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③天女と龍の伝説~愛と裏切りの物語

 翌日、私は親友の理沙に胸の内を打ち明けることにした。


 理沙は、私が勤めるIT企業の同僚で、何でも話せる頼れる存在だ。


 明るく快活な彼女なら、私のモヤモヤとした気持ちを理解してくれるだろう。


「ねえ、理沙。最近、ちょっと不思議なことがあってね……」


 私は、涼太との出会いと、彼に対する拭いきれない疑念を理沙に語り始めた。


 彼女は私の話を聞くと、驚いたように目を見開いた。


「え、マジで?


 それって、もしかして結婚詐欺じゃないの?」


 理沙の声は少し大きくなり、動揺を隠せない様子だった。


「私もそう思ってるんだけど……でも、彼って本当に誠実そうなんだよね」


 私は不安げに呟いた。


 理沙は深くため息をつき、足を組みながら真剣な表情になった。


「彩花、本当に気をつけなよ。


 詐欺師ってめちゃくちゃ巧妙なんだから。


 もし何かあったら、すぐに私に連絡して!


 一人で抱え込まないでさ」


 その言葉とともに、彼女は私の手をぎゅっと握った。


 心配してくれる友人がいることが、少しだけ心強く感じた。


「ありがとう、理沙。


 あ、そういえばこの間話してたミステリー小説、読んだ?」


 私は、少しでもこの重い話題から意識を逸らしたくて、最近二人で夢中になっている小説の話を持ち出した。


「読んだよ!


 あのラストはヤバいでしょ?


 まさかああなるとは思わなかった!」


 理沙の声は再び明るさを取り戻し、話のテンポもどんどん速くなっていく。


 だが、すぐに真剣な表情に戻り、涼太の話題へと繋げた。


「でもさ、涼太さんももしかしたら裏の顔を持ってるんじゃない?」


 理沙はニヤリとしながら言ったが、その目にはどこか警戒の色が浮かんでいた。


「実はね、彼にどこかで会ったことがあるような気がするんだけど、思い出せなくて…」


 私は記憶の断片を探るように首をかしげた。


 理沙は少し考え込んでから、「うーん、私もそんな既視感あるような気がするけど、ハッキリとは思い出せないんだよね」と言った。


 理沙の共感に、少しだけ心が軽くなる。


 それでも、涼太への想いは日々募っているのを自覚していた。


「でもさ、デートの時のバニラの香り、あれがなんか引っかかるんだよね」と理沙が唐突に言い出す。


「もしかして、香水の匂いだったのか、それとも何か別の意味があるのか…」


 私は一瞬戸惑ったけど、少し照れながら答えた。


「実はね、バニラの香りって、私にとって特別な思い出の香りなの。


 幼い頃、母がバニラクッキーをよく焼いてくれて、それが幸せな記憶と結びついてるの」


 理沙はスマホを取り出し、何かを調べ始めた。


「もしかしたら涼太さん、彩花のことを調べて、わざとその香りを使ってるかもよ?


 結婚詐欺師って、相手を夢中にさせるためにそういう細かいとこまで気を遣うらしいからさ」


「そんなことまでして、私に近づこうとする理由があるのかな…?」


 私は再び不安が胸を締め付けるのを感じた。


 理沙はスマホから目を上げて、「大丈夫、彩花。落ち着いて。もし彼が詐欺師なら、必ずどこかでボロが出るはず。私が見張っててあげるから、何かあったらすぐに頼ってね」と肩を抱いて励ましてくれた。


 理沙の力強い言葉に、私は少しだけ勇気を取り戻し、彼女に感謝の笑みを浮かべた。


 涼太への想いは、募るばかりだった。


 しかし、同時に、彼への疑念も深まっていく。


 涼太は、完璧すぎるほど私の好みや行動を把握しているようで、まるで私の頭の中を読んでいるかのようだった。


 ある時、彼が持っていたスマートフォンの画面がチラッと見えた。


 そこには、私のSNSの投稿が表示されていて、私は一瞬、心臓が止まるかと思った。


 まさか彼が私を密かに監視しているのでは?


 疑念が膨らんだ。


「ねぇ、彩花、それってちょっと怖くない?」


 理沙がすぐに口を挟んできた。彼女の話すスピードがさらに加速し、「やっぱり結婚詐欺じゃない? 最近そういうの、SNSでターゲット探してるって話、めっちゃ見るんだけど!」


「そんなことある?」と私は弱々しく返したが、内心、同じ不安を感じ始めていた。


「だってさ、完璧すぎるじゃん?


 そういうヤツって、ターゲットの好みをリサーチして合わせてくるんだって!


 まるで、天女と五頭龍の話みたいにさ…あんまりうまくいくと逆に怪しく感じるもんだよ!」


 理沙はスマホを片手に、何かを検索しながらそう言った。


 彼女は最近ハマっているミステリー小説のような推理力を発揮しようとしているようだった。


「でも、涼太さん、本当にそんなことするかな…」


 私は自分の疑念を口にしながらも、彼の穏やかな笑顔を思い浮かべた。


 その笑顔は、私が高校時代に夢中になった俳優、桐谷蓮の面影を彷彿とさせる。


「桐谷蓮?


 まさか、そんな偶然ある?」


 理沙は驚きの表情を浮かべた。


「桐谷蓮って、『夏の終わりに』のあのイケメン俳優じゃん!


 もしかして涼太さん、意図的に外見を寄せてきてるとか?」


「そんなのありえないでしょ」と私は否定しつつも、理沙の言葉が引っかかる。


「いやいや、詐欺師ってそこまでやるらしいよ。


 相手の好きなタイプに合わせて外見変えたり、趣味まで作り込むんだって!」


 理沙は、どんどん話を進めながらため息をついた。


「やばい、これ、本当にミステリーの展開みたいになってきたじゃん!」


 理沙が言ったことが現実のものかはわからない。


 だけど、彼女の言葉は不安を募らせた。


「でもね、涼太さんのこと、まだ信じたい気持ちもあるんだよ」


 私は正直に打ち明けた。


「わかるよ、彩花。


 信じたいよね。


 私も、好きな人のこと疑いたくないもん。


 でも、もし何かあったら、いつでも相談してよ。


 一人で悩むのは危険だからさ」


 その言葉に、私は少し救われた。


 理沙の明るい口調や、はっきりとしたアドバイスが心の重荷を軽くしてくれる。


 彼女は、本当に頼りになる親友だ。


 その夜、涼太のことを考えながらも、どうしても答えが出せない私は、再びネットで彼に関する情報を探し始めた。


 しかし、彼の素性に関する手がかりは何一つ掴めなかった。


 彼の正体が明らかになる日が来るのだろうか。


  その時、私はどんな決断を下すのだろうか。


「ねぇ、彩花。


 ニュースで見た?


 あのIT社長の結婚詐欺事件。


 被害者、みんな精神的にも金銭的にもかなりのダメージを受けてるって。


 涼太さんも、もしかして…」


 理沙はスマホの画面を見せながら、私に恐る恐る問いかけた。


 その瞬間、私の胸の奥で、確かな不安が再び湧き上がった。


「もしかして、涼太さんも…?」

最後まで読んでいただきましてありがとうございます!


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