。優しく細められた瞳に目を奪われる。

 その瞳が近づき、額に小さな口付けが落とされた。


「わ……」


 驚いているうちに次は唇へ。

 触れ合った柔らかな感触に、一瞬で顔が熱くなる。


「結婚しよう、レベッカ」

「はい!」


 胸がいっぱいになる。

 レベッカの夢の隣にはいつでもレオンがいた。レオンと一緒だから叶えたい夢だった。


「そうと決まればこうしてはいられないな。アヴァロ男爵に謝罪しに行こう」

「えっ⁉︎」


 さっとレベッカの手を取り歩き出したレオンに、驚きつつも笑みがこぼれる。

 父やスタンフィールド子爵には、自分からもお願いしよう。一人娘のレベッカを可愛がり、相応しい相手をとレオンを選んだのは父だ。きっと反対などしないだろう。

 これから、レオンと共に生きる。その第一歩を、今から踏み出すのだ。


「レオン様、わたくしレオン様といい夫婦になる自信がありますわ!」


 ふり返って瞳を細めたレオンが、柔らかく笑った。その瞳の優しさに、またレベッカの胸が跳ねた。

 繋いだ手から伝わる熱が、お互いの存在を鮮明にする。


「奇遇だな、俺もだ」




【レベッカの商人ライフ奮闘記・完】

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