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25話【愛の共闘戦線:裏切り者の懺悔と真実の愛の誓い】

 その時だった。  灯台の下から、予期せぬ、しかしどこか懐かしい声が響いた。まるで暗闇を切り裂く一筋の希望のように、その声は二人の耳に届いた。極度の緊張状態にあった二人は、一瞬にしてその声の主を探し求めた。


「よく来たね、二人とも。こんな形で再会するとは思わなかったよ」


 驚いて振り返ると、螺旋階段の上に立っていたのは――かつてバーで、蓮の「偽物」として振る舞い、彩花に不信感を抱かせた男だった。桐島悠斗、その人だ。


 以前、彼が纏っていた冷酷な仮面は跡形もなく消え去り、顔にはどこか晴れやかな、深い贖罪を求めるような穏やかな笑みが浮かんでいた。その瞳には、夜明けの光のような、新たな決意の輝きが宿っていた。


「あなた……どうしてここに……?」


 警戒を解かない蓮に対し、桐島はゆっくりと、一歩一歩、その距離を詰めるように近づきながら口を開いた。彼の足音は、静寂に包まれた書斎の床に重く響き、それが現実であると示していた。


「君を助けるために来たんだ、蓮。そして――まだ伝えていない、君と父上の秘密が山ほどある」


 男――桐島悠斗は、かつてクロノス・コーポレーションの優秀なエリート研究者として、この隠された書斎の管理者だった。


 彼の目に宿る光は、かつて組織の一部として生きていた頃の冷たさではなく、強い決意と、拭い去れない深い罪悪感が入り混じっていた。それは、彼が過去に犯した過ちの大きさと、それを乗り越えようとする強い意志を物語っていた。


「俺は……蓮のすべてを監視する任務を任されていた。君の感情、思考、行動のすべてを記録していた。でも、知れば知るほど……組織が君に課した非道な仕打ちが、一人の人間として許せなくなったんだ」


 桐島は、父の愛によって偽装された本棚に触れ、埃を払うように指を滑らせた。その仕草は、過去の苦痛な記憶を浄化しようとするかのようだった。


「ここで、君は何度も記憶を抜かれ、人格を操作された。耐えるたびに、君は声を押し殺して泣いていた。その悲痛な姿を見て……俺はもう、自分の良心を偽ることを止め、目を背けられなくなった」


 彩花は唇を震わせ、蓮の腕を強く握った。蓮は視線を伏せ、屈辱と怒りが入り混じる記憶に、一瞬だけ全身を震わせた。桐島の言葉は、彼の心の奥底に封じ込めていた痛みを、再び生々しく呼び覚ますのだった。


 桐島は続ける。その声には、単なる組織への反逆ではない、人類の未来への深い憂慮が滲んでいた。


「クロノスは、新薬の開発を隠れ蓑に“人類の記憶を支配する技術”を完成させるつもりだ。それが一度完成すれば、世界の指導者たちはすべて彼らの意のままになる。世界の均衡を壊すと分かっていながら、組織は止まらない。俺は……もう、あんな地獄の創造に加担したくないんだ」


 桐島の声は確かな怒りと、自己を犠牲にする献身に震え、その奥底には赦されない罪を背負った者の、重い痛みが滲んでいた。



 その時――


「悠斗……お前まで、裏切るのか」


 重く、悲痛な声が灯台の最上階に響いた。それは、組織の崩壊を目の当たりにする者の、魂の叫びのようだった。  階段の陰から姿を現したのは鬼塚だった。彼は怒りよりも深い、絶望に近い、人間的な表情をしていた。その目は、組織への盲目的な忠誠と、湧き上がる良心の板挟みで、ひどく揺れていた。


「鬼塚さん……あなたも分かってるはずです。俺たちがしてきたことが、どれほど多くの人生と未来を壊してきたのか。私たちは、もう止めるべきだ」


 桐島の言葉に、鬼塚は深く、長く、目を閉じた。彼の瞼の裏には、これまでに犠牲にした無数の人生が映っているようだった。  階段の軋む音だけが響く長い沈黙が降りる。彼が背負ってきた組織の闇の重さが、冷たい空気となって書斎に漂っていた。


 やがて、鬼塚は深く震える息を吐き、部下たちに静かに告げた。


「……撤退だ。これ以上は、無意味だ。ここで無益な血を流す必要はない」


 その声は敗北ではなく、良心的な諦めにも似た、組織人としての悲痛が混じっていた。彼は桐島に、絞り出すように、しかし強い言葉で言った。


「お前はまだ希望を見ている。愛する者と守るべき未来がある。だが、俺にはもう…戻れない場所がある」


 鬼塚は桐島を一度だけ振り返ると、重い足取りで灯台を去っていった。残された背中は、かつての威圧感ではなく、迷いと苦悩を抱えたひとりの人間のものだった。その姿を見送りながら、彩花は胸に静かな決意が芽生えるのを感じた。


誓いと共闘の結成

「……あなたこそが、あの時、匿名で私に電話をくれた人ですか?」


 彩花の声は、微かに震えているが、その奥に強い警戒心が宿っていた。  恐怖に押しつぶされそうだった日々、闇の中で唯一の光だった“あの警告”。その主が、かつて蓮を裏切った影武者であるという事実に、胸の奥で複雑な感情が渦巻く。


 桐島悠斗は、まるで長い迷路と罪悪感を抜け出した者のように、静かに、贖罪の意を込めて頷いた。


「……ああ。あの時、君に電話をかけたのは、俺だ。そして、君に不要な不信感を抱かせたことは謝る。許してくれとは言わない」


 彩花は、警戒しながらも、彼の表情をまっすぐ見つめた。


「あの電話の声には、嘘をつきながらも、私を助けたいという切実な気持ちが感じられました。あなたの良心を信じてくれたこと、感謝します」


 彩花は心の壁を崩し、理性的にそう告げた。


 桐島は蓮に向き直った。その問いは、桐島自身の救済に関わる、最も重要な確認だった。


「蓮。最後に確認させてほしい。涼太として生きたあの時間は、君にとって真実の愛だったのか?」


 蓮は、一瞬の迷いもなく、彩花を見つめながら、強く答えた。


「ああ。彼女への想い、あれが僕の唯一の真実だ」


 桐島の目に、安堵と確信の光が宿った。彼は深々と頭を下げた。


「ありがとう。俺は、君たちのその愛と未来を守るため、すべてを捧げる」


 蓮もまた、深く頷いた。彼の瞳には過去への復讐と未来への希望という揺るぎない光が宿っている。


「桐島さん。あなたの内部情報ちからが必要です。私の記憶を奪った黒幕を突き止め、クロノスの企みを白日の下に晒したい」


 蓮の声音には、過去をただ取り戻すだけではない――“未来を守り、掴みに行く”という、強く、確固たる戦闘的な意志が宿っていた。



 桐島は、その決意を正面から受け止めるように二人を見た。彼の表情には、裏切り者としての孤独を断ち切ったような清々しさがある。


「もちろん協力する。すべてを話そう。だが……クロノスは君たちが想像する以上に巨大だ。司令塔を突き止めるには、慎重に、そして大胆に動かないといけない」


 その一言には、かつて内部にいた者だけが知る“恐るべき現実”が含まれていた。冷静な口調の奥で、彼自身もまた復讐心を燃やし続けていることが、はっきりと伝わる。


 その夜、三人は灯台の古びた最上階で夜を明かした。  閉ざされた空間なのに、不思議と時間だけが深く広がっていくような、濃密な夜だった。


「ここには、昔この灯台で働いていた男の『私的な日記』が残っている」


 桐島の言葉に、蓮と彩花の視線が稲妻のように彼へ向く。


「その男は、クロノス・コーポレーションの創設に深く関わった、初期の重要人物の一人らしい。黒崎剛一郎の過去にも深く触れていて……そして――」


 桐島は、衝撃を与えることへの躊躇を押し殺すように、蓮をまっすぐに見つめた。


「彼は、君の父親の右腕であり、かつて奥野博士を裏切り、君を実験施設に引き渡すきっかけを作った張本人だ」


 蓮は息を呑んだ。喉の奥がひりつく。胸の奥に沈んでいた記憶の欠片が、ざわざわと、騒々しく動き出す。


「その男の日記には、君が見たもの、聞いたこと、感じたこと……君の幼少期と実験のすべてが、驚くほど細かく書き残されているはずだ。それは、君の失われた過去を解く唯一の鍵であり……クロノスを倒す、決定的な突破口になる最重要資料だ」


 灯台の古い壁がきしみ、風が窓を叩いた。  覚醒した戦士(蓮)、秘密の力を持つヒロイン(彩花)、そして組織の真実を知る賢者(桐島)。警戒と信頼が入り混じる中で、三人の共闘は、今、ここに結成された。

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