表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/34

第25話 思いもよらないシームルグの新技

「やっぱ山の空気は美味しいわねぇ。都会とは大違い」


「ですねぇ」


 ソドムと綾那達を小屋付近に置いてきた後、私はギルと共に陀魏山の中を探索していた。


 陀魏山の標高は約1014メートル。

 山道には多種多様な植物や樹木がびっしり生えていて、都会では味わえない空気の美味さを堪能させてくる。


 それにちょっと歩いていけば、すぐ目の前を1体の鹿が通り過ぎる。

 統合幕僚長から得た《知識感応》の情報通り、ここには鹿を始めとした動物が多く生息しているようだ。


「さて……」


「狩り過ぎには注意して下さいね。生態系に支障が出るんですから」


「分かっとるわ」


 右手から液体金属を生成させ、それをナイフ状に硬化させる。

 鋼属性魔法のちょっとした応用で、そのナイフ数本を鹿目掛けて投擲(とうてき)した。


 ――ピギィイ!!


 1~2本のナイフが鹿の首元に当たり、残りは樹木に突き刺さる。

 首元を喰らった鹿は即死したらしく、ピクリとも動かなくなった。


「食糧確保っと。この世界で狩りが出来るなんて最高よね」


 怪獣を一目(はばか)らずに出す事が出来、かつ自然の中で暮らせれる。

 さらに食糧として狩ってもいい獣もいる。


 まさに私におあつらえ向きの場所。

 ここを自由に使えるなんて、統合幕僚長様様ね。


「とりあえず鹿は《亜空間》にしまってと。あと猪もいるらしいから、それも狩っておきたいわね。出来ればデカい奴」


「綾那さん達もいるので気持ちは分かりますが、それは贅沢ってもんですよ。ここは幕僚長さんの山なんですから、なるべく遠慮しないと」


「分かってるっての、そんくらい。ったく、ギルは一言多いんだから……」


 ――グルウウ……


 ギルの辛辣発言にツッコミを入れたところ、背後から聞こえてくる獣の唸り声。


 これは怪獣ではないな。

 というか、元の世界でもよく聞いている。

 

 後ろに振り返ってみると、ビンゴ。

 私の想像通り、そこにいたのは涎だらだら牙剥き出しの大きな熊だった。


「熊までいるんですか。こりゃあ、狩りをするごとに血の匂いでやって来そうですねぇ」


「ええ。それはそれで面倒だわ」


 ――グォオオアア!!!


 鹿の血の匂いで興奮しているのだろう。

 その熊が、私へと凶暴性丸出しに襲い掛かってくる。


 普通の人間なら死亡フラグまっしぐらだ。

 そう、普通の人間なら……。


「フン!」


 ――ッグ!!?


 私は長い足を繰り出し、熊の顎を蹴り上げた。

 

 そこからすかさず回し蹴りをし、奴の頬にクリーンヒット。

 巨大な身体が背後の樹木に当たり、ぐらりと倒れ込む。


「怪獣や魔獣を相手している私を襲うなんて、100万年早いわよ。死にたくないなら……早く消えなさい」


 ――…………ッ。


 明らかに怯えた顔をしつつ逃走する熊。

 私の冷たい目で、本能的に恐怖を感じた事か。


「……ふぅ、綾那には気を付けるよう言っておかないと。いくら魔法があるからって、撃退できるとは限らないし」


「……ご主人様、すっかり綾那さんの事を心配するようになりましたね。完全に保護者ですよ」


「…………とにかく猪探すわよ。あんたも手伝いなさい」


「はいはいっと」


 熊を撃退したところで、私達は食糧探しを続行する。


 なお、探索する前にソドムにお腹空いていないかと聞いたが、昨日のアンズーで十分だったのか「まだ減っていない」と答えていた。

 シームルグは……元々山奥に住んでいたから、腹が減ったら自分で狩りをするかもしれないが。


 ここまで来ると、怪獣というのは食事をあまり必要としないのではと思えてくる。


 何せ環境激変に淘汰されないよう生まれた突然変異種なのだから、食糧の激減にも対応しているはず。

 電気を喰らうバアルなんかもいるので、そうした普通の食事に頼らない変異ないし進化を遂げているのだろう。もちろん人を喰らうアンズーとかがいるので、一概には言えないが。


「……おっ、いたいた」


 しばらく山道を探索したところ、草むらの奥でキノコを食べる猪を発見。

 無論そいつも鋼属性魔法のナイフで仕留めていき、新鮮ホヤホヤのジビエ2個目をゲットする事が出来た。


 しかも、両手で抱えるほどのビックサイズなのがありがたい。


「よしっと。じゃあ、そろそろ綾那達のところに戻るわよ」


「了解です」


 そうして、自分達の小屋へと戻ろうと踵を返した時。

 

 ドオオオンンン!!


 まるで落雷が降ったかのような凄まじい音が、森中に響き渡ったのだ。


「何かしら?」


「小屋の方ですね。綾那さん達に何かあったのでは?」


「行ってみましょう」


 もし野良の怪獣が現れたのなら、そいつやソドムの咆哮が聞こえてくるはずだが……。

 

 急いでその場へと戻ってみると、宙に浮かんでいるシームルグと背中に乗っている綾那の姿があった。

 一見大した事のない光景だが、何かシームルグの口元から上空にかけて雷の軌跡が見えるような?


「綾那、何かあったの?」


「……あっ、エドナさん! えっとね、えっとね……! 何かシームルグに乗りながら魔法を放とうとしたらね……! えっと、もう1回やるから見てて……!」


 かなり焦っているからか、言葉がグチャグチャだ。


 その綾那が魔法を放とうと手をかざした途端、何故かシームルグの口の方が青白く輝く。

 

 直後、轟音と共にシームルグの口から放電。

 ほとばしった雷が上空を切り裂き、やがて徐々に散り散りになって消え失せる。


「あー、なるほど。そういう事ね」


「何か分かるの、エドナさん……!?」


「あなたとシームルグは《テイム》をした関係でしょ? 《テイム》をした生物に魔力を付加させれば、その生物が主人の魔法を使う事が出来る。私も似たような事やったから、すぐに分かったわ」


「あっ、なるほど……! あたしが背中に乗ってるから、シームルグに魔法が流れちゃったんだ……!」


「そういう事。見るからに、あなたが放つ魔法よりも威力が高まってるみたいだから、周りには気を付け……」


「わぁ……わぁ……! 「ていむ」をするとこういう事が出来るんだ……! あたしとシームルグって凄い……!!」


「……うん、聞いてないな」


 私の注意をよそに、綾那が嬉しそうにシームルグの首へと抱き付いていた。

 シームルグの方も満更ではないらしく、穏やかな鳴き声を何回か上げている。


 ……彼と綾那、良いコンビになれるかもね。

 なんて思いつつも、《亜空間》から鹿と猪を取り出す私。


「それよりも鹿と猪、狩ってきたわよ。昼ご飯はひとまずこれにするから」


「わっ、でかっ……! もしかしてこれから(さば)くの……!?」


「あなたはそういうの見て大丈夫?」


「うん、大丈夫だと思うよ……! シームルグもよかったら食べる……!?」


 ――…………。


「あれ、反応が薄い……食べないのかな?」


「ソドムみたく代謝が低い体質なのかも。それよりもギル、ちゃっちゃと解体してくれる?」


「はいはい」


 獣の解体もギルが担当している。

 なので鋼属性魔法のナイフを奴に渡そうとしたのだが、その直前である事を思い出す。


「そうだ。綾那の服が用意されてると思うから、あんた統合幕僚長のところに取りに行きなさい。防衛省の場所はもう分かってるんでしょ?」


「ええまぁ。一応彼にフェロモンを付けておいたので、場所は把握できますが」


 ギルはインセクトドラゴンという、昆虫の性質を持った竜の1種だ。


 インセクトドラゴンはフェロモンを用いて仲間を集めるのはもちろん、他の同種への縄張り主張、さらには逃がした獲物に付けて追跡したりしている。

 こいつには、そのフェロモンを付けた統合幕僚長の位置がハッキリと分かるのだ。


「じゃあ、すぐに行ってきます。解体と料理は任せますんで」


「はいはい、すぐに戻って来なさいよ」


「了解です」


 昆虫の羽根を羽ばたかせるギル。

 私は奴の飛んでいく姿を見届けてから、獣の解体に取り掛かる事にした……のだが、


「エドナさんが解体するの?」


「ええ、それが?」


「……いや、ギルさんがいつも料理してるから……」


「私もそれなりに出来るっつうの」


 私の料理を見てないせいか、綾那から心配の目を向けられる事となった。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


 陀魏山は「婆羅『陀魏山』神」。つまり大怪獣バランが名前の由来となっています。

 標高の1014メートルも、大怪獣バランの公開月日である10月14日が元です。


「面白い」「続きが気になる」と思った方は、ぜひとも下の☆☆☆☆☆への評価、感想やレビュー、ブックマークよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ