第23話 同性にモテモテなエドナ
「こちらが調味料と野菜となります。ご確認下さい」
ソドムの食事が終わった後、私達はスタジアムの外へと出ていた。
そこで中野統合幕僚長の秘書が2つのダンボールを持ってきて、私の前にドサリと置いてくれたのだ。
ダンボールの中を確認してみれば、豊富な調味料と野菜がぎっしりと詰まっている。
塩に胡椒にハーブ、ガーリックパウダーなどの香辛料。
そしてキャベツにレタス、玉ねぎ、ナスといった野菜。
特に元の世界では超高価だった胡椒。これが多めに入っているのが非常に嬉しい。
ちなみに野菜を見て綾那がげんなりとしているが、これも栄養バランスの為。
彼女にはこういうのにも慣れてもらうしかない。
「うん、十分だわ。ありがとう。それで山の情報は?」
「……東京の西側に位置する『陀魏山』というものだ。場所が分かなければ案内するが……」
「陀魏山ね……陀魏山……」
頭の中でルートを探っていくも、全く見つからない。
大森スタジアムと同じく、《知識感応》対象の女性は1回も行っていないみたいだ。
ルートを把握するには、山を知っている人物に《知識感応》を行うしかない。
今この場で知っているのは……、
「……はぁ……統合幕僚長、目をつぶりなさい」
「はっ?」
「いいから」
「あ、ああ……」
統合幕僚長が目をつぶったところで、自分と彼の額同士を合わせていった。
《知識感応》は、対象の額にくっつかなければ発動しない。
そんな面倒な仕様を経て、やっと陀魏山の位置やルートを把握する事が出来た。
「陀魏山の行き方が分かったわ。ありがとう、統合幕僚長」
「……今ので分かったのかね? 魔法か何かか?」
「まぁ、魔法というかスキルなんだけど。……それよりもあなたの額、脂汗まみれね。洗顔は欠かせずした方がいいわよ」
「体質だから仕方ないじゃないか……」
あまりオッサンの額とくっつけるのは不本意なのだが、この際仕方がない。
山の行き先が分かるのなら、デメリットなんてどうって事ない。
「そういえば綾那の服、まだ用意していないんだっけ? いつぐらい?」
「服……ああ、明日の12時頃には用意をする。その時間になったら、防衛省に来てもらえないだろうか?」
「だったら当日ギルにおつかいさせるわ。それじゃあ報酬もらった事だし、一旦家に帰るわよ。翌朝にその陀魏山に向かう事にするから」
「分かりました」
「うん……」
2つのダンボールを《亜空間》にしまってから、住居の廃墟ビルへと向かおうとする私達。
しかしそこに、統合幕僚長の声が降りかかってきた。
「デューテリオス君」
「ん?」
「……スタジアムを解放してくれた恩がある以上、言うべきか迷っていたが……やはり君は異常ではないのかね? 怪獣を下僕にするなんて……」
それまで上の空だった統合幕僚長が、私を非難の眼差しを向けてきたのだ。
まるでそう、元の世界で私を糾弾していた刺客のように。
「怪獣は人口密集地を襲撃し、市民の生活を脅かしている。場合によれば人命を奪う事だってあるのだ。この世界を調べているのなら分かっているのだろう? そんな危険な怪獣を下僕にするなんて……どうかしているとしか思えないのは、私の気のせいかね?」
「……気のせいじゃないわ。あなたの言う事は至極正しい事よ」
これについては否定はしない。
正しい事を言っているのは統合幕僚長側だし、怪獣がこの黙示録を引き起こす災厄であるのも事実。
そして彼の主張は、元の世界においてもある程度適用される。
でなければ、刺客を毎日のように差し向けられたりしないだろう。
……こうして並べると、私ってとんだ無法者ね。
まぁ、今更な話だけど。
「こう言うのもなんだけど、既にもう慣れちゃったのよ」
「慣れた……?」
「ええ、私の世界には魔獣という怪獣に似た奴がいてね。それらに蹂躙される人々を何度も見てきたのよ。だからもう、生活とか人命とか考えないようにしている訳。そういうのは自然の摂理だって」
そう言って、私は真剣な目で統合幕僚長を見つめる。
「その上で、私は強大な怪獣を下僕にしたい。もちろん人に迷惑は掛けるつもりないけど、逆に邪魔されるのは決して許さないわ」
「……イカれている」
「実際そうね。私、他の人とは考え方が違うもの」
そう言い残してケインで飛び去ろうとしたところ、突然声が降りかかった。
今度は統合幕僚長とかではない。
「あ、あの、お話し中失礼いたします!!」
「暗くてよく分からなかったですけど、もしかしてソドムと交戦した魔女さんでしょうか!?」
おもむろに振り向いてみると、どうも迷彩服を着た女の子達のようだ。
確か自衛隊内に、彼女達みたいな未成年がいるって《知識感応》にあったっけ。
怪獣との交戦で戦死や退職が絶えないとかで。
「そうだけど、あなた達は?」
「実は私達、以前にソドムと交戦していた部隊の者達です! 全滅しそうになった時、あなたが途中で入ってきて事なきを得たんです!!」
「あの時は、本当にありがとうございます!! あなたがいなかったら、私達どうなっていたか……!!」
と、一斉に女の子達が頭を下げてくる。
そういえばソドムを下僕にしていた時、この子達がいたんだったっけか。
ソドムの事以外はあまり覚えていないが、一応お礼は受け取っておこう。
「私はソドムを下僕にしたかっただけだから、助けたのは単なる偶然よ。だから気にしないで」
「下僕……やっぱり魔女さんがソドムを匿っているって噂、本当なんだ」
「複雑だけど……でもカッコいいな……」
「うん……カッコいいし綺麗だし、何か憧れちゃう……」
……どうして、私に対してうっとりとした顔をするのかしら?
怪獣を手中に収めているのを知っているはずなのに……そんなんでカッコいいって言われてもなぁ……。
「……エドナさん」
「えっ?」
「早く家に帰ろ……あたしもう眠いし……ここにいてもしょうがないよ……」
私の服を摘まみながら見上げる綾那。
しかも、明らかに不服そうな顔をしながら。
……何で綾那がそういう表情をする訳?
「え、ええ……それじゃあ、私達はこれで」
疑問に尽きないのだが、ひとまず夜空の中を飛んでいく事にした。
それで帰ったら一休みするか的な事を考えていたら、肩に乗るギルがやれやれとした表情を見せる。
「ご主人様も罪ですねぇ。同性にモテモテじゃないですか」
「はぁ? どういう意味よ」
「いや、分からなければいいですけど。それよりも、幕僚長さんに言っておけばよかったんじゃないですか? 怪獣を下僕にする事で被害が減るはずだって。現にソドムをテイムした事で、さっきの女の子達が助かった訳ですし」
「……別に言う必要なんてないわ。そもそもあの子達のケースは偶然、意図した訳じゃない」
「……本当、ご主人様は面倒な人ですね」
私はヒーローではない。
ましてや怪獣黙示録を打破する救世主でもないし、むしろその逆の無法者だ。
ギルの言葉に否定しないのはそういう考えがあるからなのかもしれないが、あくまでも私は怪獣下僕ライフを築きたいだけ。
女の子達からお礼を言われる資格なんて、一切ないのだ。
「とりあえず、シームルグは陀魏山に着いたら解放するわ。それでいい、綾那?」
「うん……あのエドナさん、ありがとうね……。あたしのお願い聞いてくれて……」
「だから礼はいいって」
綾那からしおらしくお礼を言われるも、私は軽く受け流した。
だって私には、お礼を言われる資格などないのだから。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
なし崩しにシームルグを確保したところで第3章は完結、第4章へと続きます!
引き続き、エドナの怪獣下僕ライフをどうかお楽しみ下さい!
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