第7話 統合幕僚長視点
『ここ国会議事堂前では、大勢の市民によるデモが行われています! 留まる事を知らない物価高騰や増税で、市民の怒りがピークに達し……』
国防を担う防衛省。
その一室。
壁に設置された大型テレビを見ながら、苦い顔を浮かばせる初老の男性が1人いる。
名前は中野紘一。
自衛隊のトップたる統合幕僚長であり、今現在怪獣の対処を行っている最大の苦労人だ。
「放送されるたび、酷い事になっていますね。正門なんか荒れ果てているみたいですし……」
「ああ……」
秘書を務める若い女性幹部に答えつつ、テレビを見続ける中野。
国会議事堂正門前には数十及ぶ人々が押し寄せており、プラカードを掲げながら怒号を上げている。
正門にはところどころ石やゴミがまみれて、議事堂らしかぬ酷い状態となっていた。
『増税反対!! 物価高騰何とかしろ!!』
『いつまで増税をするんだ!!』
『こっちは怪獣のせいで生活が困窮しているんだ!! 俺達に一生苦しめって言うのか!?』
『クソ議員ども死んじまええええええええ!!!』
プラカードには『増税反対』や『物価高騰改善求む』といったのが書かれているが、中には『国民を苦しむ議員に死を!!』なんて物騒なものもある。
人々の表情も怒りを通り越して殺意に満ち溢れており、ガードしている警備員と一触即発の状態となっていた。
「何が『国民の方々に心苦しいと思っているが』だ……外国に逃亡までしおって……」
10年前において始まった未曽有の大災害――怪獣黙示録。
深海から、地底から、山地からと、ありとあらゆる無数の怪獣が襲来し、人類文明が蹂躙される日々。
その影響で人々は疲弊し、さらには貿易への悪影響による物価高騰までもが発生してしまった。
もちろんそれを黙って見ている人類側ではなく、日本も自衛隊を出動させて対処に当たっている。
が、自衛隊というのはとにかく金がかかる。
故に議員達が増税という形で戦力補給を行っているが、それが物価高騰で苦しむ国民の逆鱗に触れてしまったのだ。
彼らはいつ終わるのか分からない怪獣災害に晒され、さらには怪獣によって高騰した物価に喘いでいる。
そこに増税など付け加えたら、議員達に殺意を覚えるのは無理もない。
議員も議員で、国民に申し訳ないと言いつつも代替案をロクに考えないのだから質が悪い。
彼らは苦しんでいる国民を、対岸の火事と見ているのだ。
……もっとも、国民もそれを黙って受けている訳ではないが。
「つい最近、増税を推進した議員がリンチされて精神が病んだりしましたからね……。それを恐れた他の議員が国外逃亡を図ったり……確か最近だと……」
「ああ、議員のご自宅が特定されて放火した。皆、国会に対して並みならぬ憎悪を持っているんだ」
「……もはや政治も何もないですね」
絞るように秘書が口にした途端、テレビからの声が騒がしくなっていった。
中野達がおもむろに見てみると、デモ隊と警備員の衝突が始まっている様子。
『乱闘です!! デモ隊と警備員の乱闘が始まりました!! 警備員が警棒で滅多打ちにする光景も確認できます!! 悲惨な光景!! 悲惨な光景です!!』
「……怪獣黙示録によって、皆狂ってしまったんだ……」
突如として出現した異形の存在――怪獣。
文明に多大な影響を与える最大の脅威は、今まで培ってきた秩序を見事なまでに崩壊させてしまった。
まるで環境破壊という驕りをもたらした人類に、罰を与えるかのように。
このまま現状が続けば人類はいずれ駆逐されてしまうという、研究者の見解だってある。
そもそも、怪獣によって霊長の座から追いやられてしまったなんて話なんてのも。
政治も何もないどころか、人類は「未来」すら奪われてしまったのだ。
その影響の一部が、このテレビに映っている異常なデモという訳だ。
「……とにかく、怪獣から国民を守るのが我々の債務だ。ソドムの件の連絡も来てほしいところだが」
先ほど、ソドムと交戦していた自衛隊が全員生還したという報告が来ていた。
それは良い事であるが、何故か生還した自衛隊全員が経緯の報告をしてこないのだ。
増援に向かった別部隊から聞いたところ、皆が夢でも見ているかのように呆然顔だったという。
一方で、問題のソドムは今なお行方不明。
もちろん捜索に当たっているが、影も形も見当たらないとか。
なのでその事情説明の結果を待っている中野であるが、そこに1本の電話が鳴り出した。
「私だ」
『統合幕僚長、ソドムと交戦した部隊の経緯が判明しました』
「そうか。では報告を頼む」
受話器を取るなりそういう声がやってきたので、すぐに説明を促した
……が、その相手が急に黙ってしまったので、眉をひそめる中野。
「どうした? 言えない事なのか?」
『いえ……にわかに信じがたい話でして、正直に申していいのか……』
「現に怪獣災害という信じがたい事が起こってるんだ。今さら驚きはしない。一体何があったというのだ?」
『……実は……ソドムとの交戦中、魔女姿のコスプレイヤーが現れたそうで……』
「……………………はっ?」
『その魔女が持っている杖でソドムを叩きのめした後、何故かソドムが彼女に従うように大人しくなったらしく……。しかも魔女が出した空間の穴に、ソドムが収容されたとか……』
「………………漫画の見過ぎか……?」
『いえ、部隊全員が申しております。残念ながらカメラは戦闘中に破損して、その魔女とやらの映像が上手く映っていない状態でして……』
「…………スゥー…………分かった。報告ご苦労……」
受話器を起き、握り合った拳を頭に添える中野
その姿を見かねてか、秘書が怪訝そうに尋ねてくる。
「どうかなさいました? 漫画の見過ぎだとどうとか……」
「……突如として魔女みたいな奴が現れ、ソドムをあしらっていったらしい。しかもソドムが彼女に対して、従うような仕草を見せたとか……」
「……漫画の見過ぎでは?」
「君も思うだろう? そもそも相手は戦車の砲撃をものともしない化け物だぞ? それを身一つであしらうとか……いや本当に何があったというんだ……?」
これには頭を抱えるしかない中野だった。
怪獣黙示録に対して現実逃避をしたい気持ちは分かるものの、だからと言ってこんな報告など予想外でしかない。
「……怪獣黙示録は人々を狂わせたと、さっき言ったよな?」
「ええ」
「……どうやら、漫画の展開を妄想するくらいに狂ってしまったらしい……」
「……かもしれませんね」
今の中野に出来るのは、怪獣黙示録が与えた影響を再認識する事だけだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第1章はこちらで完結。
続きまして新キャラが登場する2章へと突入します!
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