表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/64

63:運命の扉が開くとき

黒崎剛一郎は、セバスチャンが部屋を出た後も、デスクの前で無言のまま立ち尽くしていた。


冷や汗が背中を冷たく伝い、心臓が痛いほどに脈打つ。彩花と理沙の接触は彼の筋書き通りだったが、兄・一護が彩花に接触しているという想定外の報告は、そこに潜む意図が不明瞭である点で、剛一郎を深い不安に突き落とした。


「一護が何を企んでいる…?」


兄、黒崎一護――剛一郎にとって、最も警戒すべき、そして最も理解しがたい存在。理知的で冷酷な彼は、常に剛一郎の完璧な計画を凌ぐような策略を用意している。


もし一護が彩花に接触し、彼女の忌まわしい過去の真実に触れさせるようなことがあれば、剛一郎の絶対的な支配はすべて崩れ去る。彩花に植え付けた偽りの記憶こそが、彼女を制御するための最も重要な道具だったのだ。


しかし、その極秘資料は、今、跡形もなく消えてしまっている。


Ⅱ. 映像解析

「誰が持ち出した…?」


思わず声に出した剛一郎の疑念は、嵐のように深まるばかりだった。答えを求めるかのように、剛一郎は無言でデスクに置かれた監視カメラのモニターに冷徹な目を向けた。厳重なセキュリティの下、防犯映像が残っているはずだ。


彼は焦燥する指で再生ボタンを押し、映像を高速で早送りしながら、わずかな手がかりを探し始めた。


画面に映る映像は数日前のもの。セバスチャンや一護が無言で出入りする様子や、彩花が部屋に立ち尽くす瞬間も確認できた。しかし、どちらも施錠された引き出しに触れていない。


そして、ふと映像の中で違和感のある動きが見えた。


それは、一護でもセバスチャンでもなく、別の影――剛一郎が最も見慣れた、見覚えのある、そして最も裏切るはずのない姿だった。






剛一郎は映像を一時停止し、血の気が引いた顔で、じっとその人物を見つめた。


そこに映っていたのは、黒崎澪――彼がこの世で最も信頼し、大切に思っている、愛する娘だった。


「澪…」


剛一郎の声は乾いてかすれた。澪は、心優しく、誠実で、常に他者を気遣う性格。剛一郎は彼女をクロノスの闇から守るため、自分を犠牲にしてでも手を差し伸べる覚悟があった。


だが、その澪が、この最も重要なタイミングで何かを知り、行動に移すとは完全に予想外だった。彼女は剛一郎の絶対的な手元にあるべき存在であり、危険なゲームの中に足を踏み入れてはいけないはずだ。


「まさか…」


モニターに映る彼女の穏やかな表情の奥には、どこか複雑で強固な決意が宿っているようにも見えた。彼女が何を企み、何をしようとしているのか、剛一郎にはまだ明確には分からない。


Ⅳ. 運命の覚醒

しかし、この支配の崩壊を意味する状況下で、彼女が自ら動き出したとなると、剛一郎の完璧な計画は想定外の方向へ一気に進む可能性がある。


そして、剛一郎の記憶が最悪の真実を突きつけた。


今日の日付が、自分が澪に撃たれる――運命のその前日だということを。


「何を企んでいるんだ、澪…」


彼の胸に、愛する者からの裏切りという冷たい恐怖が激しくよぎる。娘である澪が、自分に銃口を向けるほどの決意を抱いているという衝撃的な事実を、彼はまだ完全に理解しきれていなかった。


しかも、その澪の行動の背後に兄・一護が関わっている可能性がある以上、事態は一層複雑で、破滅的なものになりつつある。


「澪が動き、一護も動いている。これは決して偶然ではない…」


剛一郎は震える手でモニターを閉じ、デスクに拳を叩きつけた。これ以上の失敗は許されない。


彩花、理沙、澪、蓮、そして一護――それぞれが絡み合い、剛一郎の支配圏に迫りくるような危機感があった。


「全てを掌握しなければ…」


冷徹な決意を胸に、剛一郎は再び立ち上がった。嵐が迫る前兆を肌で感じながら、彼は自らの策を至急練り直す必要があった。






黒崎剛一郎が、その愛娘に撃たれる――運命の前夜。


みおの心臓は警鐘のように速く脈打ち、冷や汗が背中を伝う。父、剛一郎の厳重な私室に忍び込むという行動は、彼女自身が信じられないほどの、極めて大胆な裏切りだった。しかし、父への抑えきれない疑念が彼女の理性を凌駕し、ついに行動に出るしかなかった。


剛一郎の部屋のドアの前に立ち、澪は震える指先でバイオメトリクス認証を試みる。通常は剛一郎本人しか通過できないはずのシステムが、一瞬の冷たい光と共に「認証」を告げたことに、彼女は驚愕した。これは、幼い頃、剛一郎が将来の継承を見据えて密かに娘のデータを登録していたからだ。今、その特権は、父に反旗を翻すための禁断の鍵として使われようとしていた。


Ⅵ. 盗まれた真実

重いドアが静かに開くと、澪の目は本能的にデスクの引き出しに吸い寄せられた。


張り詰めた沈黙の中、彼女は手早く中を探り、奥野彩花に関する極秘資料を見つけ出す。彩花がなぜここにいるのか、そして父が何を彼女から隠しているのか――すべての核心がこの薄い紙束に詰まっている気がした。


「やっぱり…父は、何かを隠しているんだ…」


澪は深く息をつき、資料を手に取った。


一秒一秒が永遠にも感じられる。長居は絶対的な危険を意味した。父や警備員に見つかれば、彼女の行動は命取りになる。彼女は盗み出した真実を手に、急いで部屋を後にした。






極度の緊張の中、廊下を急ぎ足で歩いていた澪は、突然目の前に立つ人影に気づき、反射的に息を詰めた。


そこに立っていたのは、伯父である黒崎一護だった。


一護の鋭利な視線は、逃走中の澪を一瞬で捉え、そのまま彼女が胸に抱えている極秘資料へと冷たく移った。


「それは…彩花の資料か?」


一護の声は驚くほど冷静だったが、その中に微かな動揺と、抑えきれない緊張が混じっているのを、澪は敏感に察知した。


澪は一瞬、盗難が露呈した動揺を隠しきれなかったが、すぐに気を取り直した。一護がこの資料にどれほどの関心を持っているのかを見極める必要があったからだ。


「ここではまずい。ついてこい」


一護は有無を言わさず澪を誘導し、廊下の奥にある人目の少ない、古い会議室に連れて行った。彼の表情は常に冷静だったが、何か巨大で、重い秘密を抱えていることが明白だった。


Ⅷ. 偽りの父

部屋に入ると、一護は静かにドアを閉め、澪に向かって厳しい視線で振り返った。


「どうして、お前がその資料を持っているんだ?」


一護の声には鋭い疑念が含まれていた。


澪は一瞬、言葉を飲み込んだが、父への不信が決意を促した。


「父の部屋に忍び込んだの。おかしいと思った。彩花さんに関することで、何か大きな秘密が隠されているんじゃないかって…。私は、父に対して不信感を抱いてる。だから、真実を知りたかったの」


一護はしばらく黙って澪の瞳の奥を見つめていたが、やがて深く、重いため息をついた。


「もう読んだのか?」と静かに問いかける。


「読んではいないけど、少しだけ見えた…。彩花の父親について書かれていた。それって、伯父さん…あなたのことなんでしょう?」


澪の直接的な言葉が、重い空気を切り裂くように響いた。


一護はわずかに顔を曇らせたが、その目はすぐに冷徹さを取り戻した。


「いや、彩花の父親として育てたのは奥野博士だ。美樹の弟、彼女の叔父にあたる。美樹が亡くなった後、奥野は彩花を養子にして、自分の娘として育てたんだ」


一護は重々しく、一つ一つの言葉を選ぶように口を開き、澪にクロノスの根幹に関わる真実を語り始めた。


「だが、彩花の本当の父親は…私だ」


澪の心は激しく揺れた。ずっと隠されていた、血族の禁断の事実が次々と明らかになり、彼女の思考は激しく混乱していた。


「どうして…どうしてそんな大きな嘘をついてきたの?」






一護は、過去の過ちを背負うように苦い表情を浮かべた。


「美樹の死後、奥野博士は、クロノスの優秀な研究員としての立場を利用し、彩花を守ることを究極の使命として決めた。彼は、彩花に秘められた特異な力を抑え込むためには、彼女を組織の監視下に置く必要があると判断したんだ。だから、彩花を私という血縁から物理的に遠ざけるために、自分の娘として育てることにした。私も苦渋の末、それに同意した。だが、その選択が本当に正しかったのかは、今でも毎晩自問している」


澪は、静かに一護の言葉を受け止めた。奥野博士が愛する姪のためにどれだけの犠牲を払い、巨大な組織の中で孤独な戦いを続けてきたのかを初めて知った。


だが、納得できない感情が彼女の胸を焦がした。


「それでも、どうしてこんなにも長い間隠し続けてきたの? 彩花さんは、真実の家族を知る権利があったはずよ!」


Ⅹ. 怒りと覚悟

「彩花の力は…危険すぎる。剛一郎がそれを制御しようと試みているが、完全にはできていない。暴走の危険性があるからこそ、私たちは彼女を守るために真実を隠してきた。だが、その隠蔽の選択が彼女の未来を閉ざしたことについて、私は責任を感じている」


澪は、一護の言葉に耳を傾けながら、心の中で強い怒りが燃え上がってきた。


彩花という一人の人間の運命が、彼女の知らないところで何度も、何度も、権力者や保護者の都合によって操作され、決められてきた――その事実が、正義感の強い澪には決して許せなかった。


「それじゃあ…彩花さんは今、どうなるの?」


澪が切羽詰まったようにそう問いかけようとしたまさにその瞬間、廊下の向こうから革靴の重い足音が、確実に、ゆっくりと近づいてきた。


二人は反射的に息を潜め、極度の緊張を孕んだまま、互いの顔を見合わせた。


重苦しい沈黙が部屋を包む中、ドアのノブがわずかに、しかし確実に動き、ゆっくりと開きかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ