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第20話 いざ仕事場へ

 この後も、綾那は引き続き魔法の訓練をしていた。


 火球を放てたという事で、今度は雷属性魔法を使ってみたいらしい。

 ギルの人格をベースにした《ゴーレム》が、そんな彼女へと手取り足取り魔法を教えている。


『焚火を想像した炎属性のように、雷属性も落雷とかを想像するといいでしょう。目を閉じて思い浮かべてみて下さい』


「ん~~……駄目、落雷の時は布団に入ってたから想像しづらくて……」


『でしたらエドナ様の雷属性魔法は? 確か間近で実際に見たはずですが』


「あれなら……うん、やってみる……」


 魔法というのはイメージが大事だそうだ。


 炎属性なら焚火や火事、水属性なら流れる川。

 そういう自然現象を思い浮かべながら、発動するのがコツである。


 私はその様子を見守りながら、《亜空間》から取り出した古本で暇を持て余していた。

 そうするとバチッと音が聞こえてきたので見上げると、綾那の手のひらから微かに電気の軌跡が残っていた。


「出来た、出来た……! やっと雷属性魔法が出来た……!」


『お見事です、綾那さん』


「ありがとう《ゴーレム》さん! エドナさん見た……!? 今さっきの電気……!」


「あーごめんなさい。本読んでて見逃してた」


「何だぁ……もー、ちゃんと見てよー……」


「はいはい」


 ぷくーと頬を膨らませる綾那を適当にあしらう。

 

 いずれにしても、早い段階で魔法を身に付けるとは舌を巻いてしまう気分だ。

 彼女には、そういう筋というか見込みのようなものがあるとしか思えない。


 ……それに、魔法を使えた時の嬉しそうな顔。


 ああいうのを見てみると何でだろう……魔法を教えてよかったのではと思う自分がいた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 そうして魔法訓練がひと段落し、夕飯の肉を食べる事となった私達。

 夕飯を完食すれば、いよいよ約束の時刻となる。


「一応、ソドムも連れて行くわ。亜空間の中で待機していて」


《ああ……》


「そんで、ひとまずあんたには休んでもらうから。『還りなさい』」


『はい、お疲れ様です。綾那さん、また一緒に勉強しましょうね』


「うん、ありがとねー……!」


 念の為にソドムを《亜空間》内に待機させた後、綾那の師匠たる《ゴーレム》を元の岩に戻した。

 

 それから綾那と共にケインに乗り、闇夜の中を飛び立つ。

 中野統合幕僚長が示したスタジアムへと向かう為に。


「でねー、炎魔法を出す際に熱いのかなぁって思ったんだけど、それが全然そうじゃないの……! 魔法って不思議だねー……!」


「そうですねぇ。綾那さん、《ゴーレム》の教え方どうでした? 難しかったとかあります?」


「全然……! 教え方分かりやすいし、ギルさんに似て優しかったよ……! ぶっちゃけ、学校の授業よりも楽しかった……!」


「なるほどなるほど。ある意味、ボクの人格をベースにしてよかったと思いますねぇ」


 向かっている間、ギルと魔法の話をする綾那。

 

 魔法が使えて興奮気味の彼女に対し、嬉しそうにギルが相槌を打っている。

 まるで娘の話を聞いて、成長を噛み締めるお父さんみたいだ。


 ……というかさっき、「ボクはご主人様にお辞儀しない」とか否定していなかったっけ?

 綾那の時だけ人格をベースによかっただなんて、全くお調子者なんだから……。


「確かエドナさん、自衛隊の偉い人と合流するんだよね……?」


 モヤっとしていた私に対し、綾那が急に尋ねてくる。


「そうね。場所は東京と埼玉の境の『大森(おおもり)スタジアム』。そこを飛行怪獣が巣にしちゃったから何とかしてほしいって」


 かつて、大森スタジアムは被災に遭った市民の避難場所として確保されていた。

 

 が、そのスタジアムへと3体の飛行怪獣が数日前に出現。


 中にいた避難民を追い払って巣作りした後、定期的に飛び立っては牧場の牛、果ては人を襲うようになったという。

 私が《ゴーレム》の報告を受信した際、怪獣の姿が見えなかったのはどこかに出かけていたからなのだ。


 もちろん自衛隊も対処はしているが、奴らは素早い上に飛行しているので、一斉砲撃が中々当たらない。

 ならば戦闘機のミサイルならどうかというと、どうも怪獣から何らかの電磁波が放たれている為に狙いが逸れてしまうという。


 誘導によってスタジアムから遠ざけても、しばらくしたら帰ってしまう始末。

 

 攻撃が与えづらい、スタジアムから遠ざけられない。

 そんな苦い状態が続いているので、自衛隊も奴らの行動を常時監視するしかないらしい。


「何か大変だね……。10年前まではこんな事起きなかったのに……」

 

「確か怪獣黙示録が発生したの、その年からよね?」


「うん……あの頃はほんと平和で、パパもママも暴力を振るってくるような事しなかった……。そこからなんだよね、物の値段が高くなって皆がピリピリしちゃったの……」


「やっぱ、そうしちゃった怪獣に思うところある?」


「怪獣さん……? いや、こんな事になったのは人間が原因でしょ……? 学校で人間が起こした環境破壊が怪獣さんを生み出したとか聞いたし、それが本当なら人間が悪いって事になるじゃん……」


「……そうね。あなたの言う通りだわ」


 やはりこの子には、怪獣に対しての忌避感がない。

 

 言い方が悪くなってしまうが、自身に置かれた環境やらが原因で「タガが外れた」のだろう。

 怪獣のような強大な力に魅入られた私と同じだ。


 私とこの子がこうして巡り合えたのは、もしかしたら偶然ではないのかもしれない。


「……あった。あれね」


「えっ、暗くてよく見えないけど……」


「私、視力がいいから分かるのよ」


 闇夜の中に、うっすらとそびえ立っているコロシアムのような建物。

 あれが目的の大森スタジアムのようだ。


 本来、電灯などによって姿が見えるはずだが、何故か軒並み消えて真っ暗になってしまっている。

 綾那が見えないのも無理はない。

 

 その事に怪訝に思いつつも、近くに明かりがあったのでそこに降り立ってみた。


「まさか場所が分かるとは……人から聞いたとかではないよな?」


 明かりは自衛隊が設置したであろうテントで、周りには多数の自衛官が集まっている。


 その中に統合幕僚長と秘書の女性が立っていて、私がここまで来れた事に意外だとばかりなリアクションを取ってきた。

 また周りの自衛官達も「魔女だ……」「幕僚長の言っていた事は本当だったんだ……」と、私達に対して驚きの目を向けてくる。


「人に聞いただなんてとんでもない。その《ゴーレム》が教えてくれたのよ」


「ごーれむ?」


「あなたのすぐ後ろ」


「えっ……うわっ!?」


 統合幕僚長が振り返った先には、パタパタ羽ばたかせる小鳥型《ゴーレム》が1体。

 

 スタジアムに怪獣がいる事を教えてくれたのがこいつであり、その役目を果たした事でそそくさに飛び立っていく。

 再び、街中を散策して怪獣を見つける仕事に就いたのだ。


「石で出来た小鳥……本当に魔女なんだな……」


「おっしゃる通り、正真正銘の魔女ですよっと。それよりも何で明かりが消えているの? バアルの別個体でもいるとか?」


「いや、例の飛行怪獣どもが明かりを手当たり次第に破壊したのだ。縄張りにそれがあるのが気に食わなかったのかもしれん。……それよりも、その子は一体……」


 統合幕僚長の(いぶか)しげに見下ろしたのは、他でもなく綾那その子。


 視線にたじろいたのか、綾那が私の後ろに隠れてしまう。

 大人から暴力を受けたのだから、咄嗟にそういう行動をしてしまうのかもしれない。


「明らかに怪獣災害孤児だね……君が保護者になったのか?」


「そんなところかしら? もちろん、仕事中はギルが見てくれるから心配しなくていいわ」


「心配しなくていいって……。これから怪獣の掃討を行うというのに、何故子供を……」


 そう言ってため息を吐く統合幕僚長に対し、綾那が無言で嫌そうな顔を浮かべていた。

 このまま彼に言わせてしまうと面倒事になるし、早い事切り上げよう。


「それでさっきの《ゴーレム》から聞いたんだけど、怪獣達がスタジアムにいないらしいわね。今も狩りをしているって事?」


「しれっととんでもない事を口走ったな……。まぁ君の言う通り、奴らは獲物を探しにスタジアムから離れている。もちろん空自による追跡監視をしているのだが……」


「統合幕僚長!」


 テントから出てくる1人の自衛官。

 

 最初は私に気付いて驚くのだが、すぐに真面目な顔で統合幕僚長へと耳打ちをする。

 それを聞いていた統合幕僚長の表情が、次第に険しくなるのを感じた。


「怪獣達がスタジアムに戻っているところだ。君は戻ってきた怪獣達を、一斉に掃討してほしい」


「分かったわ」


「それではスタジアム内に案内する。付いて来なさい」


 暗闇に包まれたスタジアムへと、足を運ぶ統合幕僚長。

 私は遠巻きに見つめてくる自衛官達を尻目に、彼の後を付いて行くのだった。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


 今作のツッコミ役ことギルについてですが、彼は平成モスラ三部作のガルガルがモチーフとなっています。ちょうど大きさも同じという設定です。


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