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16/22

1月 ドラフト会議



「いよいよドラフトウィークだな」


「ペア指名されなかったらと思うと緊張しますよ」


 今日の午後から来期のユニットのペアや配属を決めるドラフトが隣の駐屯地で始まる。

 さまざまな事情でペアのいない騎士団の上位者が希望する相手を指名し、相手が同意すれば騎士団の最低単位であるユニットになる。毎年戦死や退役、相性問題でのペアの解消など、それなりのユニットが組みなおされるので一日や二日では終わらない。さらにユニットの再編で部隊毎の編成バランスが崩れてしまうので、ユニットの指名権を持つ大隊長、中隊長がユニットを指名することで調整していく。例年これに1週間程度かかることになるそうだ。

 今はドラフトで提出する書類の最後のチェックをしてもらうのに教官とマリノと三人、朝から談話室の片隅に集まっている。

 談話室には他にも書類の相談をしたり、記入をしている候補生が何人もいる。


「ほんとに。教官がボクたちのどちらか指名してくれればいいのに」


「みんなにずいぶん迷惑をかけたからな」


 教官は三月の兵役義務の終了に合わせて除隊することをマリノにも告げていた。

 マリノも教官が除隊するなんて思っていなかったみたいで、ずいぶん驚いていた。

 マリノも教官が現場復帰して俺かマリノのどちらかとユニットを組んでくれることを期待していたようだ。

 教官は自分も提出する書類のドラフト意向欄の『その他』に〇をしている。

 俺とマリノは『フリー』に〇を付ける。『ユニット内定済み』に〇ができるやつがうらやましい。


「でも、この情勢下にですか?」


 一般に騎士や精霊術士で二年の兵役だけで辞めるものはほとんどいないと聞いた。待遇がいいし、三〇歳まで現役続行していればそれなりの年金が付くのが一つ。いくら騎士や精霊術士といえども経験に乏しいと民間でも選択肢が限られてしまうからという現実的な理由が一つ。

 それでも二年で除隊するものがいないわけではなく、背景の事情が何もなければ、騎士がめずらしく二年の兵役だけで除隊するというだけの話だ。

 ただ、この二か月で俺たちを取り巻く環境は大きく変わっていた。

 岡山県に所属する騎士団は全部で八個師団。各師団にそれぞれ四個大隊。一個大隊あたり定数として騎士と精霊術士が七二人ずつ、計一四四人が所属している。

 俺たちの所属しているのは岡山中央師団なのだが、所属する大隊のうちの一つが魔獣狩りに失敗して大きな被害を出してしまっていたという話が正月の休み明けになって伝わってきた。

 噂ではどうも第一大隊が御津演習場近辺へ出兵して大損害を出し、大隊長を含む八〇名近くが戦死。生き残った者も半分近くは現場復帰は難しいレベルでの重症らしい。

 下っ端の俺たちにはよくわからないが、出兵を決めたお偉い人たちは責任問題で引責辞任したり、部隊の再編制で正月返上で大わらわ。と言う話を大村さんから聞いた。一体どこからそんな話を仕入れてきているのだろう。


「除隊願いを出したのは第一大隊の話を聞く前だったからな。どちらにせよ御津の一件は賞罰なしで済んだとはいえ、私の行為は明らかな命令違反だ。私が原因で陣形が崩壊する可能性だって高かったし、他人がやっていればぶん殴ってでも止めるところだ。部隊全体を危険にさらすような兵士は不要だ」


 思い出しているのか、うつ向いて目を伏せている。


「教官の仕事までは投げだすわけにいかなかったが、自分なりに責任はとりたいんだ。昔だったら切腹ものだな」


 最後は冗談めかして腹を斬る真似をするが、目は笑っていない。

 寂しさはあるが、今の教官の表情を見ていると、とても止められるものでもない。俺がもうちょっと大人だったら翻意させることができたんだろうか。


「辞めた後はどうするんですか?」


「これ以上勝手気ままに生きるわけにもいかないから、実家に戻って両親の選ぶ相手と結婚になるだろうな」


 教官ほどの騎士だ。その血を残すという意味でも是非にという相手は多いだろうな。

 年末にペアの件でフラれたとはいえ、御津の件の後いろいろな一面を見せてくれるようになった年上の女性にほのかな憧れ以上のものがあるのは自覚しているので、改めてそういう話を聞くのはちょっとこたえるものがある。


「どんな相手を紹介されるかわからんが、家庭に落ち着くのも悪くない。子供のたくさんいる明るい家庭。笑われるかもしれないけど、小さいころからそれが夢だったんだ」


「わかります!教官の好みの男性ってどんなタイプなんですか?」


 マリノが食いついてる。女同士通じるものがあるのだろう。

 初めて会った頃なら何を似合わないことをと思うけど、今の教官なら腑に落ちる。


「私か?相手となるとどうしても甲種持ちになるだろうが、私は優しければそれで十分だな」


「やっぱり優しさは必須ですよねー。教官ほど美人で強ければ相手も選り取り見取りですね」


「どうだろうな。私は凶状持ちだからな」


 教官の顔が一転して曇る。

 ときどき感じる教官のコンプレックス。まだまだ根深そうだ。いつか完全に吹っ切れてくれるといいんだが。

 『死神』の二つ名はまだみんな覚えている。

 実は演習場の一件も教官のイメージにはマイナスだ。

 命令無視に、正気を失ったかのような猛戦ぶり。人の口に戸は立てられぬとはよく言ったもので、他の師団にまで噂が伝わって最近で『狂狼姫』なんて言うやつもいるらしい。

 さらにはラーメンを食べに行った時の暴漢退治の一件もいつの間にか広まっていて、悪い意味ですべて教官がやったことになっていた。そこまではいいのだが、今度は『男殺し』と陰口をたたかれているらしく、豚教官が本人のいないところで言いふらしているのを聞いた時にはコイツの股間にもカマイタチをぶち込んでやりたい衝動を抑えるのに苦労したものだ。

 直接教官に接している俺たちと違って、噂しか知らなければ教官と結婚したいと思う男は少ないかもしれない。


「じゃあ、ミズホなんてどうです?優しいし、教官のことも良く知ってるし、いいんじゃないですか?」


 おーい、マリノさん・・・。

 いきなり何を言い出すんだ。できれば今更もう触れないでほしんですが。


「宮本だって、兵役終わってお互いフリーだったら内藤と付き合うって言ってただろう。嫌いじゃないんだろ?」


 そういやいつだったか雑談でそんなことを言っていたかもしれない。


「そりゃそうですけど、二年も先なんてどうなるかわからないし、万が一そうなってもボクたち甲種持ちは重婚できるから別に気にならないというか」


 万が一ね。

 もし、俺と教官が付き合ようになったらお互いフリーという条件には当てはまらない気がするが、突っ込みは止めておこう。


「仮に内藤と私が良かったとしてもうちは母が難しいからな。母が持ってくる話じゃないとまず無理だな」


 教官の家のような話は他でもよく聞くことだ。

 騎士、精霊術士としての能力の発現がある程度血統によるものだと分かっているから、男女ともに甲種合格者は重婚が認められている。これを目当てに甲種合格にあこがれる思春期の男は多い。

 中には貴重な騎士、精霊術士の血統を残すために品種改良の交配のように結婚相手を選ぶ家もあるらしい。

 そういったケースでは女性は本人の意志で相手を選ぶのは難しい傾向にあり、逆に良血と言われる男性は複数の女性を選んで結婚することも多いそうだ。ほとんど種牡馬と牝馬の関係みたいな扱いだ。

 そんなだから若い男なら甲種合格にあこがれるのも当然だ。実は俺も合格するまではそう思っていた。今は予想以上に命がけだということを思い知ったのでそれどころじゃない。

 そこまで相手を選んだとしても能力の発現は血統が一〇〇パーセントでもないので、甲種持ちの両親から生まれた子供が甲種になれなかったりすると離婚騒動になることも多いそうだ。そう言えば中学の同級生の原田の両親も甲種持ちだったはず。どうだったのだろうか。

 家柄のいい家庭に生まれるのもいいことばかりではないなと正直思う。


「甲種の血でなければ、好きに恋愛できたのかもと思うと多少恨めしくもあるな」


「あ、私もそれ思います。お母さんさえなんとかすれば、脈ありだよ。ミズホよかったねー」


 教官に同意しているということはマリノの家も両親がうるさいのだろうか?

 それにしても、当事者を前にして、当事者を無視して話が進んでいくガールズトークの恐ろしさよ。

 教官に好意的に思われていることはうれしいのだが、どうも仮定に仮定を積み重ねた見込みのない話でマリノに振り回されている気がして仕方がない。


「脈ありって、俺にどうしろと・・・」


 高嶺の花で、家柄が良くて、両親は厳しいというハードルに対して、こちらはまだ兵役1年目にもなっていない候補生の農家の三男坊。しかも、評定は最悪で精霊術士になれるかどうかも怪しい成績の人間には荷が重い。多少の努力でどうにかなるような問題ではない。男なら強引にでも好きな女をモノにしろというが、そこまで情熱的な人間ではないという自覚はある。

 身の程を知れ、人間諦めが肝心っておばあちゃんが言ってたしな。と、自分に言い聞かせる。


「駆け落ちするとか!」


 無茶苦茶言うな。ユニットですらフラれてるのでいい加減勘弁してほしい。俺のメンタルが持たない。ほんとに勘弁してほしい。言い返す気力もなくなってきた。何年後かに笑い話にできるといいんだけどな。


「浅野少尉、内藤候補生、宮本候補生」


 誰かと思ったら、見覚えのある精霊術士が俺たちの名前を呼んでいた。以前合同演習で会った記憶がある。確か副隊長だった女性、そう河野大尉だ。


「師団長がお呼びです。すぐ駐屯地の大隊長室まで来てください」


 三人して顔を見合わせる。

 そんなお偉いさんに、呼び出しを食らうようなことはしていないはずなのだが・・・




 そのまま隣接している駐屯地に連れられて行って、案内された大隊長室という札のついた部屋に入ると、正面の大隊長が座っているはずの席には、見たことのない四〇代半ばと思しき野性味あふれる女性が足を机の上に投げ出して座っていた。

 凄みのある美女で、ものすごい威圧感を放っている。眼光も鋭く、はっきり言って、怖い!としか表現できない。脚がすくみ上って、へたり込みそうなくらい怖い。

 教官もマリノも見たこともない上官にガチガチに緊張しているのが伝わってくる。

 顔だけは知っている大隊長、中隊長格の人たちが両側にしかめっ面で整列している。なぜだか難しそうな顔をした大村さんもその列にいる。

 三人で呼び出されるということは多分御津での命令違反がらみだとは思うけど、師団長に呼び出されるほどのことではないはず。

 ともかく、この場の空気から察するに、いい話でなさそうなことだけは分かったので覚悟したほうがよさそうなのがつらい。胃のあたりがキリキリしてくる。


「さて、浅野少尉。まずはこの除隊願いについて話してもらおうか」


 誰だか知らないが、呼び出したのが師団長だから、この一番偉そうな女性が師団長なのか。


「は。入隊以来、軍に貢献するところ乏しく、ご迷惑をかけ続けてしまいました。私のようなもののために、これ以上県民の血税を無駄にするのは心苦しく、この三月の兵役満了を機に民間に下りたく、申請いたしました」


「何も出来ず。迷惑以外の足跡を残すこともなく辞める、と」


 そこまで言わなくてもいいだろうに、と思うがこの重苦しい空気の中、口をはさむような度胸はかけらもない。

 マリノも俺も気分は蛇に睨まれた蛙だ。脚が震えて仕方がない。


「僭越ではありますが、内藤、宮本の両候補生には拙い指導ではありましたが、出来る限りの知識と技術を伝えてあります。両名の今後の活躍こそが私の本懐であり軍人として歩んだ証であります」


 教官の声は師団長のプレッシャーのせいかすこし震えているが、そこまで思ってくれてたんだと思うと、ちょっと涙腺緩みそうだ。


「・・・こんのバカ娘がぁぁぁ!!!」


 柄の悪い女性の怒声が響き渡る。声になんかの術を載せてるんじゃないかっていうほどの威圧感。思わず後ずさってしまった。


「さんざん迷惑かけ通しで、その挙句辞めて責任取るだ!?しかも勝手に二人を弟子扱いして、あとは放り出して逃げる気かい!!ふっざけんじゃないよ!!」


 ・・・はっきり言って怖い。狂狼の群れなんて目じゃない迫力だ。一年前の俺だったら腰を抜かしてしょんべんちびって、へたり込んでいる自信がある。本当に立っているのがやっとだ。

 なんで俺たちまで一緒に怒鳴られなきゃいけないんだろう。


「・・・ご、ごめんなさいママ」


「「ママぁ?」」


 耳を疑うような単語に俺とマリノは目を見合わせる。

 教官の萎縮ぶりもすさまじい。

 この武闘派ヤクザはだしの柄の悪い師団長が浅野教官のお母さん?難しいなんてレベルじゃないだろ、コレ。


「そうさ、この浅野ハルカはこの私の不肖の娘さ。それと公式の場でそういう呼び方をするなって言ってるだろうが!!」


 よほど気に入らないのか、手に持っていた書類をバンバンと机に叩きつけている。


「も、申し訳ありません。中佐」


「先週から大佐だ。この岡山中央師団、師団長様だよ」


「しょ、昇進おめでとうございます」


 すげー、浅野教官がいいようにあしらわれてる。もう格が違うとかいうレベルを超越してる。種族が違うと言われても納得できる。


「何がめでたいもんか。欲の皮の突っ張った拡大派どもの尻拭いだ。めんどくさいったらありゃしない」


 この間の第一大隊の後始末のことかな。

 このタイミングで師団長ってのは上昇志向が強い人にはチャンスだろうけど、後始末で貧乏くじを押し付けられたってことなのかな。浅野師団長にとってはどっちだろう。


「で、だ。言いたいことはまだまだあるよ。そこの二人を鍛えたとか抜かしてたが?」


 どうか、こっちに飛び火してきませんように。


「は、二人とも精霊術士として第一線で活躍できるだけの実力があり、騎士との連携も十分なレベルであります」


 師団長が何か書類を握りしめてプルプルし始めた。


「ふざけんな。バカ娘!!!」


 今度は握りしめていた書類が浅野教官に投げつけられ、床に散らばる。


「何が第一線だぁ?連携だぁ?自分の都合のいいように仕込んだだけだろうが!!!中隊規模の集団戦の陣形連動もできない精霊術士なんて実戦で役に立つかこのヴォケがぁぁ!その上、ユニット戦闘でも自分のタイミングで仕込みやがって」


 あ!

 再びマリノと目を見合わせる。


「陣形組んでの連携戦術習ってない・・・」


 教本で読んだだけだ。


「だね・・・」


 習っていたのは騎士--浅野教官を起点とする連携攻撃が中心で、小隊規模での陣形すら訓練していない。

 教えてもらってもいない。

 訓練がいつも俺たち三人だけだから、六人必要な小隊の陣形なんてできるわけない。中隊規模もなおさらだ。

 他中隊との合同演習でも動きが合っていないと怒鳴られることが多かったが、他の候補生のユニットも同じだったので、そんなものかとそこまで気にしていなかった。

 連携タイミングについては、ほとんどの騎士が浅野教官よりも動きが遅くて呼吸を合わせるのに苦労した。普段の訓練通りにしてしまうと。騎士の動きがワンテンポ以上遅くて、連携がギクシャクしてしまうのだ。

 たぶん床に散らばっている書類は、書式から察するに合同練習で中隊から提出された評価レポートだろう。ドラフトに向けてほのかな期待があったが、師団長の話を聞いた今では、まるで使えないとか書かれていそうな予感さえする。

 豚教官の評定には期待していなかったが、現場の中隊長のレポートでも酷評されていると思うとかなりキツイものがある。

 ドラフトのお先真っ暗だ・・・。


「どうせ、さっさと退役して結婚したいとか、脳みそお花畑なこと考えてたんだろうが、そうはさせないからね」


「・・・はい」


 うなだれて嗚咽まじりに返事をする教官の声は今にも消えてしまいそうだ。


「そこの二人にも迷惑かけたんだ。騎士としてきちんと責任取って最後まで面倒見な。ただでさえ人がいなくて即戦力になるユニットは貴重なんだ。特例としてこの三名でのユニットを認める。いいね」


「はい・・」


 やや落ち着いた口調の師団長に対して、教官の頬には大粒の涙が伝わっている。俺もショックだが、教官も自分の指導を否定されたに等しいのだから無理もない。


「内藤、宮本もそれでいいかい?」


「「はい!」」


 どう考えても俺たちに拒否権はない。あったとしてもこの山賊の親分のような師団長にノーと言う度胸もなければ、おそらく軍内部での行き場もなくなる。


「ついでに内藤」


「は」


 大佐がじっとこちらを見ている。怖ぇ。眼力だけで気の弱い人間なら殺せそうだ。

 なんだ?

 なんかまだあるのか?

 ヤバい話じゃないよな。何を言われるのか恐ろしくて仕方がない。


「・・・バカ娘が迷惑かけたね。私からのお詫びと言っては何だが、ついでにお前にバカ娘やるよ。嫌なら返品してくれてかまわない」


「は?」


 部屋の空気が凍り付いた。

 ソレッテドウイウイミ?

 コノヒトナニイッチャッテイルノ?

 お歴々の方々も耳を疑うような言葉に固まっている。

 やるって?教官の意思は?


「イエスか!?ノーか!?」


「い、イエス、イエスです」


 条件反射のように返事をしてしまった。


「ハルカもいいね」


「は、はい」


 ちらと横を見たら、さっきまで打ちのめされてボロボロ泣いていた顔が鳩が豆鉄砲をくらったようになっていた。


「なら、話は終わりだ。浅野少尉は下がってよし。内藤、宮本はまだ話があるから残ってくれ」


「失礼します」


 浅野教官はギクシャクと敬礼し、部屋から出ていった。


「さて、二人ともすまなかったな。まずはハルカの母親として、娘を助けてくれたことの礼を言わせて欲しい。本当にありがとう」


 浅野師団長はさっきまでの海賊の親玉もまっさおの態度が嘘のように、姿勢を正して立ち上がり俺たちに頭を下げた。

 俺としてはただの成り行きで、助けたというほどのことをしたつもりもないのだが。


「あの子は騎士としての素質はあるが、どうにも精霊の巡りが悪いとしか言いようがなくてな。君たちと良い縁が築けて本来の素直な気性に立ち戻ってくれたようで本当に安堵している。母としても軍人としてもな」


 師団長が言っているのは入隊後に部隊が全滅したり、かかわった人間が立て続けに不幸になったことだろう。明確な理由は分からないが精霊の巡りあわせが悪いとしかいいようのないことはある。実際にそういう人間の周りは精霊が低活性だったり、本人が無意識に精霊を遠ざけて悪霊を呼び込んでいたりするという研究者のレポートを読んだ覚えがある。レポートの内容自体は屁理屈だらけでうさん臭いなと思ったが、生活しているとそうとしか思えない事があるのも確かだ。

 大昔にはお祓いとかご祈祷とかいう根拠のあいまいな儀式もやっていたらしいが、精霊というものの存在が分かってからは運の良しあしと精霊とを関連付けて考えるようになったそうだ。

 ほかにも精霊だまりが澱むと、魔獣の発生原因につながったり、周辺の農作物の成長に支障がでたり、運気が下がるとしかいいようのないことも起きることが分かってきたので、今では居住地周辺の精霊だまりは特に管理が徹底されている。


「さっきも言った通り、ひどい人手不足だ。実戦経験のある人間は貴重なんでね。二人とも悪いようにはしないつもりなのでよろしく頼む。宮本にも改めて便宜を図らせてもらうので、公私問わず何かあれば言って欲しい。できる限りのことはさせてもらう」


「はい」


 最初はとてつもなくガラの悪い女性かと思ったが、本質的には情もあるし筋の通った理性的な軍人のようだ。

 ただ、できればさっきの俺へのお詫びの意味も教えて欲しい。確認しておかないといろいろとあとが怖い。が、改めて自分から聞くのも怖い。


「ん、ハルカとの話か?正式な婚約のほうが良ければ四月以降にでも進めればいい。あのじゃじゃ馬を手懐けたくらいだ。お前なら乗りこなせるだろう。嫌だったら正直に言ってくれればいい」


 言い淀んでいてたのを、見抜かれていたようだ。

 嫌ではない。むしろ最近では美少女ぶりが増していて、本来なら色んな意味でお近づきに慣れないレベルに腰が引けてしまうのだ。

 それと・・・。なぜか一瞬横のマリノを見てしまう。いつもと変わらない表情の奥で何を考えているのだろう。恋愛三等兵の俺には検討もつかない。


「つつしんでお受けいたします」


 なるようになれと、深々と頭を下げる。さてこの思い切りが後で吉と出るか、凶と出るか。内藤ミズホ、人生最大の大博打かもしれない。


「よし。男女三人のユニットだ。仲がいいのはよくあることだし、誰も文句は言わん。好きにやってくれ」


 これってマリノともどういう仲になろうと構わない、という受け止められるんだけど?

 しかし、自分の娘を馬扱いとか愛情表現すごい屈折してるな。しかし、じゃじゃ馬?どちらかというと素直だと思うんだが。


「その他配属など詳細はそこの大村少佐と打ち合わせしてくれ。さがってよし。大村、後は頼む」


 大村少佐ぁ?


「「は!失礼いたします」」


 俺たちは敬礼ののち、義足の少佐に促されて退室した。


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