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第24話 新しい住居先

 廃墟ビルに戻った後、水属性魔法で汗などを洗い流した。

 途中綾那が私の胸を触ってきたり、それを私が「やめなさい」と押しのけたりと色々あったりしたものの、その後は疲れが出てきて全員ぐっすりと眠っていった。


 そうして目を覚ますと日の出が見えてきたので、朝食をとってから廃墟ビルを出発。

 

 もうこれからこの場所に戻る事はないので、少し寂しく感じる。

 

 だが同時に心が躍っていた。

 何せ廃墟ビルに変わる、素晴らしい住居へと向かう事になるのだから。


「ここね」


 そうして時間を掛けてやっと、目的地が見えてきた。


 見渡す限りの森。

 その間を潜り抜けるように流れる川。


 東京の都市から西に存在する『陀魏山(だきやま)』。


 コンクリートジャングルと形容されるほどのビル群とは違い、こちらは人間の手が付けられていない自然の姿をしている。

 その川近くへと降り立ち、辺りを見回す。


「ふむ、元の世界の自然と一緒……住み甲斐がありそうね」


 根無し草故、こういう山地での野宿には慣れている。

 というか、宿で寝泊まりするよりかは好きだと言ってもいい。


 今さっきまで住んでいた廃墟ビルも悪くなかったが、やはり自然に囲まれながらの生活が色んな意味で安心する。

 それにここなら……、


「出てきて、ソドム」


《亜空間》から、ソドムと未だ寝ているシームルグを出した。

 見慣れない場所だからか、辺りを見回すソドム。


《ここは……?》


「新しく住む事になった山よ。ここなら、確実に他の人間は来ないから安心して」


《分かった……そいつは?》


「シームルグ、新しい仲間よ。今は寝ているからそっとしてやって」


《そうか……》


 と、この通りソドム達を出しても全然問題ない。

 

 統合幕僚長に人に迷惑を掛けないと言った以上、怪獣と他人の接触は絶対に避けたいのだ。

 よほどの事がない限り他人が来ないし、自然を味わえる。まさに私にとって一石二鳥なのだ!


「シームルグ、まだ眠ってるんだね……」

 

「まぁ、そろそろ起きると思うからそっとしてあげなさい。それよりも早速取り掛からないと」


「何すんの?」


「見てれば分かるわ」


 シームルグを草原の上に寝かせてあるので、この隙にある事を進めようと思う。


 まずちょうどいい太さの樹木があるのを確認してから、私はそれらへと手を振りかざした。


 そうすれば手のひらから風属性魔法が繰り出され、空気の斬撃が数十本の樹木を切り倒す。

 切り倒したそれらを風で浮かせてから、これまたちょうどいい平地へと移動させていった。


「ほいっと」


 さらに風属性魔法を繰り出し、全ての樹木を加工。

 全体の皮を剥いだり、くぼみを作ってから嚙み合わせたり、積み上げたり。


「……まぁ、こんなところね」


 小屋の出来上がりだ。


 ガラス窓も扉もない不完全ものだが、雨風を凌ぐには十分な出来だろう。

 完成に満足したところ、綾那が前に出て「わぁ~!」と感激の声を上げた。


「一瞬にして小屋が出来た……!! これも魔法……!? エドナさん凄いや……!!」


「こんなの、私の手にかかれば造作もない事よ。実際に入って確認してみて」


「いいの……!? お邪魔します……!」


 綾那が小屋へと突入するので、私とギルも後に続く。


 中に入れば、樹木特有の自然の香りが漂ってくる。

 

 広さも2人と1匹が住むのに申し分なし。

 開いた窓からは近くの川が見え、流れる音を小屋の中へと響かせてくれる。


「わぁ……ベッドみたいなものもある……。ここで寝るの……?」


「あなたがよければ使っていいわ。私は床で寝るけど」


「床で? せっかくだから一緒に寝ればいいのに……」


「嫌よ、狭苦しい」


 綾那は小屋の中を散策しながら、わぁわぁと感心しっぱなしだ。

 彼女を見て察せれるのはただ1つ。


「気に入ったみたいですね」


「そうみたい」


 ギルの言葉が本当なら、わざわざ小屋を作って正解だったかも。


 ……って、何かこれじゃ綾那を喜ばせる為に作ったって言っているようなものじゃない。

 別にそういう訳でやったんじゃ……。


 ――……キュウウウウ……。


「今の声、シームルグ起きたかな……? ちょっと行ってくる……」


「あっ、綾那」


 自問自答している際、外から聞こえてくるソドムのではない鳴き声。

 綾那が真っ先に外を出ていくので付いて行くと、確かにシームルグが目を覚まして辺りを見回していた。


 ――キュウウウウウ…………キュルルルウ……?


 それから私達にやっと気付き、ゆっくりと身体を持ち上げて近付いてくる。


 敵意は、恐らくはなさそうだ。

 あるいは怪我を治した影響で、私達を敵ではないと認識しているのかもしれない。


「怪獣にしては大人しい性格ね。被害報告が出てない訳だわ」


「……エドナさん、触っていい?」


「まだ下僕にしていないんだけど」


「そっか……でもうーん……やっぱ触る。大人しそうだし」


「気を付けなさいよね」


 シームルグへと恐る恐る近寄りながら、手を伸ばしていく綾那。


 その手が嘴に触れるも、やはりシームルグは襲ってこない。

 それで安心しただろう綾那が、遠慮せずにスリスリ撫でていった。


 ――……キュウ……。


「良い子だなぁ……。こんなにも大人しいなら、あたしもエドナさんのように手懐けたいかも……」


「…………」


 手懐けたい……か。

 今、彼女には魔法があるからもしかすれば……。


 私は愛撫に夢中な綾那に寄って、背中にトンと手を押す。

「ん?」と彼女が振り返ってきた間に、さりげなく私の力を彼女へと流し込んだ。


「……どうやら適合したみたいね。失敗するかもなぁって思ったけど、案外そうでもなかったみたい」


「えっ……何したの、今?」


「私のスキルを分け与えたのよ。怪獣と契約して従わせる為の《テイム》。それを使えば、シームルグをあなたの物にする事が出来るわ」


「……マジ?」


「マジ。『汝は我の下僕、我は汝の主。この言葉と共に契約を果たされん』って言いながら手をかざせば、契約成立よ」


「…………」


 急に黙ったかと思えば、綾那の顔が笑みでへなっと崩れた。

 

 めちゃくちゃ嬉しそう。

 美味しいお菓子を前にした子供のように嬉しそう。


「じゃあ……えっと、えっとね……! 『汝は我の下僕、我は汝の主……』……えっと、えっと……!」


「落ち着きなさい。『この言葉と共に契約を果たされん』」


「『この言葉と共に契約を果たされん』……!」


 その言葉と共に、シームルグの頭部にかざしていた手から光が灯る。

 

 ――契約は成功。

 これでシームルグは綾那の下僕となった。身も心も彼女の物である。


「これでいいの……?」


「ええ」


「やった……! シームルグ、これからもよろしくね……!!」


 ――キュオオオオン!


 下僕となったシームルグがひと鳴きを上げた後、綾那を嘴で器用に持ち上げる。

 

 それから背中に乗せるや否や、翼を羽ばたかせて上空を旋回。

 乗った綾那はこの上なく大喜びだ。


「わぁすごーい!! エドナさーん、見てるー!?」


「ちゃんと見てるわよ」


「うわぁうわぁ! 私、怪獣さんの上にいるんだー! なんかもうヤバいこれー!!」


 凄い楽しそう。

 憧れの怪獣と主従関係になったのだから、今の綾那は限りなく有頂天のはず。


 そんな彼女の手振りに同様の仕草をする私だが、心中は少々複雑だった。


 まさか保護した怪獣をあの子に託す事になるとは。それも無意識に自然と。

 この世界に来てからの当初では、絶対に想像できなかっただろう。


「シームルグを綾那さんに与えて後悔してるんじゃないですか? そんな顔していますよ」


 しかも、その考えを読み取ったかのように突いてくるギル。

 うーむ、この上なくムカつく。


「別に後悔なんか。またお気に入りの怪獣を見つけて、テイムすればいいだけだし。ソドム」


 と言った後、近くにいるソドムへと声を掛ける。

 

 気付いた彼が顔を近付けてくれたので、その頬へと身体を預けた。

 ……うーん、この鱗の質感が実にいい!


「それに、私にはカッコいいこの子がいるしね。綾那に怪獣1体やっても、お釣りは出るってもんよ」


「フッ、強がっちゃって」


「あん?」


「いえ何も」


 ギルがそっぽを向いたものの、まぁ問い詰める時間はないだろう。

 

 これからこの山の全体を把握しておきたいし、やらなければいけない事もたくさんある。

 まずはそう、食糧探しだ。

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