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第18話 裸の王様

 俺はあの後、大久保さんも側室にして、彼女の身体を楽しんでいた。小柳さんとは出来る限りシフトを重ならないようにして、バッティングしないようにするなど、細心の注意を払う。このあたりの操作ができるのは、店長であり王である俺の力であり、調整力の見せ所だ。側室の人数はまだまだ増やしていく予定。たくさんの女を救ってやらないとな。


 父と母は相変わらず鬱陶しい存在だったが、「はい、わかりました」「はい、申し訳ございませんでした」とだけ言って、機嫌を損ねない程度にいなしていた。

 問題は涼子だ。涼子と別れたいが、義父が融資元の地銀の幹部である以上、つながりを切るのは避けたい。俺のせいでスーパーマツナガを潰すわけにはいかないのだ。それに涼子自身も納得しないだろう。どうしたらいいものか……。

 俺にとって、涼子は目の上のタンコブのような存在に成り下がっていた。


 自宅――


(あつし)くん、お帰りなさい」

「あぁ……」

「今日は早いんだね。ご飯できてるよ」

「いらない」

「そう……」


 これみよがしに悲しげな表情を浮かべる涼子。その健気(けなげ)ですって態度が(しゃく)さわる。


「あっ、じゃあお店で食べられるように、お昼と夜のお弁当作ろうか。出来立てが良ければ、私お店まで持って――」

「いらねぇって!」


 一喝したらメソメソ泣き始めた。本当にイライラする。


「わ、私、敦くんの役に立ちたくて……敦くんが気持ち良くお仕事ができるように――」

「何が役に立ちたいだ! 何が気持ち良くお仕事だ! ふざけるな!」

「あ、敦くん……」

「俺の夢も、希望も、全部ぶっ壊しやがって!」

「え……」

「子どもが作れないお前に何の価値がある!」

「!」


 言ってはいけないことだとは分かっている。でも、言わずにはいられなかったし、もう止められなかった。


「幸せな家庭を築きたかった! 子どもたちの幸せな笑顔を見たかった! 俺の『幸せの形』をぶっ壊したのは誰だ!」

「う……うぅ……」

「俺の人生めちゃくちゃだ! 全部お前のせいだ! どうしてくれるんだ!」


 うなだれて涙を零す涼子を見て、俺はこいつを壊したくなった。


「おい、やりたくなった。寝室行って、脱げ」

「えっ……」

「いいからさっさと行けよ! 抱いてやるって言ってんだよ!」

「……はい」


 トボトボと寝室へ向かう涼子。その姿に苛ついた俺は、涼子の襟首を掴んで寝室へ連れ込み、ベッドの上へ投げ捨てるように(ほう)った。こいつの着ていた服や下着を引き千切るような勢いで脱がせ、そのまま顔に覆い被せる。お前の不細工な顔を見ながらできないと言い放って。萎えるから声も出すなと命令した。こいつの尊厳を全部踏み(にじ)ってやる。行為の最中もずっとグズグズ泣いていたが、これはこいつへの罰だ。これは俺の『幸せの形』をぶっ壊した罰なんだ!


 俺が怒りと憎しみを吐き出すと、涼子は無言のままベッドから降り、身体を震わせながらヨロヨロと寝室を出ていこうとする。だから、俺は言ってやった。


「子どもが出来てるといいな」


 一瞬身体の動きを止めたが、こちらを振り返りもせずに涼子は浴室へ向かっていく。

 俺に罪悪感はまったく無かった。やってやったと、罰を与えてやったと、心がすっきりして気分が良かった。


 俺は「憂さ晴らしの相手」という涼子の新しい価値を見出したのだ――



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 スーパーマツナガの事務室――


 長机を挟み、俺の目の前にパート勤務希望の女性が座っている。三十代前半、少し小柄、目立たない程度の茶髪を内巻きミディアムに整えていて専業主婦とのこと。中々の美人だ。


「高木亜希子さん……ですね」

「は、はい!」


 履歴書を長机の上に置き、顔を上げた俺はにっこりと笑った。


「ぜひ当店で働いていただければと思います」

「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」

「貴女のような綺麗な方が働いてくれれば、きっとウチの店の売上も上がるでしょうし」

「まぁ、店長さんはお上手ですね!」

「いえいえ、私は嘘が言えない正直者で有名ですから」


 俺と女性の笑い声が事務室に満ちた。


『こんな楽しい店長さんとなら、きっと楽しく働ける――』


 ――とかって思ってんだろうな、この女。


 俺は何人もの側室を抱えるようになっていた。日替わりでひとの女を取っ替え引っ替えしながら寝取る快感は、何物にも代えがたいモノだ。しかし、何か物足りなさも感じていた。本物でなくてもいい。愛をもっと強く感じさせる何かがほしい。もっと濃密な何か。もっとまとわりつくような何か。そんなモノがほしい。俺は目の前の亜希子という女にターゲットを絞った。


 この亜希子という女は、他のパートと違って満身創痍ではない。だから、俺との間には夫以上の愛があると()()()させなければいけないのだ。じっくり時間をかけて。慌ててはいけない。何度断られても笑って引き、また誘う。ベタベタしたしつこさを感じさせてはいけない。あくまでも自然に、さっぱりと。断られた腹いせは、涼子を犯して晴らせばいい。あいつの利用価値などそれだけだ。

 勝負のタイミングは一回。一回こっきりだ。これでダメなら諦めるしかない。


 そして――


「……一度だけ……一度だけと約束してください……」


 ――つーかまーえた。バーカ。一度で済むわけないだろうが。


 すっかり禁断の愛のヒロインになったと酔い痴れる()()()した亜希子。彼女の耳元で愛を囁きながら、何度も愛してやった。やがて生まれる仮初(かりそ)めの愛。もっとドロドロになって溶け合いたい。どこまでも堕ちていきたい。俺たちは本能のままに情欲へ身を委ね、全身を不倫の快楽に打ち震わせながら、底の見えない背徳の沼に沈んでいった。


 俺は松永(まつなが)(あつし)。スーパーマツナガの王様だ。ちっぽけな世界の王様だと、大きな世界を知らない裸の王様だと、笑いたければと笑えばいい。それでも俺は、この小さな世界で多くの女を従わせる王なのだ。それが俺の新しい『幸せの形』。この幸せの王国をもっと豊かにしてみせる。必ず。



挿絵(By みてみん)





<次回予告>


 新章『第四章 調査』


 第19話 責任の所在




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