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レベッカの商人ライフ奮闘記〜婚約破棄から始まる恋と靴と陰謀の物語〜  作者: 華空 花
第二章 わたくし軍靴を売ろうかしら⁉︎
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13.わたくしも何かしたいわ

 賑やかな子供たちの声が通りを歩くレベッカの耳に入って来た。

 カレン通りから横へ逸れた場所にある孤児院。その庭に、カラフルな布で飾り付けがされている。そこに簡易的なテーブルを並べ、その上にはさまざまな小物が並べられていた。

 子供たちが、通りを行き交う人々に声をかけている。何人かのご婦人たちが、庭へと入って行った。


「まあ、バザーだわ」


 孤児院にとってバザーは、資金調達や寄付を募る意味が大きい。

 しかし当の子供たちには、自分たちが一生懸命作った品物を提供する場でもある。


「わたくしも覗いて行こうかしら!」


 物が売れるのは嬉しいものだ。自分で作っていなくてもそうなのだから、ここの子供たちにとっては格別嬉しいことだろう。

 それに、作り手の顔が見えるのはレベッカにとって嬉しいことだった。大量売買などではなく、売る相手の顔が見える商売をしたい。そう思って考えたのが貴族に靴を売ることだったのだから。


「まだ時間はあるし、ちょっとくらい良いですわよね」


 スカートのポケットから懐中時計を取り出し、時刻を確認する。まだ時間に余裕はある。

 レベッカは、これからカレン通りの靴職人エンリケから、軍靴の試作品を受け取ることになっていた。その足で、ヴィクターと会うのが今日の予定だ。

 ヴィクターは、軍靴の試作品が出来たら連絡してと言ってくれていた。その言葉に甘えて手紙を書くと、すぐに会う日程を調整してくれたのだ。


「こんにちは! バザー見て行きませんかー!」


 庭の入り口で元気良く声をかけてくれた少女に導かれるようにして庭へと入る。

 庭には子供たちと、職員と思われる数人の大人がいた。中には老婆の姿もある。

 こっちこっちと子供たちに手招きされ、商品の前へと進む。


「素敵な物ばかりですわね!」


 レースのハンカチ、刺繍入りの小物ポーチ、香袋、手作り石鹸、キャンドル……全て手作りの品が並んでいる。たどたどしい作りのものもあるが、それが味になっていて可愛らしい。


「ほんと?」

「ええ。このレースのハンカチはどなたが作ったの? とてもお上手だわ」

「わたしです!」


 元気良く答えたのは、十歳をいくらか過ぎたころの少女だ。孤児院の子供たちの中では年長の年頃だ。


「手先が器用なのね、とても綺麗に編めてますわ。良い職人になれると思います!」

「えへへ……ありがとうございます」

「一枚下さらない?」


 笑顔で頷いた少女が、ハンカチを手に取る。言われた金額を支払い、レースのハンカチを受け取った。

 その隣にあるのは刺繍の入ったポーチだ。少し歪ながらも、可愛らしい花が刺繍されている。

 その隣になるのは香袋。匂いをかいでと促されて匂うと、華やかなハーブの香りがした。


「これラベンダーね。良い香り」

「そうだよ、僕たちが育てたんだ」


 得意げにそう言うのは、十歳頃の男の子だ。その脇から、ローズマリーとオレンジの皮も入っているよと別の子が教えてくる。

 その自慢げな様子に、皆で楽しく作成している所が目に浮かぶようだ。

 次は手作り石鹸とキャンドル、その横にはお手製の飾り付けをした紙に詩が書き付けられていた。子供たちが書いたものだろう。

 その中の一枚を手に取る。


『夜空から降る光の粉

 鮮やかな夢を彩る

 神のおくりもの


 明日の良い日に向かう

 御舟に乗り込めば

 魔法の時間が訪れる


 まあるい夢の中へ

 僕たちは飛んで行く』


 幻想的な表現の詩だ。孤児院ではあるが、ちゃんとした教育が行き届いているのだろう。でなければ、実用的でない詩的な表現までは使いこなせない。


「とても素敵な詩ね。うっとりしちゃうわ」

「えへへ……」


 もじもじと下を向いた少年が書いたのだろう。年齢は十歳を過ぎた頃だろう。


「この詩もいただこうかしら……あら、ところで」


 お金を払おうとするが、値札はない。

 テーブルの上を見渡すと、全ての商品に値札がないようだ。にこやかにテーブルをのぞきこんで談笑しているご婦人方も、値札がないからなんとなく通り抜けている雰囲気がある。


「どれも幾らかわからないわね。値段を暗記しているの?」

「僕が全部覚えているんだ!」

「まあ、すごい才能! でも、お客様が幾らするかわからないと買いづらいわ」


 値札がないせいで、ぱっと見は売り物かそうじゃないか区別できない。これでお客を逃したら、素敵な品物ばかりなのに勿体ない。


「紙とペンはあるかしら? ちゃんと見てわかるようにお値段を書きましょう! そうだ、ねえあなた」


 詩を書いた少年を覗き込む。


「ここに並んでいる商品に、素敵な名前を付けてくれないかしら」

「名前……?」

「そう。ほら、例えばこのキャンドル。夜に使うものよね。あなたのイメージでは、どんな感じ?」

「うーんと、静かかな。でも、火は風もないのにどうしてか揺れてるんだ」


 暗闇に浮かぶ火がレベッカの中に浮かぶ。その火は、たしかにゆらゆらと揺れている。


「どうして揺れているのかしら」

「きっと妖精が通っているんだよ。光を見に来るんじゃないかな」

「良いわね! じゃあ、妖精を呼ぶキャンドルね!」


 わあ、と子供たちから声が上がる。


「よし、じゃあ値段と一緒にそうやって名前も書いて行きましょう。素敵な名前があればもっと売れますわよ!」

「紙とペン持ってくるー!」


 数人の子供が孤児院の中へと駆け込んで行く。

 その背を見送り、ふと視線を感じてそちらに顔を向けた。


(あら……?)


 庭の端に、大柄で逞しい体躯の中年の男がいた。一瞬目が合ったものの、すぐに男はレベッカから視線を逸らす。

 そこまで上質な布ではないが、それなりに品良く仕立てられた黒いシャツを身にまとっている。職員かもしれないが、孤児院にはおよそ不釣り合いな風貌だ。

 彼の視線は、紙とペンを持って戻って来た子供たちに注がれる。

 わいわいと商品に名前を付け、値札を書いていく子供たち。その姿を見る男の瞳がゆるんだ。


「ああ、フェルドさん! こちらにいらしたのね」


 その男に歩み寄って来たのは、老婆だった。おそらく、この孤児院の経営者なのだろう。

 その老婆は、男へ深々と頭を下げた。


「いつも本当に多額の寄付をありがとうございます」

「よしてくれ、当たり前の事をしているだけだ」


 男の表情が引き締まり、老婆の頭を上げさせる。


(あの方がご寄付を……立派な方ですのね)


 レベッカは、こうしてバザーに立ち寄る事はよくある。アヴァロ商団からも、各地にある孤児院にたまに売れ残った服などを寄付することはある。

 それでも、レベッカ本人がなにかをしてあげた事はない。

 彼らは笑顔だが、孤児院にいるということは親がいないのだ。それは、レベッカには想像も出来ない境遇だった。辛いことがあった子も多いだろう。


(わたくしにも、なにかしてあげられる事があればいいのに)


 平民とはいえ、レベッカは実家が太くかなり裕福なのは事実だ。富む者はそれなりに世に貢献しなくてはとも思う。

 だが今のところ、レベッカは自分の力だけで稼いでいるわけではない。商団の手伝いは進んでするし、それで得たお金もあるが、純粋な自分の力ではないのは明らかだし金額も必要な分だけしかない。

 少なくとも、あのフェルドと呼ばれた男は多額の寄付をしている。この場で、最も孤児院に貢献している人物だろう。


(軍靴が売れてお金が出来たら……でも、それだけ……?)


 最初から寄付できるほどお金になるとは思えない。

 それに多額の寄付は、フェルドがしている。それならば、自分は自分のできる事をやりたい。


(軍靴が採用してもらえたら、たくさん作らなければいけませんわ。すぐには無理でも、いつかはパーツごとの担当を決めて流れ作業で作る方が早い。それには職人が必要ですわね。手に職を付けるのは、将来にも良いのではないかしら)


 老婆と話していたフェルドが、再び子供たちに視線を向けた。

 子供たちが駆け寄り、この名前見て! と値札とポーチを見せている。

 それに目尻を下げ、フェルドが頭を撫でる。子供の嬉しそうな声が響いた。

 当たり前のことをしているだけ。その言葉が、真実なのだろうと思えるような、無骨ながら優しい笑みだ。本当に子供たちのことを考えているのだろう。


「わたくしも、あの人みたいに立派にならなくてはいけませんわ」


 簡単な職業体験を通して、彼らがやりたい事を見つけるのもいい。そのやりたい事が支援できるならそうしたい。

 もちろん、靴職人になりたいという子がいたら大歓迎だ。


「それにはまず軍靴を……あっ!」


 慌てて懐中時計を取り出す。まだ約束の時間までは少しあるが、軍靴の試作品を取りに行くならギリギリだ。

 先にヴィクターと落ち合ってもいいが、その後軍靴を取りに行くのに付き合わせることになってしまう。ヴィクターはそれでも良いよと言ってくれるだろうが、効率が悪いことは否めない。

 まだ詩を買えていないが行かなくては。


「素敵なハンカチをありがとう!」


 子供たちに手をふり、レベッカは孤児院の庭から小走りで出た。

 約束しておいて遅刻など、頼み事をする身として最もやってはいけないことだ。


「間に合うと良いのですけれど……!」


   * * *


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