第33話 強大な海棲怪獣
「『レヴィアタン』?」
怪獣を飼い慣らしていると勘違いしていたオッサンの出来事から後日。
私は強い気配を感じるというソドムの言葉が気になったので、日本に新たな怪獣が現れたのではと調べていた。
しかしそれらしき情報が特になく、ならばと足を運んだのが防衛省……そう中野統合幕僚長の元だ。
出入り口から入ろうとした際には警備員に止められたものの、彼が「魔女のコスプレをした女性が現れた」と報告したらすぐ通してくれた。
どうも私、幕僚長達からそういう認識をされているらしい。
確かに普通の人にはコスプレをしていると思われるだろうが、いささか複雑な心境だ。
ともあれ綾那とギルを連れてきた私に対し、統合幕僚長が立ち話もなんだとソファーを薦めてくれた。
それで綾那が服を用意してくれた事にお礼を言ったり、女性秘書がお茶と和菓子を用意したりした後、統合幕僚長が私へと怪獣の名を告げてくれたのだ。
「実は数日前から大西洋で発見された怪獣がいてな、海龍を思わせる姿からレヴィアタンと呼称されたのだ。ちなみにレヴィアタンというのは……」
「旧約聖書に記されている神の創造物たる海龍で、伝承の生物の中では最強クラス……でしょ?」
「さすがに分かるか。ともかくそのレヴィアタンは最初大西洋にいたのだが、ある日を境にアメリカ付近の太平洋へと縄張りを変えたのだ。そしてつい昨日、米軍艦隊と交戦していたバクナワという怪獣を喰い殺したらしい。艦隊の砲撃を耐え抜いたその怪獣を一瞬にしてな」
「そんなニュース、見ても聞いてもないんだけど」
「まだマスコミに発表していないからな。もう既に情報を渡しているから、後日にニュースが流れると思うが。これがそのレヴィアタンを映した映像だ」
彼が懐からスマホを取り出した後、とある動画を再生してくれた。
まず、艦隊と交戦するウナギにもウミヘビにも見える怪獣。
甲高い咆哮を上げながら駆逐艦を破壊した後、カメラへと猛ダッシュで向かって来る。
しかし近くから別の怪獣が出現。
そのウミヘビ怪獣をくわえてしまい、海の中へと消えてしまったのだ。
ウミヘビのような奴がバクナワだとすると、そいつをくわえた別の怪獣がレヴィアタンという事か。
《知識感応》で覚えた操作方法で動画を一時停止させれば、その怪獣の細部がアリアリと伝わってくる。
ドラゴンやワニを思わせる細長い頭部、全身のやや黒ずんだ紅い鱗、頭部に反してまるまるとした胴体にうちわのようなヒレをした両手両足、そして先端にヒレを生やした長大な尻尾。
いずれも陸上に適応した怪獣達とは、かなり異なった印象が見受けられた。
「何で大西洋から太平洋に? 生物というのは、そうそう縄張りを変えないものだけど?」
「それが分からん。他の怪獣に追い出されたのか、食糧が枯渇したのか。もっとも奴の主食は怪獣そのもので、しかも大西洋には無数の海棲怪獣がたくさんいる。なので後者の説はないと思うが……」
「怪獣そのもの……人間は襲われた事ないんだ?」
「意外とな。過去に遭遇した事例があったが、それに対しレヴィアタンは襲う事はしなかったそうだ。案外、人間やその船を取るに足らないものと思っているかもしれんな」
「変わっているわね、その怪獣」
いきなり生息場所を変えたり人を襲わなかったりと腑に落ちない点があるものの、それはさておいてだ。
艦隊を追い詰めた怪獣を捕食する辺り、このレヴィアタンという怪獣は強大な存在だろう。
ソドムが本能としての勘なんかで感じ取れる訳だ。
それにこのレヴィアタン、元の世界にいた『シードラゴン』という魔獣にどこか似ている。
広大な海を縄張りにしつつ津波や竜巻を操っていたドラゴン型魔獣で、私はそんな存在に魅力を感じていた。
それで下僕にしようと縄張りに向かったものの、私の命を狙っていた刺客によって事前に葬られたという屈辱を味わされた。
「シードラゴンの次は貴様だ!!」と襲い掛かってきた刺客を怒り任せで返り討ちするくらい、メチャクチャ荒れてしまったものだ。
……今回は、そのリベンジが出来るのでは?
「レヴィアタンは水陸両用で、海岸に出現した怪獣を追いかけて捕食する事もあるらしい。なんでアメリカの海岸付近では、奴の上陸を警戒しているらしい」
「……それはつまり、アメリカに行けばこの怪獣に会えるって訳ね」
「それはそうだが……まさか君、このレヴィアタンを……?」
「フフッ……」
ここまで察してくれた以上、言うまでもないだろう。
海に適した流線型という、ソドムとは違ったフォルム。
そのソドムに通じる凶暴な顔つきと、ズラリと並んだ鋭い牙。
艦隊を圧倒するような他の怪獣を、いとも簡単に捕食する強大さ。
これでこのエドナ・デューテリオスが惹かれない事があるだろうか?
否、そんな事は全くない。
もう既に決まっているのだ、このレヴィアタンを私の下僕にするという事に!
今すぐにでも、アメリカに行ってこの怪獣に会いたいくらいだ!
「ハァ……前に君をイカれていると言ったが、訂正だ。君はどうしようもなくイカれているよ」
「実際そうですね。だからこそ、ボク達はこの世界に転移したのかもしれませんが」
「色々と大変ですね……。あっ、ギルさん、これどうぞ」
「ああ、わざわざすいません。あむ……うん美味しいですよ」
「フフッ、よかったです。ギルさんは本当に可愛いですねぇ」
なおギルは女性秘書と戯れているらしく、和菓子をあーんしてもらったり頭をナデナデしてもらったりしていた。
しかもギルも満更でもないか、ナデナデされてちょっと嬉しそうだ。ムカつく野郎ね。
「どうせ止めたって無駄だろうから、何も言わないでおく。それにレヴィアタンを確保すれば、被害が減る可能性があるからな。君に任せるよ」
「さすが統合幕僚長、話が早いわね」
「どうも。しかし今のアメリカは、核を使って怪獣を仕留め続けている。故にそこら中に放射能汚染が広まっているし、活動範囲も限られている。それでも行くというのかね?」
アメリカの核による怪獣退治は、この間のニュースで把握済みだ。
もちろん、そういった汚染地域を練り歩くほど私は馬鹿ではない。
「まだ無事な国があるの知っているから問題ないわ。特にサンフランシスコならほとんど無傷らしいから、向かうとすればそこ一択になるわね」
この言葉は嘘ではない。
私は陀魏山の位置を知るべく統合幕僚長に《知識感応》を発動させた事があったが、その際にアメリカの情報をも取り込んでいたのだ。
放射能汚染が広がっている場所とそうではない場所が、手に取るように分かる。
とっくに向かう場所にも目星を付けているのだ。
「確かにサンフランシスコなら……まぁ、問題は飛行機に乗れられるかだが……」
「規制が掛かってるからよね? そも私達はパスポートなんか持っていないんだから乗れる訳がない。だから別の方法でアメリカに向かうわ」
「そういえば、そんなスキルがあるって言ったよね……? もしかしてそれ……?」
和菓子をパクパク食べていた綾那に対し「ええそうよ」と返す。
それを使えば、飛行機で数時間以上掛かるアメリカでさえも一瞬で直行だ。
「……この世界の人間ではない君に言っても仕方ないと思うが、一応は犯罪だからな? だから私は一切関与しないし、全て自己責任でやってほしい。それで構わないかね?」
「問題はないわ。だからこの話も、記録上本来はないって事で。何かあればシラを切るといいわ」
「そうさせてもらうよ。問題事を起こした君に巻き込まれるのはごめんだからね」
陀魏山の際はかなり気を遣った方であるが、さすがにこの件ばかりは仕方がない。
戸籍のない私がパスポートを作れる訳がないし、偽装なんてのはもってのほか。
とにかくそういうのは気を付けつつ、早急に事を進めたいところだ。
「フフフ……下僕を求める血がたぎるわね。待っていなさい、私のレヴィアタン!」
ソファーから立ち上がりながら、高らかに発する私。
目指すは、強大な海棲怪獣レヴィアタンの下僕化ただそれだけだ!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
海棲怪獣レヴィアタンを下僕にするという新たな目的が出来たところで、次の第5章へと進みます!
引き続き楽しんで下されば幸いです!
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