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第14話 統合幕僚長視点 Ⅱ

「怪獣バアルは品川火力発電所へと進行中。今現在、陸自及び空自の部隊が現場へと向かっています」


 防衛省内に設置された作戦本部。

 そこで中野統合幕僚長や女性秘書、政府関係者がU字型テーブルに座ってしかめっ面を浮かべている。 


 突如として襲来した、電撃を操るエイ型怪獣バアル。


 それが街の電気を消失させては移動し、ついには東京湾沿いの発電所へと到着しようとしている。

 女性秘書の報告は、まさにその最悪な展開に至るまでの経緯だ。

 

「もしそこが完全に破壊されたら……」


 小さく唸る中野。

 

 言うまでもなく、電気は人間にとって欠かせないもの。

 それを生み出す発電所が破壊されれば、普段の生活にどれほどのダメージが出るかなんて想像に難くない。


 怪獣黙示録によって市民の疲弊が増している現状で、それだけは避けなければならない。

 

「報告によれば、バアルの半径1キロメートルは電気が消失するらしいな。そのエリアに入って、兵器が止まるなんて事はないかね?」


 胸に誓った際、政府関係者の1人が尋ねてくる。

 すぐに答える中野。


「陸自も空自も数キロ以上の砲撃が可能ですが、問題はバアルが接近したり放電したりする場合です。接近はもちろんの事、放電を受けた秋葉原の電子部品のほとんどがイカれてしまったという報告があるので、それを受けてしまったら兵器が動けなくなる可能性が高いです」


「なるほどな。いずれにしても、発電所から遠く誘導してくれないとこっちが困るんだがね。そこを戦場にして、発電機やらが破壊されたらたまったもんじゃない。自衛隊はその辺の責任取ってくれないからな」


(……言いたい放題言ってからに……)


 自衛隊の事情を知らずズケズケ言う政府関係者に、内心(はらわた)が煮え返る中野。


 そもそも誘導だって、決して楽な仕事ではない。

 兵器の一斉砲撃でもすぐに死なない怪獣にそうさせるという事は、すなわち「死」を意味する。


 これまでの怪獣との交戦によって、多くの自衛官が殉職をした。

 あまりにも殉職し過ぎて補充が間に合わない為、中卒などの未成年を自衛官にする羽目になってしまう事も。


 怪獣黙示録以前ならありえない事であり、あってはならない事。


 自衛官の殉職や未成年の起用に中野が心を痛めている中、政府の人間達はそれらを数字としか見ていないのだ。


「聞いているかね、中野君? これは君だけの……」


「分かっております。我々は、安全圏から様子を窺っているあなた方とは違うのです。何なら、あなた方も自衛官になって怪獣と戦いますか?」


「い、いや……さすがにそれは……」


「ならば我々に任せるしかないでしょう。あまり余計な事を言っていると、市民の間で炎上する恐れがあります。いつぞやみたくリンチされてもおかしくないですよ」


「……あ、ああ……悪かった……つい出来過ぎた真似を……」


 増税を推進した議員が市民にリンチされたという事件は、関係者達にも知れ渡っている。


 それを恐れてか、不満を垂らした関係者が途端に萎縮する。

 ある意味、良い薬なのだろう。


「……と、ここで口論している場合ではありません。バアルによって電気が消失している故、発電所内がどうなっているのかも把握できていない。だからこそ、一刻も早く掃討に掛からなければ……」


 映像も連絡も使えないので、バアルの動向がよく分からないのだ。


 なので、生還した発電所職員の証言や出撃している部隊の目視を待つしかない。

 それを今か今かと中野がじれている中、彼の秘書が電話の応答に入っていった。


「……はい……はい? ……統合幕僚長、到着した部隊からご報告が……」


「ん、バアルの様子が分かったのか? 今どんな状態だ?」


「……それが……バアルの死亡が確認されたと……」


「……はっ?」


「「えっ?」」


 秘書の報告を聞いて、中野や政府関係者達が素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

 数秒間、作戦本部内がフリーズ。

 やがて正気を取り戻した1人の関係者が尋ねてくる。


「まだ交戦の許可出してないんだろ? ……もしかして別部隊が?」


「いえ、そんな事はないはずですが……自然死とかそういう感じか?」


「自然死というよりも……とにかく数分前から復旧した監視映像があるそうなので、スクリーンに出します」


 中野と関係者に答えた後、秘書が前方スクリーンに映像を投影した。


 映像はかなり荒いが、件の発電所であるのは確か。

 だがそこに明らかな異物が存在するのを、中野達が目の当たりにする。


「何だあれは……」


 中野の目に疑いがなければ、間違いなくそれは人間だ。

 性別は見る限り女性で、しかも何故か魔女を思わせる格好をしている。


 あまりにも珍妙過ぎて、これには中野はおろか関係者達も疑問を隠せなかった。


「魔女……?」


「魔女だな……」


「魔女だ……」


「魔法少女……?」


「コスプレか何かか……?」


「……いや、ちょっと待て……!」


 さらに女性の前にバアルがいる。

 しかも何故か地面に倒れたままでだ。


 何を思ったのか、魔女が手に持った巨大な杖をバアルへと突き出す。

 すると、


「なっ!?」


「はっ!?」


「おおおお……!?」


 明らかな身長差があるにも関わらず、バアルがあたかも紙のように吹っ飛んでいったのだ。

 驚きの声を上げる政府関係者達。


 さらに次に映ったシーンで、中野が思わずテーブルから身を乗り出してしまう。


「あれは……!!」


 魔女の後ろから疾走する異形の怪獣。

 以前の戦闘から行方不明になっていたソドムだ。


 ソドムがバアルに掴みかかって駐車場に叩き付けた後、港へと投げつけてから覆い被さる。

 そうして弱っているバアルへと火球を放ち、無数の肉片へと変えてしまった。


 水蒸気の中で咆哮を上げるソドム。

 音声はないのだが、中野の耳にそれが届きそうなくらいの恐ろしさがあった。


「確かあれはソドムではないかね……? 以前に君達が交戦していた……」


「え、ええ……そうですが……」

 

 関係者へと中野が答えている間、ソドムが魔女へと獰猛な顔を近付けていた。


 魔女を喰うのか?

 いやそうではない。


「な、何だこれは……!?」


「ソドムが……怪獣が……人間に手懐けられて……!!」


 魔女がソドムの顔を撫でている。

 まるでペットとして慈しんでいるかのように。


 そこからソドムが黒い穴に消えてしまった後、魔女が持っている巨大杖に乗って飛行してしまう。

 と、ここで映像が終了。


 驚愕、呆然、どよめき。

 今さっきまで張り詰めていた作戦本部に、そのような感情が混沌に入り混じっていった。


「発電所に到着した部隊が、バアルの肉片を発見したそうです。そこから発電所の監視カメラを確認したところ、今現在の映像が発見された訳です。恐らく監視カメラを含めた電気の復旧は、バアルがこの戦闘でダメージを受けた事と関係があるかと」


「…………フェイクという線はないのか? 特撮とかそういう……」


「いえ、加工の形跡はありません。紛れもなく、発電所で起こっていたとされる光景です」


「…………」


 政府関係者達が閉口するのも無理はない。

 中野も動揺が隠せず、文字通り開いた口が塞がらなくなってしまっている。


(……魔女……ソドム……まさかあの話が……)


 それでも、フリーズしていた脳で思い出そうとしていた。


 以前にとある部隊がソドムと交戦し、全員が帰還したという奇跡的な結果を出していた。

 その彼らが一様に「魔女がソドムを手懐けて連れて行ってしまった」という報告をしており、以来ソドムは行方不明になっていたのだ。


 もちろん、その時の中野は集団幻覚と片付けている。

 怪獣黙示録によって世界中が疲弊しているのだから、そういう幻覚を見ても不思議ではないと。


(……あれが……本当の話だったとは……)


 それが真実だったというのを、(いや)が応でも受け止めざるをえない事となった。

 もっとも、あまりの荒唐無稽さに「今ここで集団幻覚が起こっているのでは?」とつい考えてしまう中野なのだが。


「一体……彼女は何者なんだ……?」


「ソドムをペットにするなんて……人間の所業じゃない……」


「そもバアルを吹き飛ばした奴を、人間と呼べるのだろうか……? いわゆる人間の姿をした怪獣なのでは……?」


「となると、我々の脅威になる可能性が……」


「いや、服を纏っているのだから知性はあるに違いない。コミュニケーションは取れるはずだが……」


 中野が黙り込んでしまっている間、政府関係者達が議論を交わしていく。

 やがて、とある1人がこんな事を言い出した。


「接触、図るべきでは? 仮にあれが人間ならば、街中にいる可能性がある」


「……確かにな。中野君、どう思うかね?」


「……正直、相手の素性を知らないまま接触するのは危険です。……危険ですが、かといってあの魔女を放置するのも……」


「……ならば……」


 結論が一致したようだ。

 その中でも、中野は未だ混乱を隠しきれずにいたのだが。


(……いやおかしいだろ、怪獣を手懐ける魔女って……。怪獣災害以上におかしいぞ、これは……)

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


 第2章はこのエピソードをもって完結し、第3章へと続いていきます!

 引き続きご覧になって下されば幸いです!


「面白い」「続きが気になる」と思った方は、ぜひとも下の☆☆☆☆☆への評価、感想やレビュー、ブックマークよろしくお願いします!

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