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第18話 統合幕僚長とのご対面




 今、私は防衛省と名乗る者達の車に乗っている。

 もちろん車に乗るなど、この世界に来てから初めての体験だ。


 一応、馬車に乗り降りしている貴族とか見た事があるし、《知識感応》にも乗車の知識がある。

 なのでスムーズに乗り込んで座る事が出来た。

 

 そうして私とギルを乗せた車が、馬よりも早い速度で道路を走っている。


「例の少女とただいま出発しました……はい、はい……かしこまりました……はい……」


 助手席に座っているリーダー格が声を出していた。

 スマホを使って誰かと話している様子だが、別に興味がないので窓から風景を眺めたりする。


 ちなみに乗る前に「ほら言わんこっちゃない。面倒な事が絶対に起こりますって」と、帽子の中にいるギルから苦言を突き付けられていた。


 確かに面倒と言えば面倒だ。

 

 だが私と彼らの力の差は歴然だし、何より魔法やスキルがこちらにしか持っていない以上、この状況なんてどうとでもなる。

 いざとなれば逃げればいいし抵抗すればいいのだ。先ほどのナンパどものように。


 いつでもそういう行動を取れるよう警戒していると、次第に車のスピードが遅くなる。

 フロントガラスから巨大な建物が見えてきて、車がその敷地内に入ろうとしているのだ。


「あれが防衛省……」


 自衛隊の中心部たる防衛省。

 どうやら彼らの言った事は本当だったようだ。


 建物の前で停車した後、男性達がその中へと案内してくれる。

 私は彼らの後を付いて行き、やがてエレベーターを経由しつつ1つの部屋へと到着した。


「統合幕僚長、お連れいたしました」


「うむ、ご苦労」


 目の前のデスクに座る壮年の男性。


 彼についてはもう知っている。

 自衛隊のお偉いさんたる統合幕僚長で、名前は中野紘一と言ったか。


 なお隣には私より年上の女性が立っていて、こちらに対して会釈してくる。

 恐らく秘書か何かだろう。


「急にこちらに連れてきて申し訳ない。私は統合幕僚長の中野紘一。君の名前は?」


「……エドナ・デューテリオス」


「名前からして外人か。まぁとにかく、君に話したい事が山ほどあるのだが……」


 中野統合幕僚長が「そこにかけたまえ」とソファーを薦めたので、私は遠慮なく座る事に。

 それから彼がリモコンを持ち、壁に掛けられた大型テレビを再生させた。


「まずはこれを見てほしい。先日、品川の発電所で撮影されたものだ」


 テレビには音声なしの映像が映し出されたのだが、よく見ると私がその画面に収まっているようだった。

 

 今まさにエイ型怪獣バアルと戦っていて、ケインで叩き付けたり突き飛ばしたりしている。

 そのバアルがソドムの火球によって粉砕したところで、統合幕僚長が映像を止めたのだ。


「これらはフェイクではない上に、怪獣バアルの死亡も確認されている。……率直に聞いて、あれは君で間違いないね?」


「……まぁそうね。あの時は戦闘に夢中で、監視カメラの事をすっかり忘れていたわ」


「今ソドムはどこにいる……?」


「私が住んでいる場所にいるわ。ああ心配しなくとも、もうあの子が人や街を襲うなんて事はしないわ。私の支配下にあるんだから」


「……その点について説明していただきたい。何故君が単身で怪獣と渡り合えるのか、何故怪獣を従えられるのか、そして君は一体何者か……洗いざらい、全て、我々に教えてほしい」


 デスクの中で腕を組んで、私をじっと見つめる統合幕僚長。

 

 その瞳から、隠し切れない恐怖がありあり伝わってくる。

 この世界で怪獣と渡り合える人間がいたら怖いと思うのが自然だし、それは正体を確かめたくなる訳だ。


「言っても信じないと思うけど?」


「それは内容次第だ。話さないと分からない」


「……それもそうね」


 正体を知られたからといって、どうこうはならないだろう。

 私は統合幕僚長へと素直に話した。

 

 こことは別の世界の人間である事、この姿通り正真正銘の魔女で魔法やスキルを持っている事、そのスキルで怪獣を従えられる事。


「……………………君は一体何の話しているんだ……? 異世界から転移してきた……? それは本当なのか……?」


 それらを伝えると、「何言ってるんだこいつ」的な目をしてくる統合幕僚長。

 まぁ、そりゃあそう思うよね。


「一応、証拠はなくはないけど……こいつとか」


「あらま出すんですか? ……っと初めまして、ボクはエドナ様に仕えるインセクトドラゴンのギルと言います。これからもよろしくお願いします」


「なっ!!?」


 証拠になればと帽子をひょいっと上げ、中のギルを彼らに見せた。

 

 これには統合幕僚長の開いた口が塞がらなくなってしまった。

 一方で、秘書の女性は驚きながらも「可愛い……」と呟いているが。……可愛いか、こいつ?


「し……信じられん……そんな事が……」


「別にこの話全部を信じなくてもいいわ。私でさえ、この世界に来た事には驚いていたし。で、わざわざ私をこちらまで案内させたのって、この話題を聞く為? 他にもあるんじゃないの?」


 こんな私でも死線を潜り抜けた身だ。

 自衛隊のお偉いさんが世間話だけで終わらせるはずがないのは分かっているし、私を案内させたのも何かしらの理由があるはず。


 もしお前を拘束するとか言ってきたら、ただちに窓から逃げればいいだけの話だ。


「さすがにそこまでは分かるか……。実は上層部を中心に、君の力に対して大変関心を抱いてらっしゃる。何せ現代兵器でも倒すのに時間が掛かる怪獣を、君は軽くあしらう事が出来るのだから。それに、あの強大なソドムを味方に付けている」


「兵器にでもしようとか考えているのならお断りよ。私は誰にも縛られたくない性分でね」


「もちろん承知している。だからこそ、君に依頼する形で怪獣掃討を申し出たい。この怪獣黙示録において、君の戦力が非常に重要になるのは間違いないのだからね。……まぁ、今でも異世界とか魔法とか信じられないのだが……」


「……依頼……って事は見返りも?」


 その単語に興味を惹かれると、統合幕僚長が「出来る範囲でなら」と頷いてくれた。


 しめた。

 私は到来したラッキーに目を光らせた。


「そうねぇ……。だったら香辛料とかの調味料とありったけの野菜……それから獣が狩れるような山を1つ欲しいかしら」


「……はっ、山?」


「そっ。こちらの山、所有者がいて勝手に住んじゃ駄目なんでしょう? だからその一部を借りて住まわせてもらおうかなぁって。あっ、場合によれば木を何本か伐採するかもしんないから、それ込みでよかったら」


「……異世界の魔女はとんだ要求をしてくるんだな……」


「手に負えない怪獣の始末をさせるんだから、これくらい当然じゃない。もし駄目だったらこの話は……」


 半ば脅す形にはなったものの、私とてこの世界で生きる為の死活問題でもあるのだ。

 こちらの要求に統合幕僚長が悩みだすも、やがて降参するように息を1つ吐く。


「……私の家系において所有している山がある。東京の西側にあって獣もたくさんいてな、もしそれでよければ……」


「決まりね。それで、私に処理させたいっていう怪獣はどこにいるのかしら? 海、それとも地面の中?」


「スタジアムだ。本来被災に遭われた市民の避難場所にしていたが、そこをある怪獣が襲撃して縄張りにしてしまってな。退去せざるを得なくなったんだ」


「ある怪獣?」


「ああ、その怪獣は……」


 スタジアムに現れたという怪獣の情報を、統合幕僚長が私へと説明してくれた。

 まさか思いもよらず新しい情報を掴む事が出来るとは……自衛隊と接触して正解だったかもね。


 あとは、その怪獣が私の下僕になり得るかどうか。


 やっぱりソドムみたいなカッコよさが欲しいかしら。

 あの鋭い牙とか角とか、咆哮の凄まじさとか!


 まぁもし駄目だったら、ソドムのエサとかにすればいいんだけど。


「……という訳で、避難場所を確保する為にも君の力を借りたいのだ。……って、ちゃんと話を聞いていたのかね?」


「ん? あー、ちゃんと聞いていたわ。それで、そのスタジアムの場所は?」


《知識感応》をもってしても、スタジアムの場所までは把握できなかった。

 どうも例の女性は、そこに行った事がなかったらしい。


「有名なスタジアムなのに、本当に異世界出身なんだな。まぁ場所は……」


「……いや待った。やっぱり言わなくていいわ」


「はっ?」


 今ちょうど、頭の中に情報が送られてきたのだ。

 送信の主は、昨日に私が放った《ゴーレム》。


 そいつが「様々な痕跡からいる可能性が高い」と、建物の所在と外観を頭の中に投影させてくれた。

 元の世界のコロシアムに似た見た目……怪獣の姿は確認できないが、概ね間違いないだろう。


「ちなみにその場所、いつ行けばいい?」


「出来れば今日の夜6時……なるべく早くにはスタジアムを確保したくてな」


「じゃあ、その時間に集合って事で。ボイコットとかはしないから安心して」


 もしかしたらこういう話がなくても、いずれはその怪獣に関わっていただろう。

 私がつい苦笑すると、中野統合幕僚長や女性秘書が怪訝そうな顔を浮かべるのだった。

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