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㊻贖罪のマネージャー:血塗られた愛と国連の罠

 高梨に与えられた任務は、良心を焼き尽くし、魂を削る三つの禁断のかせだった。


 一、 違法な兵器売買の仲介。


 高梨は、クロノスの冷酷無比な兵器開発部門と世界の裏社会を繋ぐ闇の橋渡し役として動いていた。

 最新鋭の虐殺兵器が彼の手を介して、戦火の絶えない紛争地や非道なテロ組織へと流れ、無数の街を焼き、罪なき人々の未来を奪い去っていく。

 毎回契約書にサインをするたび、かつて平和と正義を誓った自分自身の存在を裏切る感覚に苦しんだ。

 それでも、エリカの 無垢むくな 笑顔を守るため、彼は地獄への切符となるその手を汚すしかなかった。


 二、 非人道的な人体実験への協力。


 クロノスの研究室は、まさに 生きた地獄だった。

 非科学的で限界を超えた人体能力を引き出す非人道的な実験が、昼夜問わず秘密裏に行われていた。

 高梨はその実験台となる無関係な被験者を捕え、痛ましい叫びと共にデータを管理するという冷徹な役割を与えられていた。

 叫び声が防音壁を震わせるたび、彼の心も激しく揺らいだ。


「自分はこれ以上、 人間として 堕ちることができるのか?」と。


 しかし、エリカの 明るい未来を思い浮かべることで、彼はその叫びに無理やり耳を塞ぎ、感情を完全に封じた。


 三、 重要人物の暗殺指示。


 クロノスがその世界支配の野望を脅かす者たちは、問答無用で一人残らず消された。

 高梨の仕事は、彼らの機密情報を集め、冷酷な暗殺部隊に指示を下すこと。

 その一つ一つの命が、彼の心に新たな、消えない傷を刻んだ。

 彼は冷たい殺し屋としての仮面を被ることで、内なる苦しみを隠すしかなかった。


 ただ一つ、彼にとっての絶対的な真実は、愛するエリカの未来を守るためには、どんな血の代償も流す覚悟があるということだった。

 それは、彼の心を蝕む試練であり、同時に父親としての 歪んだ愛 の証明だった。



 高梨は、クロノスのために働く中で、かつてのマネージャーとしての正義感と倫理観をすべて失っていった。

 しかし、エリカへの純粋な愛情だけは、狂気の炎の中でも決して消えることはなかった。

 彼は、愛する娘のためだけに、生き地獄のような日々を耐え忍んでいた。


 そして今、その愛する娘エリカは、クロノスの最も恐ろしい計画に巻き込まれてしまった。


 高梨は、今度こそ娘を守るために、そして、自らの手で汚した すべての罪を償うために、命を懸けた 最後の戦いに挑むことを決意した。




 高梨には、かつて蓮を売り出すために奔走した日々を共にした、信頼できる仲間であり、元消防士の鬼塚の存在があった。


 鬼塚は、クロノスコーポレーションの火災で親友の全てを失い、クロノスへの徹底的な復讐を誓っていた。

 高梨の依頼で、彼はその消防士としての特殊な経験と知識(侵入経路の特定や火災データの分析など)を活かし、黒崎邸への侵入や情報収集を行っていた。


 高梨にとって鬼塚は、この血塗られた孤独な戦いにおける数少ない心の支えであり、共通の敵クロノスを打倒するという暗くも強い絆で結ばれていた。



 しかし、運命はあまりにも残酷にも、高梨に耐え難いさらなる試練を与える。


 それは、出張先の暗いホテルの一室でのことだった。

 高梨は、クロノスの闇の情報網を駆使して、唯一の光であるエリカの動向を監視していた。


 そして、信じたくない光景を目撃する。

 彼女が最大の敵である黒崎と親密すぎる関係にあることを知ったのだ。


 高梨は、監視カメラの映像を通して、エリカと黒崎が甘えるように寄り添う姿を目撃した。

 二人の表情は、まるで 熱愛する恋人同士 そのものだった。


 高梨の胸は、鉄塊のように重く沈んだ。


 この地獄に自分を突き落とした男に、愛する娘が 自ら 抱かれている――その衝撃は、裏切られたという思いよりも、エリカがクロノスの 最も深い魔の手 の中にいるという純粋な恐怖となって、彼の心を締め付けた。


 彼は、否定したい思いで、何度も映像を再生した。

 しかし、それは紛れもない、抗いようのない事実だった。


「エリカ…… ああ、 お前が、 黒崎の…… 」


 高梨の声は、絶望にかすれ、 制御不能に 震えていた。

 怒り、悲しみ、自己への後悔、そして絶望が、彼の心をズタズタに引き裂いた。


 彼は、ホテルのベッドにまるで死体のように崩れ落ち、獣のように慟哭した。



 彼の心は、怒り、悲しみ、後悔、そして絶望で埋め尽くされていたが、その地獄の底でも、彼はそれでもエリカを愛していた。


 彼は、娘が愛情を装ってクロノスに利用されていることを知り、彼女を 一刻も早く 救い出さなければならないと強く思った。


 高梨は、目に焼き付く映像の残像を涙と共に拭い、死人のように静かに 立ち上がった。


 彼の瞳には、すべてを賭けた 新たな決意が宿っていた。


 エリカを救い出し、 クロノスを 根絶やし にする。


 そして、 この地獄で犯した自らのすべての罪 を償う。

 それは、 父親としての最後の、 そして唯一の使命だった。




 高梨は、ホテルの窓から見える冷たく、無関心な夜景を見つめた。

 遠くには、クロノスの漆黒の巨大なビルが威圧的にそびえ立っていた。

 それは、まるで闇の巨人が 全てを支配しているかのように、この街を静かに見下ろしていた。


 高梨は、ホテルの机の引き出しから、一枚の色褪せた古い写真を取り出した。

 それは、蓮がまだ無名の青年だった頃、高梨と蓮が満面の笑顔で肩を組んでいる写真だった。

 希望に満ちていた、遠い過去の残像。


 高梨は、その写真を魂を込めるように握りしめ、静かに誓った。


「蓮…… 俺は お前の信頼を裏切った。

 だが、 必ずこの過ちを償う。

 お前がくれた あの日の 『希望』 を、 俺はもう二度と手放さない 」


 贖罪しょくざいの炎が彼の胸に燃え上がり、娘への深い愛情と、敵を討つ復讐心が渦巻いていた。



 高梨は、最後の戦いに向けて、水面下で動き出す。

 彼は、クロノスの計画を阻止するために、かつての関係を辿り、世界中に散らばる協力者たちと秘密裏に連絡を取り始めた。


 かつてのマネージャーとしての人脈と情報収集力、そしてクロノスで培った闇の知識を駆使し、彼は驚くべき真実を突き止める。


 クロノスの計画は、単なる世界征服ではなく、人類の歴史に記された ある古代の予言 を実現するためのものだった。


 そして、その不吉な予言には、娘のエリカが 『成就の鍵』 となる 重要な役割 で深く、宿命的に関わっていた。

 高梨がクロノスの極秘情報から突き止めた その事実は、 娘の命が父の罪の代償として、組織の最終目的に組み込まれているという絶望的な現実 を意味していた。


 しかし、高梨の行動は、すべて黒崎によって冷徹に監視されていた。

 黒崎は、高梨の決定的な反逆を知り、いち早くエリカを人質に取った。


 高梨は、愛する娘の命と引き換えに、クロノスへの永遠の忠誠を誓うよう非情に迫られる。


「パパ…… 怖いよ…… お願い、 ここから 出して……」


 無線から聞こえるエリカの怯えた、か細い声が、高梨の魂を抉った。



 彼は、娘の無事だけを祈りながら、痛みで顔を歪ませて苦渋の決断を下す。


「黒崎、 俺は お前の非情な要求を呑む。

 だが、 その代わり、 エリカを 今すぐ 解放しろ!」


 高梨は、自らの すべての自由と命 を犠牲にしてでも、エリカを守ろうとしていた。


 黒崎は、高梨の絶望的な決断に満足げに頷いた。


「賢明な判断だ、高梨。

 だが、 お前がもう一度裏切れば、 エリカは 即座に死ぬことになる。

 この 契約 を 決して 忘れるな」


 高梨は、黒崎の言葉に背筋が凍る思いがした。

 しかし、彼は決して諦めない。

 エリカを救い出し、この世界に失われた正義を取り戻すために。


 高梨は、黒崎の冷たい目を欺くために、クロノスの計画実行への協力を完璧に装いながら、水面下で鬼塚と共に反撃の機会を極秘裏に伺い続けた。

 彼の最後の戦いが、今、偽りの忠誠 と共に 始まった。



 しかし、支配者 黒崎は 一枚、 いや、二枚も三枚も上手だった。


 彼は、高梨の水面下のわずかな動きを逐一監視し、わざと彼に重要だが偽りの情報を漏らすことで、高梨の忠誠心を冷徹に試していたのだ。

 高梨は、これが黒崎が仕掛けた心理的な罠だと痛いほど気づきながらも、エリカの命の重みに縛られ、完璧な裏切り者を演じ続けなければならなかった。


 そんなある夜、高梨は遠い日の、幸福なエリカの夢を見た。

 それは、父である高梨とかつての相棒蓮が、もう一度 眩いばかりの スクリーンで共に活躍する、という内容だった。

 高梨は、この夢がただの郷愁ではない、贖罪の道を暗示していると直感的に感じた。



 ある日、高梨は黒崎から、組織の命運を握るある極秘任務を言い渡される。

 それは、国際平和の象徴である国連本部への潜入と、クロノス計画の鍵となるある重要人物の暗殺だった。


 高梨は、この任務がクロノスの計画実行の 最終的な鍵を握っていることを直感する。

 同時に、これは彼の良心を試す 黒崎が仕掛けた 非情な罠であることも理解していた。


 高梨は、苦渋を通り越した 悲痛な 表情を浮かべた。

 娘の命を守るためには、黒崎の悪魔の指示に従うしかない。

 しかし、何の罪もない人間を殺めることは、彼に残された 最後の良心に激しく反していた。


 任務を引き受けるか、自らの良心を選び、娘の命を犠牲にするか。

 高梨の心は嵐のように激しく揺れ動いた。



 任務当日、高梨は死に行く覚悟を胸に国連本部に潜入する。

 厳重な警備を元マネージャーとしての知略でかいくぐり、彼はついに標的の部屋に辿り着く。


 しかし、そこで彼を待ち受けていたのは、標的ではなく、銃口を向ける 支配者 黒崎の姿だった。


「高梨、やはり お前が裏切ることは 全て計算の内だ 」


 黒崎は冷酷な笑みを浮かべ、高梨に銃口を向けた。

 その冷徹な、容赦のない眼差しは、高梨の心の奥底を見透かしていた。


「お前は、愛する娘の命 よりも 世迷い言の 『正義』 を選んだ。

 だが、その代償は お前一人では 到底 払い切れないぞ」


 高梨は、四方を包囲された 絶体絶命の状況に追い込まれた。

 逃げ道も、反撃のチャンスも見当たらない。


 圧倒的な重圧が押し寄せる中、彼の脳裏に一瞬、エリカの幼い頃の、守りたかった あの笑顔が浮かんだ。

 あの笑顔こそ、彼がここまで地獄を耐えてきた理由だった。


「エリカ…… パパは、必ず約束を守るよ 」


 彼は静かに囁くように自分に誓った。


 そして、黒崎の支配に対する最後の、 悲壮な反抗として、全身の力を振り絞り、今まで溜め込んできた 全ての罪悪感と葛藤を抱えたまま、怒号と共に黒崎に向かって決死で飛びかかった。

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