第27話 食べて、寝て
「はい、出来たわよ」
ギルが綾那の服を取りに行っている間、私は昼食を完成させていた。
切った鹿肉や猪肉、そして統合幕僚長からもらった野菜を適当に放り込んだスープ。
味付けは塩と胡椒たったそれだけ。
食材を切って、スープに放り込んで、塩胡椒で味を調える。
料理が好きじゃない私でも簡単に出来るのが、嬉しいところだ。
「わぁ……いただきまーす!」
お椀から肉をすくい出す綾那。
それが乗ったスプーンを口の中に放り込むや否や、彼女の目がビックリするように見開いた。
「美味しい~……! エドナさん、料理が出来るんだねぇ~……!」
「切って煮ての簡単なやつしか出来ないけどね。ほとんどの事はギルに任せているし」
「でも凄いなぁ~……。ママなんかいつも菓子パンだけしかくれなかったから、こういう料理作れる人に尊敬しちゃうというか……」
……あまり湿っぽい話されると、反応に困るわ……。
聞き流す事にしてスープを飲んだ時、ブーンと羽根の音が聞こえてくる。
見てみれば、ギルが紙袋を持ちながらこちらに帰って来ていた。
「遅かったじゃない、ギル。昼ご飯、もう出来たわよ」
「意外と早かったですね。それよりも綾那さん、幕僚長さんから服もらってきましたよ。サイズは保証しないって言ってましたけど」
「服……!? 着る着る……! 食べた後に着るね……!」
早く着たいからか、綾那が「ハフッ、ハフッ」と熱がりながらもスープを頬張っていた。
ギルが「服は逃げませんからゆっくりでいいですよ」と言うも、結局はすぐに飲み干して着替えに取り掛かる事となった。
「多分こうかな……んっと、よし……どうかな? 似合う……?」
身に纏ったのは白いワンピース。
それまで浮浪者じみた姿とは一転、どこにでもいる普通の女の子がそこにあった。
しかも顔や髪などを手入れしているので、中々可愛い。
可愛い顔ではにかみながら尋ねる姿には、さしもの私も感心を覚えた。
「いいじゃない。可愛いと思うわ」
「確かに今の綾那さん、かなり可愛いですよ。サイズも合っているみたいですし」
「へへっ……そうかなぁ……何かそう言われると照れちゃう……」
もしや綾那、手入れとかをちゃんとしていれば美少女になりえるかもしれない。
まぁ、私ほどではないと思うが。
「幕僚長さんにまた会ったらお礼言わないとなぁ……」
「ですね。ところでご主人様、もし調味料と野菜が切れたら自分のところに来てくれてって、幕僚長さんが言ってましたよ。またそれらを支給するからって」
「ふーん、彼も枠な事をするのね。その通りにさせてもらうわ」
「だからと言って、過剰に要求しちゃ駄目なんですけどね。まぁともかく、ボクもお腹減りましたんでスープ下さい。ご主人様手製の味が気になりますし」
「別にマズくはないわよ。はいどーぞ」
私はお椀にスープを入れ、ぶっきらぼうにギルへと渡した。
その一方、綾那がシームルグの前でワンピースを披露している様子。
「見て見てシームルグ……! 幕僚長さんから可愛い服もらっちゃった……! どう似合う……!?」
――キュルウウウウウウ……。
「もしかして可愛いとか言ってくれてる……!? だったら嬉しいなぁ~……!」
シームルグが返事なのか適当なのか分からない鳴き声を上げるものの、それを賞賛と受け止めたのか嬉しそうにほころばせる綾那。
……あとでシームルグに《言語理解》を与えて、言葉を話せるようにしてみようか。
その方が、綾那にとってもメリットあるだろうから。
「うん、美味いです。この世界の塩胡椒がいい仕事してますねぇ」
なお、ギルはスープを飲むなりそう一言。
……私の腕より、調味料の方を評価してるのが気になるんだけど……。
そんな視線を送るも、食事に夢中だろうそいつに無視される事となった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
色々と暇を潰した後、いよいよその時間となった。
私の作った木造小屋での、初めての就寝。
最初私は床で、綾那はベッドで寝る予定だったが、これに対し綾那が「一緒にベッドで寝よう」と駄々をこねたのだ。
私は別にいいと言ったものの、あまりにもしつこかったので根負けする事となった。
「……やっぱりちょっと狭くない? 落ちるわよ」
「大丈夫だって……。くっつけば何とかなるから……」
「あまりそうされると寝にくいんだけどなぁ……」
そうしてベッドの上にて、毛布にくるみながら横たわる私と綾那。
綾那の方は薄いピンク色のパジャマを着ているが、これも統合幕僚長達が用意したもの。
相当気に入ったらしく、嬉しそうに「エドナさん見て見て~」と見せ付けたりしていたものだ。
「……はぁ」
ため息が自然に漏れる。
ギルの方は、壁に設置した板の上でとっくに寝てしまっているらしい。
奴に頼れない以上、素直に綾那の言う通りにした方がいいだろう。
そんな事を思いつつも、私は窓から見えるソドム達の姿へと一瞥した。
――キュウウウウ……。
まずシームルグは、ソドムのすぐ近くでうずくまりながら眠っているようだ。
そしてソドムは廃墟ビルの時のように腰かけ、微かな唸り声を上げながら満月を見上げている。
実際には違うだろうが、まるでそれは何かに考えふけているかのよう。
人間が引き起こした環境激変によって生まれ、身に宿した破壊力から脅威となってしまった怪獣。
その1体である彼の姿は、どこか哀愁に近いものを感じられるのは私の思い過ごしだろうか。
……そういうところも、凄くときめくんだけどね。はぁ愉悦……。
「にしてもシームルグの言葉が分からなかったの、ちょっと残念だね……。スキルを使ったっていうのに……」
「ん? あー、そういう場合もあるわよ。別にスキルを使ったからといって、必ず言葉を発する訳じゃないし」
「そっか……。ソドムさんはちゃんと話せるのになぁ……」
綾那に答えた通り、私は先ほどシームルグに《言語理解》を与えたのだ。
ソドムが話せるのもこのスキルのおかげであり、シームルグも同様に会話できるだろうと思ったのだが、残念ながら何も話せなかったという徒労の結果となった。
もっとも《言語理解》は決して万能でなく、鳴き声が言葉に変換できない場合は発動できない事もある。
シームルグのその類と思われるので致し方がないが、「やっとこの子と会話できる!」とウキウキしていた綾那は今でも消沈しているようだ。
「それに言葉なんて必須じゃないわ。飼い犬と同じように、会話できなくても想いを通じ合える事が出来る。テイムした怪獣なら尚更よ。だから会話できないからって、くよくよする事はないわ」
「……確かにそうかも。エドナさん、割と良い事言うんだね……」
「ついにギルと同じ事を言うようになったわね。泣けてくるわ」
「あっ、ごめん、そういう意味じゃ……もう機嫌直してよぉ、エドナさーん……」
私がつーんと背を向けてみれば、綾那がゆさゆさ肩を揺らしてくる。
まったくこの子は……。
「……ところで気に入ったかしら、ここ」
「陀魏山? うん、めちゃくちゃ気に入ってる……瓦礫の山より全然こっちの方がいいもん。そういうエドナさんは……?」
「気に入っているも何も、とにかくここなら人は全く来ないし、広い山だからどんなに怪獣を集めても内包できる。私の怪獣下僕ライフもいよいよ充実になってくるんだと思うと、今でもワクワクが止まらないわ」
「……エドナさんらしいや。でも、それならここに来てよかったね……」
「ほんとね」
そういう意味では、統合幕僚長には頭が上がらない。
怪獣下僕ライフの事は理解されなくても、こうして私有の山を提供してくれたのだから。
なので彼のご厚意に甘えて、どんどん怪獣を下僕にしておこうと思う。
私の下僕ライフに終わりはないのだ。
「さて、話はここまでにして寝るわよ。明日も早いしね」
「うん。お休みなさい、エドナさん……」
「お休み」
私は目を閉じて眠りに入ろうとした。
外から聞こえてくるソドムの唸り声を、子守歌代わりとして聞きながら。
……そして数日後、それは起きるのだった。
ちょっとしたイベントが。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
エドナが普段使っている《言語理解》というスキルですが、これは簡単に言えば「ほんやくこんにゃく」と同じ効果があるという事です。
これを使ってエドナ達が日本語を喋ったり、怪獣に言語能力を与えている訳です。
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