第22話 エドナ VS アンズー×3
「手のひらから火球だなんて……いやそれよりもデューテリオス君、ソドムはどうしたんだ? バアルの時のように、そいつで掃討するのだろ?」
私が火球を放った後、中野統合幕僚長がうろたえた様子で尋ねてきた。
……ああ、なるほど。そういう事か。
一瞬意味が分からなかったが、思えば統合幕僚長達は「ソドムを繰り出す私の姿」しか見ていないはず。
一度も単体で怪獣を倒せていないので、私にそういう力がないのだと思っているに違いない。
私を恐れているのは「怪獣たるソドムを操る力」の方なのだ。
「こいつらをソドムに任せる必要はないわ。私で始末する」
「始末って……何を馬鹿な!! 相手は現代兵器でも数時間は死なない化け物なんだぞ!! いくら君が異世界の魔女だろうと……」
「確かに怪獣を仕留めた事ないから断言できないけど、でも自信があるのよね。だって私、ソドムやバアルをあしらう力があるんだもの」
「……だから、自分でも怪獣を倒せるはずだと……!?」
「そういう事」
――ギャアアアアアアアアアアアア!!!
統合幕僚長と話していた時、2体のアンズーが奇声を上げながら迫ってきた。
なお、火球を喰らった1体は未だうずくまっているらしい。
「まずは小手調べ」
牽制を込めて、迫り来る2体へと火球を放つ。
暗闇を照らしながら突き進んでいく私の魔法。
が、アンズー達がそれをひらりとかわしてしまい、火球がスタジアムの壁に着弾爆発。
アンズー達の方は上昇し、私の頭上を旋回しているようだ。
「ふむ……」
そいつらに対し、再び火球を発射。
今度は複数を雨あられにだ。
これならどうだろうと思っていると、奴らがジグザグ飛行しながら火球の雨を潜り抜けてしまう。
なんて機動性。
普通の鳥の比ではないし、確かにこれなら自衛隊の一斉砲撃をかわしてしまう訳だ。
――ギイアアアアア……!!
その内の1体が私に振り向いた後、口元から何かを放出する。
正体は何と白色の光線。
まさかそんなものを放つとは意外だったが、ただ電磁波でミサイルを逸らしてしまったなんて話がある。
それを攻撃に転用しているとなれば不思議な話ではないものの、とにかくその凶器がグラウンドを抉りながら襲い掛かってくるのだ。
「デューテリオス君!!」
「心配しないで」
前方に光属性魔法のバリアを形成させ、その光線を防ぐ。
それを見て「おお……!」と綾那の感嘆の声が聞こえたが、今は構っている余裕はない。
それよりも分かったのは、弾幕では奴らを落とすのは難しいという事。
さすがの私でも、高速で飛ぶ敵を打ち落とすのは骨が折れる。
「このままでは埒が明かなそうね……ならば」
もう片方のアンズーも、口を開けて発射体勢をとっていた。
が、遅い。
既に掛けていた更なる魔法が、アンズーの周囲を歪ませていったのだから。
――ギアア!? ギャアアアアアアアアアッッッ!!?
歪みにアンズーが気付いた時には、その身体がガクンっと急降下。
グラウンドに激突し、下にあった土色の地面を噴き出していく。
「えっ、今のって……!?」
「闇属性魔法の重力操作よ。着弾させないと意味がない火球とかと違って、対象を視認さえすればタイムラグなしでハメる事が出来る。こんな風……に!」
綾那に答えながら、視界の中に入っているもう1体のアンズーへと右手をかざす。
そうすれば奴にも重力の網が掛かり、先の仲間のようにグラウンドへと叩き付けられる。
――ギイイイアア!!!
もがき苦しむ2体のアンズー。
今でも重力を放っているので、動こうにも動けない状態にある。
お得意の高速飛行も、私の魔法の前では成す術もないのだ。
「塵となれ……」
そんでもって、魔法を発動していた右手を力強く握り締める。
その瞬間、アンズー達を苦しめていた重力が収縮し、奴らの身体から骨の軋む音が聞こえてくる。
収縮する重力の中で急速に潰されていき、
――ギッ!! …………ッ!!!!!!!
――ッア゛!!!!!!!!
悲鳴すら上げられず、跡形もなく縮まる。
そうして奴らの姿が影も形もなくなり、その場に成れの果てのカスが舞うだけだった。
「……怪獣が……跡形も……」
――ギュルルウウウウウ……。
統合幕僚長のボソッと呟いたと同時に、火球でのびていたアンズーが立ち上がる。
そして憎悪に満ちた目を私に向けてくるので、臨戦態勢としてケインを取り出した。
「綾那。ケインに魔力を流し込む事で、打撃力を上げれるって言ったわよね?」
「えっ……? う、うん、確かそう……」
「実はね、バアルの時とかは半分くらいしか流し込んでいないのよ。だから相手を殺す気で流し込めば……」
――ギュアアアアアアアアアアアア!!!!
怒りの咆哮が響かせ、こちらへと飛びかかるアンズー。
私はすかさずケインに魔力を流し込み、先端に青白い炎を燃え上がらせる。
その炎がスタジアム内を照らすほど大きくなったところで、接近したアンズーへと思い切り振り抜く。
「ハアアアアァァ!!」
ケインがアンズーの頭頂部に直撃した瞬間、立ち上る粉塵。響き渡る轟音。
そして私に飛び散る肉片と鮮血。
粉塵が次第に晴れていくにつれて、アンズーの姿がようやく鮮明になってくる。
頭部が原型を留めていないまま横たわるという、悲惨な光景を見せながら。
「ふむ……怪獣を倒すのは初めてだけど、まぁ上手く行ってよかったわ。綾那はあまりこれ見ない方が……」
「エドナさん……凄い……カッコいい……」
「……って言う必要なかったか。あっ、せっかくだしソドムにこいつを喰わせるか。よかったら食べて食べて」
《亜空間》からソドムを出してみると、彼がじっと首の失ったアンズーを見つめた。
それから少し匂いを嗅いでから、鋭い牙で喰らい付く。
「うんうん、美味しそうに食べて何より。スタジアム内に響く咀嚼音も良い感じ……」
「デュ、デューテリオス君!!」
私がソドムの捕食にうっとりしていたところ、統合幕僚長が声を荒げる。
なお隣の秘書は石像のように硬直してしまっていて、ギルに心配の眼差しを向けられていた。
逆に綾那は、未だ感激の表情を浮かべてはいるのだが。
「いきなりソドムが現れたのも驚いたが、それ以上にアンズー3体を撃破するなんてどうかしてる!! ……デューテリオス君、君は本当に人間なのか? 実際は怪獣ではないのかね!?」
「さぁ、どうかしら? この世界の異物という意味では、私も怪獣と言えなくもないし」
そっけなく答えた後、身体中の肉片や鮮血を水属性魔法で集めてポイ捨てする。
この世界に転移した後、すぐにやった洗浄と全く同じだ。
「……さて」
「……? デューテリオス君?」
その後に私が向かうのは、未だグラウンドで倒れ伏しているシームルグのところ。
気付いたその怪獣が唸り声を上げるも、明らかに弱々しく頼りないものとなっている。
羽毛に覆われた首辺りを触れても動きはしなかったが、代わりに怒りに満ちた鳴き声を出してきた。
――キュウオオオオオオ!!
「じっとしてて」
こういうのに時間を掛けるべきではないと、早々に回復魔法を発動。
身体の傷が癒えていくにつれて、意図を察しただろうシームルグが次第に大人しくなる。
――……キュルウ……。
奇しくも、ソドムと似たような反応だ。
やはり環境激変で生まれた怪獣にとって、「誰かに怪我を治してもらう」なんて行為はされた事も見た事もないのだろう。
シームルグはその行為をされて、不思議に思っているに違いない。
「……とりあえず怪我は完治したけど、一応安静した方がいいわ。ひとまず、私の《亜空間》の中で休んでいなさい」
――…………。
睡眠を引き起こす光属性魔法を放てば、シームルグの瞼が落ちて安眠状態になる。
それから《亜空間》の中へと、その巨体を収納していった。
後は……そうね、このまま家に連れて帰ろうかしら。
そう考えていた矢先に、後ろから統合幕僚長が駆け寄ってきた。
「さっきからその空間の穴は何だ……? シームルグをどうするのかね……?」
「《亜空間》という私専用の空間よ。で、これから家まで連れて行こうかと思ってたところ」
「家にって……ソドムの時もそうだったが、何故君は怪獣を匿うんだ? あれほどの戦闘力があるのなら、別に怪獣がなくてもこの世界で生きられるはずなのに……」
「……あなた、私がこうしているのは黙示録を生き抜く為だって思っているのね」
とんだ勘違いだ。
これは今後面倒にならないよう、ここでハッキリと伝えておくか。
「私はそんな事の為に、怪獣をテイムしている訳じゃないの。私の目的は、怪獣を下僕にする事」
「……何? 下僕……?」
「そう、私は何物も破壊してしまう強大な怪獣に魅入られたの。怪獣を下僕にして愉悦を抱く……それこそが、この世界で私が築き上げる怪獣下僕ライフ! その為なら、この悲惨な怪獣黙示録でも生き抜いてみせるわ!!」
「……………………」
つい興奮して弁明してしまったが、当の統合幕僚長の顔には「理解が及ばない」とハッキリ書かれていた。
もちろん彼がどう思おうが関係ないので、私はすぐにある事を急かすのだった。
「それよりも目的を果たしたんだから、報酬の調味料と野菜もらえるかしら? あと、あなたの山の事も教えてほしいわ」
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
お気付きかと思いますが、今作のエドナ(と綾那)は魔法を放つ際に魔法名を唱えません。
これは作中で彼女自身が言っているように『エドナは怪獣と同質の存在』という演出が込められていて、そこから『怪獣はいちいち技名を言わない』→『だから魔法名を唱えない』という方向性になった経緯があります(あと魔法名を考えるのが面倒というメタ的な事情もあったり……)。
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