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1月 ドラフトウィーク初日



 大村さんと別れた後、俺とマリノはドラフト前の全体フリーミーティング、通称『お見合い会』が行われるホールに向かっていた。ハルカさんは俺たちには何事も経験だからと言っておきながら、自分はああいう場は苦手だから遠慮すると帰ってしまった。どうしても周りから色眼鏡で見られるのに抵抗があるのだろう。

 壁面ボードには候補生たちの意向調査の結果が貼り出されて、誰がフリーで、誰と誰がユニットを組むというのが一目でわかるようになっている。正規軍や教育隊からもパートナーがいない騎士や精霊術士が来ていて、その調査票も貼り出されていた。調査票には自己アピールや希望する相手の条件などが書かれていて、これを見て相手を探す。文字通り騎士と精霊術士のお見合いのようなものだ。

 今日はアルコールこそないが、終日軽食の出る懇親会形式で相互理解を深めてユニットの成立を促そうという場らしい。意気投合すれば、駐屯地や士官学校の施設などを使って実技の確認もできる。

 ボードを見たら、さっき提出したばかりの俺たちを含めてまだ載っていない候補生もいるようだ。

 奥のほうでは俺たちを見つけた岸本、古賀さん、三澤さんが一つのテーブルを囲んで手を振っていた。


「え?内藤君も宮本さんもユニット決まっちゃったの?」


 三澤さんは手に持っていたクラッカーを取り落としていた。そんなにショックなことだったのだろうか。

 そういえばボードに貼られているフリーの騎士の中には三澤さんの名前もあった。


「うん、ボクとハルカさん。あ、浅野教官のことね。とミズホの3人で組むようにって。なぜか少佐になった大村さんから」


「大村さんが少佐?」


「そ、出戻りの少佐で参謀なんだってさ。第一大隊があんなになって師団再編で人が足りないから、退役した人たちにも声かけてるんじゃないかな?」


 話ながらも、クラッカーをつまみ食いしているマリノはなんだかリスみたいだ。


「へー、お前らが浅野教官とユニット組むのはそれほど驚かないけど、大村さんの少佐と浅野教官の呼び方が変わってるのにはびっくりだな」


「大村さんが、ユニット組むのに他人行儀でうっとおしいから敬語禁止、名前で呼び合えって」


 一応、俺とハルカさんのことは当面黙っておこうということになった。隠し事が得意なタイプではない自覚はあるので、ボロが出るのは時間の問題だろう。


「なるほどね」


「岸本はやっぱり古賀さんと組むの?」


 二人ともフリー、ユニット成立済みのどちらのボードにもまだ名前はなかった。


「やっぱりってなんだよ。・・・そうだけど」


 岸本の隣に座る古賀さんは恥ずかしそうにうつ向いている。

 二人とも仲良かったもんな。良かった良かった。


「はぁ~。相手が決まってないの私だけじゃない」


「横や・・・」


「絶対にイヤ」


 マリノの言葉をはっきりと遮ったな。

 そりゃ席次の関係で仮ユニットだったとはいえ、横山はありえないか。あいつに背中を任せるくらいなら、一人のほうがマシだ。

 普通は士官学校での訓練期間中に何回か仮ユニットは組み合わせを変えるはずだと大村さんからは聞いていたが、今年は豚教官の一存で固定だった。


「そういえば、シエラちゃんたちは中隊規模の陣形訓練とかやった?」


「やるのはやったけど、教本に出ているのとは違ったからよくわかんなかったわね」


「横山教官のオリジナルみたいだけど」


 オリジナルって・・・。まずダメな奴だな。


「また浅野大佐キレそうだね」


 ともかく陣形訓練できてないのが俺たちだけじゃなかった。三澤さんと、古賀さんの話に申し訳ないけど内心ほっとしてしまう。


「ねぇ。少佐が今年の候補生の半分は再訓練って言ってたけど、アレどうなるのかな?」


 マリノが俺の耳元でささやく。

 半分が再教育ってことはいくら候補生の内々でユニット組んでも、どちらか片方でもダメ出し喰らったら意味がなくなる。


「わかんない。いまの陣形訓練の問題も出そうだし・・・。いつ発表するんだろうな」


 俺も周りに聞こえないように小声でささやく。


「このリア充どもがぁ」


 机に突っ伏した三澤さんが恨みがましい目で俺たちを睨む。三澤さんもこの数か月でずいぶん砕けて、中学のころのお澄まし優等生の印象はかなり薄れた。


「あー、宮本さんはフリーだと思ってたのにぃ」


 もっと早く言っておけば良かったのにとも思うが、豚教官がやかましかったから無理もないか。豚教官、ユニットも自分のいう通りにしろみたいな雰囲気があった。だから、三澤さんも豚教官が影響力を発揮できないドラフトまで言い出せなかったのだろう。


「ちょっと、シエラちゃん。それって失礼。残るならブービーのミズホじゃないの?」


 マリノも失礼だと思う。


「だって、内藤君は浅野教官と組むかなって思ってたから」


 おっと、ど真ん中ストライク。


「それは僕も同感。というか内藤付き合ってるんじゃないの?」


「そうそう、冬休みの間、毎日のように仲睦まじそうにご飯とお風呂に行ってたって寮母のおばさん言ってたわよ。教官と候補生の秘めた恋って素敵ねぇって」


 古賀さん、何もうっとりしながら言わなくても。


「ほら」


 三澤さんまで。


「・・・ナニソレ?ボク知らない」


「・・・」


 おばさんどうして知ってるの?

 仲睦まじいって?

 そしてなぜ古賀さんに話しちゃうの?

 4人の視線が痛い。


「えっと、たぶん、それは、おばさん、の、見間違・・・い」


「な、わけないじゃない。おばさん、冬休みの間親戚のやってる小料理屋を手伝ってて毎日見かけたって」


 万事休す・・・。


「ミぃズぅホぉ?」


 マリノが俺の服の襟首をつかんでくる。


「うん、断じてやましいことはないぞ。休みの間、ずっとハルカさんの訓練に付き合ってただけだから。で、そのお礼に晩御飯を奢ってもらって、いつもの流れで銭湯行ってただけだから」


 どうして浮気がバレた男みたいな言い訳をマリノ相手にしなければいけないのだろうか。

 しかも迫ってきてて微妙に顔近いし。

 ともかく付き合っているのはハルカさんのはずであって、マリノではない。


「なら、最初からそういえばいいでしょう。どうせ、ミズホにハルカさんをどうこうできるような度胸があるとは思ってないし」


「宮本さんは内藤をよく見てるねぇ」


「で、教官と実際のところはどうなのよ?」


 古賀さん、引っ張るなぁ。三澤さんも何をそんなに期待してるの?三澤さんのそんなにワクワクした表情初めて見たよ。


「分かったよ。しゃべるよ。しゃべるから。大きい声出さないで」


「あれ?いいの?」


 まぁこの面子ならいいだろう。あちこち言いふらしたりしないだろうから。


「マリノちゃんは知ってるんだ」


「成り行きでね」


「この面子だけなら大丈夫でしょ。その代わり他言無用で」


「驚いちゃダメだよ?」


 うなずく三人。


「えっと、実は・・・」


「三澤ぁ!なんでお前フリー宣言出してんだよ。俺とユニット組むはずだろ!」


 覚悟を決めた時に横から息を切らしながら乱入してきた奴がいる。横山だ。


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