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第3話 転生者、行き場を失う。


第3章 転生者、行き場を失う。


〜謁見の間〜


 エリス「ふふっ、驚いた?ここは女神の世界にある謁見の間。寝ている勝くんの魂をここに呼び寄せたの。だけど安心して?あなたの体は宿屋で眠っているから。つまり、夢を見ている状態ってこと。」


 勝「す、すごい。夢なのに意識がはっきりしている。まるで本当にここにいるみたいだ。そ、そうだ!俺、あのあとめちゃくちゃ大変な目にあって、でも優しい宿屋の男性に助けられて・・・」


 エリス「うんうん、あの後のことは全部見ていたわ。本当に大変だったわね。」


 エリスは嬉々としてわざとらしいリアクションをしたが、感情が高ぶっている勝はそれに気付かなかった。


 エリス「ところで、道中もらった白金貨だけど・・・」


 エリスが白金貨のワードを出した瞬間、勝はまるでトラウマを思い出したかのように目をウルウルさせた。


 エリス「だ、大丈夫よ!白金貨の使い道だけど、高ランク冒険者ともなれば、自分達だけの拠点を購入したり、オリハルコン製の武具を購入するときには白金貨で購入できるわ。それに、明日服を洗濯すればお金の問題は解決できるじゃない。やるべきことが分かっているなら、何も怖い事なんてないわ。」


 エリスの励ましが効いたのか、勝は自信を取り戻した。その瞳はやる気に満ちていた。


 勝「そ、そうだよな!衣食住さえ困らなければ、あとはやる気でどうとでもなるぜ!ありがとう、エリス様のおかげで俺、頑張れるよ!」


 エリス「ふふっ、私は何もしてないわ。まぁ、ただ、それまでに己の身と白金貨を守りきれればのお話だけどねぇ。大変な騒ぎになるだろうから。」


 勝「えっ、それはどういう事ですk」


 先程までキラキラと輝いていた勝の瞳は一瞬にして曇ってしまった。無情にも勝の意識が遠のき始める。


 エリス「それじゃあ、頑張ってねー♡」


 エリスは満面の笑みで手を振りながら、勝を送り出す。勝は不安を顔で訴えかけるが、エリスは無視して手を振り続けた。


〜勝のいる世界〜


 勝はいつもより早く目が覚めた。窓の外はまだ紺色の空だが、もうすっかり眠気は吹っ飛んでしまった。初めてエリス様と会った時同様、最後の一言が引っかかって、とても二度寝する気分にはなれないのだ。


 勝(そうだ、今のうちに水場に洗濯しに行けばいいじゃないか。エリス様の言葉も気になるし、人があまりいない時間帯のほうがいいだろう。)


 勝は、物音を立てないように、そっと宿屋を出た。街を散策しつつ、水場を探していると、日が昇りそうになっていた。


 勝(おっ、あそこが教えてもらった水場だな。やはりこの時間には誰もいない。今から洗濯すれば、昼には乾くだろう。借りてる宿屋の部屋着も早く返したいからな。)


 勝は、服を洗濯すると、近くにある物干し竿に服をかけてベンチに座った。


 勝(しかし、この世界にはパジャマというものはないのだろうか?ほとんど外で着る服と変わらないし。まぁ、おかげで外に出るときもあまり恥ずかしくない...し...)


 勝は、ベンチでぼーっとしていたら、眠気が襲ってきて、眠ってしまった。




 女性「キャアー!!」


 女性の叫び声で目が覚めた。嫌な予感がして心臓の鼓動が速くなったが、すぐにそれが自分の事だと分かった。追い剥ぎに遭ったのだ。パンツ以外の衣服が無くなっていた。


 勝「キャアー!!」


 当然、干していた服は無くなっていたが、化粧箱は自分のそばに置いてあった。化粧箱を持ってその場を走り去った。視界が涙で霞んでいるが、一度通った道は忘れていなかった。


 宿屋に到着すると、宿屋の男性が驚いた表情で何かを言っているが、勝は聞く耳を持たず、部屋に直行した。


 勝は、時間の猶予が無い事を悟っており、これからするべき行動を必死に考えた。しかし、次の行動を思いつく前に宿屋の周りが騒がしくなってきた。次の瞬間、ドアのノックとともに、宿屋の男性の声が聞こえた。時間切れである。


 勝は観念して、ドアを開ける。勝が言葉を発する前に男性が口を開いた。


 宿屋の男性「悪いけど、もう・・・」


 これまで常にニコニコしていた男性の顔から笑顔が消えていた。その表情からは、僅かだか同情も見えるが、それ以上に迷惑そうな顔をしていた。


 勝「わかりました・・・ あの!宿代と部屋着のお金はいつか必ず払いますので・・・!」


 宿代の男性「いや、もう来なくていいよ。それとこれも君にあげるから。」


 男性は新しい部屋着を差し出した。勝の身に何が起きたのか理解したのだろう。


 勝「はい・・・お世話になりました・・・」


 その場でもらった部屋着を着て、すぐに宿を出た。案の定、周りに人だかりができていたが、勝は無視してその場を離れようとする。しかし、少し遠くから聞こえた会話を勝は聞き逃さなかった。


 女性「衛兵さん、あの人です!」


 女性が勝を指差しながら、首を後ろに向けていた。


 勝「何だよチクショウ!考え事する時間も無いのかよ!」


 次の瞬間、勝は身体強化でその場を走り去った。ギルドを訪れた時と違い、明らかに人並み外れた速度で走る自分自身に気付いていたが、勝の感情は動かなかった。ただ、宿屋の男性に自己紹介が出来ていなかったことだけが心残りだった。


 数分後、勝は以前宿屋の男性に声をかけられた所に来ていた。無意識の内に誰かが助けてくれると思ったのだろうか。勝はその場に座り込み、パンツの中に隠していた白金貨を取り出して、しばらく眺めた。


 勝(詰めが甘かったな・・・チクショウ。)


 そして、化粧箱にしまおうと箱を開けたら、嘲笑うかのように使いかけの石鹸と目が合った。無性に腹が立って、化粧箱ごと投げようとしたが、思い留まり、石鹸と一緒に白金貨を化粧箱にしまった。


 すると、聞き覚えのある男性の声が聞こえた。


 古着屋の男性「街が騒がしいと思ったが、もしかしてオマエの事か?ちょうどオマエのことを探してたんだぜ?」


 昨日とは打って変わって、穏やかな表情だ。勝は期待に胸を膨らませた。


 古着屋の男性「災難な目に遭ったな。オマエの着ていた服はウチにあるから安心していいぞ!」


 男性はニカッと笑った。


 勝「ヴゥ゙ッ!おじざん!!」



続く

 

 

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