クラリス、仲人(カプ厨)になる
「……ついに、この時が来たか」
私は中庭のベンチで、紅茶を手に震えながら新聞を読んでいた。
――《王都防衛戦線、魔導師団が参戦へ》
――《副団長に新任・ラファエル=ダルクレイン氏、凍てつく才気と噂の実力派》
その名前を見た瞬間、心臓がスキップして落ちた。
ラファエル。ラファエルだ。
ラファエル様、来ちゃったよぉぉぉおおお!!!
「うっそでしょ、まさか本当に……“推し攻め”がご到着ですか……!」
落ち着け私。深呼吸。周囲に人はいない。発作が来ても大丈夫。
――彼は、元の小説『紅蓮の誓約』では氷の魔導士と称される天才であり、ユリウスの元戦友。
あるすれ違いをきっかけに敵対し、最後には命を賭して彼を庇って死ぬ。
「いや、死なせないけど! こっちでは絶対にくっつけるからな!!」
この世界におけるラファエルは、どうやら“別の戦記モノ作品”から流れてきたような設定になっているらしい。
でもそんなことはどうでもいい。今この世界に“ユリウス×ラファエル”の地盤が存在するという事実がすべてだ。
私は机に身を乗り出し、即席の作戦ボードをノートに書きはじめた。
【推しカプ再会計画】
目標:ユリウスとラファエルを邂逅させ、信頼→誤解→衝突→和解→尊い結末へ
現状分析
・ユリウス:現在、学院内警備担当として私の護衛中
・ラファエル:王都魔導師団副団長として軍務中(=頻繁に学院を訪れる見込み)
接点の創出
・学院の防衛訓練、または魔導技術講習などで“偶然再会”させる
・二人が“過去に面識がある”ことを周囲にバレないように進行
・私が“間に挟まる形”でセッティング(たとえば訓練見学を希望)
感情の流れの演出
・初回再会→無言の視線交差(記憶と情の混乱)
・二回目→軽い衝突と皮肉交わし(過去のわだかまり発覚)
・三回目→共闘しながらの信頼再構築
・四回目→片方がピンチに、もう一方が庇って感情爆発(最高)
「完璧すぎる……!」
私は自分の妄想設計図に惚れ惚れしながら、ノートをパタンと閉じた。
そこへタイミングよく現れたのが――
「クラリス様、護衛騎士ユリウス、参りました」
キタァァァァ!!
私は反射的に立ち上がり、いつも以上に凛とした態度で言った。
「……ユリウス、少し歩きたいの。中庭まで付き合ってくれる?」
「……承知しました」
控えめな返事と共に彼が並ぶと、自然と歩幅を合わせてくれる。
さすが私の推し。何も教えてないのに距離感が完璧。
「ねえ、ユリウス。貴方、魔導師団に知り合いは?」
「……なぜ、そう思われたのですか?」
「なんとなくよ。ただ、もし誰かに再会したら――驚くかしら?」
一瞬だけ、ユリウスの目が揺れた。
その背後に、青くて細い、震えるような“糸”がふっと立ちのぼる。
……いる。やっぱりいる。
この糸の震えは、“忘れたくても忘れられない相手”に反応してる証拠。
私は確信した。
「じゃあ、もし訓練見学の招待状が届いたら、私と一緒に行ってくれる?」
「……仰せのままに」
決まりだ。舞台は整った。
あとはラファエルの登場を待つだけ。
この腐女子仲人、全力で推しの再会を演出してみせます!