1月 副官の憂鬱 その2
「では失礼いたします」
ブランクを感じさせないきれいな敬礼を残して大村少佐が退室しました。
あの三人にいろいろ説明してもらうには顔なじみの少佐は適任でしょう。
三人そろっての命令無視に、自殺まがいの神風アタック。あの三人に対しては私もいろいろと思うところもあります。
しかし、あの三人がいなければ人的被害が無視できないレベルになっていたことも間違いないので、私としても態度に困るところです。軍人としてはあのような行動は決して正当化できるものではないのですから。結果良ければすべてよしとはいきません。
おかげで報告にもどう書いたものか中佐と二人、ずいぶん頭を悩ませたものです。まぁ結局、部隊員には箝口令を出して、報告書は夜間戦闘を口実に詳細不明で経緯をほとんど書かずに済ませたのですが。
浅野少尉は御津の時の印象とはずいぶん変わりましたね。
私にも経験がありますが、常に命のやりとりを行う我々軍人にはよくあることです。ぶち当たっていた壁を乗り越え、文字通り一皮むけた印象です。まだまだ母親とは格が違うようですが、それは比べるのも酷というものでしょう。
しかし。
大佐は公私混同がどうのと浅野少尉を怒鳴りつけていたわりに、どさくさに紛れてしれっと自分の娘を内藤候補生の嫁に押しこみやがりましたね。
これだから『鬼女』は・・・。
ここのところ昼行燈で通していましたが、まだまだ衰えてないです。
内藤候補生は放出系の威力は最低レベルに近いようですが、詠唱速度とコントロール精度は目を見張るものがありますし、どうも索敵術など希少な能力にも長けてようです。本人たちの相性もよさそうですし面白い子を選んだものです。跡取りは長男がいたはずですが、これで浅野家はますます安泰というわけですか。
それに三人編成のユニットも珍しいですが例がないわけではないですし、御津では三人の役割がはっきりしていて連携は良く取れていました。軍としても優秀なユニットを確保できるというメリットもありますし、判断としては間違いないでしょう。
あー私もさっさと結婚したいわ。
「近藤中佐、あの三人は貴様の第一大隊に預ける。うまく使いこなしてくれ」
「は、よろしいので?」
「かまわん、こき使ってやれ」
ということは、副官である私が面倒を見ることになるのでしょうか。
近藤少佐が中佐に昇進、大隊長に昇格したばかりで、まだ部下の把握も出来ていないというのに、個別戦闘力が高いだけで集団戦闘のできないユニットを押し込まれるとはまた厄介な話です。
・・・いや、内藤候補生の索敵術はAクラスはありそうですし、浅野少尉と宮本候補生がいるからユニットとしての戦闘力は期待できます。むしろ哨戒、遊撃にはかなり有効ですね。師団長の意図はそっちですか。
ただ・・・。
「なんだ河野」
おっと、勘のするどい女性です。
「あのユニットは哨戒、遊撃には高い成果を発揮すると思いますので、小隊中心で活動させたいと思います。小隊編成については後日ご報告いたします。ただ・・・」
「なんだ」
「ユニットリーダーについてですが」
「ハルカでは役不足だろうな」
自分の娘でも依怙贔屓なしに評価するのはさすがです。
浅野少尉はきわめて優秀な騎士ですが、御津演習場の一件を見る限り内藤候補生のほうが視野が広く判断能力が高いように見えます。索敵術で戦況が把握しやすいと言うこともあるのでしょう。戦闘能力と指揮能力はイコールのものではないのでよくあることです。経験値が低すぎるのがネックですが、これは周囲がフォローして促成栽培するしかないですね。
「内藤で構わん。ハルカも文句はないだろう」
「は、ではそのように」
「御津周辺で魔獣の動きが活発化しているようですな。わが新生第一大隊はそちらへ対応すると言うことでよろしいですか?」
「それでいい。これ以上北側を食い荒らされるのは好ましくない。ドラフトでも使えるやつがいれば優先的に採って構わん。とにかく第二、第三、第四からこれ以上抜くわけにもいかん。しばらく現状維持が精一杯だ」
師団長も内心頭を抱えているのでしょう。第一大隊を再編するのにずいぶん異動させましたからね。どの大隊も定数には程遠くなってしまいました。その分優先的に再編した第一大隊に負担が来るのはやむなしです。
「ただし。部隊にも市民にも被害を出すことは許さん」
無茶を言ってくれます。
前の師団長相手なら現場の苦労も知らないデスクワーカーが、と言い返したいところですが、鬼女の場合現場を熟知しているからこそ出てくる言葉なので仕方ないですね。
「全力を尽くします」
中佐の敬礼に従い、私も続きます。
当分、忙しくなりそうです。




