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第11話 それは突然にやって来た

「……なるほど、よく分かったわ」


 過去の記憶から現実に戻った後、私は女の子から離れた。

 女の子は(当然と言えば当然だが)何も理解できていなくて、キョトンと目を丸くしている。


「えっ、何が……?」


「あなたの過去の事よ。そんでもって、あなたの名前は前原綾那(まえはらあやな)。年齢は15歳」


「えっ? そんな事も……?」


「スキルのちょっとした応用よ。その見た目で15歳は意外だったけど」


 低身長は間違いなく、虐待による栄養失調が原因だろう。


 ともかく彼女――綾那は両親を失った後、被災孤児を保護する施設に入られる事となった。


 でもそこで、同じく保護された子供やストレスのたまっていた職員からいじめを受けてしまっていた。

 そうして耐え切れず数か月前に施設を脱走。あの世捨て人が集まる瓦礫の山に流れたそうな。


 食料は近くの街のごみ箱から失敬したりと、そりゃあ身体が小さいままの訳だ。


 学校にはもう長い事不登校になっているし、しかもその事に関して大人が気にも留めてない。

 元の世界ならいざ知らず、そんな酷い環境がここに起きている辺り、怪獣黙示録の多大な影響が如実に把握できる。


「そっか……あたしの事分かっちゃったんだ……だったら話せばよかったかも……」


「……悪かったわ。さすがに我ながら踏み込み過ぎたと思う」


「ううん……そんな事も分かるなんて、まるで本物の魔女さんみたい……。あっ、そういえば名前……」


「……名前くらい別にいいか。エドナよ。エドナ・デューテリオス。で、こっちのチビはインセクトドラゴンのギル」


「エドナさん……何か凄いなぁ……頭良さそうだし……」


「どうも」


 私に対して、綾那が過去の記憶と同様に目を輝かす。


 この子が怪獣を恐れないのは、憎んでいた両親を殺してくれたからという事に他ならない。

 むしろ、怪獣に対して憧れや畏敬の念すら抱いている。


 まるで、幼い頃に魔獣と出会って「強大な力」に魅入られた私のように……。


「ねぇ、エドナさんってどこの国からやって来たの? このギルさんもエドナさんの国の生き物? どうやって怪獣さんを飼い慣らしたの?」


「質問が多いわよ。というか怪獣は飼い慣らしている訳じゃない。下僕にしているの」


「げぼ……く?」


「そう、私は荒々しく強大な怪獣を下僕にすべく行動しているの。まぁ、世間からすれば頭おかしい事かもしれないけど」


 なんて自嘲気味に言っても、綾那は「へぇ……よく分からないけど凄いなぁ……」と羨望の眼差しを消さなかった。

 

 それはともかくとして、問題はこの子をどうするかなのだが。


 本当のところは施設に保護させるべきだが、いじめや虐待を受けていた本人は頑なに嫌がるはず。

 かと言って連れて行くのも、それはそれで面倒になりそうだ。


「……連れて行ってもいいのでは、ご主人様?」


 頭の中でも読んだのか、ギルがそう提言してきたのだ。

 私が無言で嫌そうな顔をしても、そいつは顔色を一つも変えない。


「そんな顔をしなくても、この子とご主人様はご趣味が合うみたいじゃないですか。そうそういないですよ、災厄たる怪獣を恐れないどころか親近感を抱く狂人は」


「褒めているのか貶しているのかよく分からないわ」


「どうとでも捉えて下さい。とにかく、()()()()()のようにお慈悲をかけて下さいな。きっとこの子も、ご主人様のお役に立ちますって」


「…………」


 ギルにそう言われて、私は黙るしなかった。

 そこから髪をくしゃっとかいて、改めて綾那を見やる。


「……手伝い……」


「えっ?」


「今ギルに身の回りの世話をさせているから、その手伝いとかしてくれない? こいつ手先が器用だから、人間と同じような事が出来るのよ」


「……一緒にいていいの?」


「勘違いしないでね。単にこれは私の気分でしかない。もしかしたら気が変わって追い出したりするかも」


「あー気にしないで下さい。ご主人様こう言ってますが、なんやかんやお人好しでして。ボクに対しても同じ事言った癖に、こうして長い事置いてくれるんですよ」


「ギル!」


 この召使いは余計な事を……!

 しかし時すでに遅しで、綾那が嬉しそうな顔でペコリ頭を下げた。


「ありがとう……! あたし、エドナさんの為に頑張るから……!」


「……まぁ、よろしくね」


「うん!」


 髪がボサボサしていたりするけど、表情は可愛いような気がする。


 しかし、私が現地の女の子を連れる事となるとは。


 突き放せばいいのに、何でそんな事も出来ないのだろうか……。

 ギルの言う通りお人好しなのかも、私は。

 



 ガシャンン!!


 自分の行いに頭を抱えそうになった瞬間、路地裏の外から轟音が聞こえてきた。


 ギルや綾那が一斉に振り返る中、私はすかさず路地裏から出てみる。

 そうして見えてきたのは、何と2台の車による玉突き事故だった。


「……ブレーキを踏まなかったのかしら?」


 2台の車へと野次馬が集まっていくが、私はその時にある事に気付く。


 すぐ近くの信号機が点灯していない。

 

 しかも直後として、他の信号機、ビルの大型ビジョン、店の中の電灯が一斉に消え始める。

 昼時なので大した変化はないが、電気の類が消えるという異常現象に辺りが騒然し始めた。

 

「えっ!? 何!?」


「スマホが使えなくなった!?」


「どうなっているの!!?」


 ……もしかして事故の一番前の車、電気自動車というやつでは?

 

 他と同じく、電気が何らかの原因で消えて急停止。

 それによって後方の車が思いっきり追突したとなれば……。


「……ハッ……」


 私は感じた。上空からの気配。

 バッと顔を上げると、ビルからぬぅっと平べったい何かが現れてくる。


 徐々に姿を現していくそれは、元の世界の海にもいたエイそのもの。


 ただその平べったい身体はガラスのように半透明で、反対側の空をおぼろげながらも映している。

 さらに身体の表面が時折虹色に光り、まるでイルミネーションのよう。


 私の他にも綾那とギル、そして周りの人々が、エイもどきを呆然とした表情で見上げている。

 一方でエイもどきはゆっくり街の上空を浮いていたが、その時に身体に電気が走ったような気がして。


 次の瞬間には、その身体から落雷がほとばしった。


「キャアアアアアアアアアアア!!?」


 まず、女性の近くにあった木に落雷が降り爆発発火。

 女性が恐怖で身を屈む中、またとしてもエイもどきから落雷が降りかかる。


 それも多数。

 道路、車、公衆電話、電灯……ありとあらゆるものが落雷に着弾され、次々と爆発していく異常事態。


 さっきまで呆然としていた人々が、悲鳴を上げながら逃げ惑うのには十分過ぎた。


「エ、エドナさん……! ヒイィ……!!?」


 すぐ近くにも落雷が降りかかり、綾那が悲鳴を上げた。


 私は彼女を連れながら路地裏に戻りつつ、エイもどきへと見やる。

 エイもどきは落雷を放つのやめ、巨大なヒレを動かしながら悠然と飛んでいった。


「……も、もう、大丈夫?」


「ええ。……間違いなくあれ、怪獣のようね」


 巨大で半透明の姿をして、なおかつ落雷を放つそれが単なる生物とは思えないが。


 そんなエイの怪獣が過ぎ去った後には、騒然となった街中が広がっていた。


 ところどころ吹き上がる火事はもちろんの事、未だに恐怖の悲鳴を上げながら逃げ惑う人々。

 中には火の手が上がっている店から従業員が出て、「急いで下さい!!」と客を避難させる光景までもがある。


 もっともエイ怪獣の方が気がかりなので、私はすぐ近くのビルへとジャンプ。

 屋上へと到着し、優雅に街の頭上を泳ぐそれを目撃した。


 ――……フォオオオオオオオオオオオンン……。


 エイ怪獣から聞こえる澄んだ遠吠え。

 

 しばらくふわふわと飛んでいたが、不意に頭部を明後日の方へと向いていく。

 

 そうしたら尻尾付近から電撃が放出。

 何とさっきよりも速く飛んで行き、この街からまたたく間に距離を離していったのだ。


「……あの怪獣、あんなにも速く飛ぶのね……」


「ご主人様、ボク達を置いていかないで下さいよ。……ってあの怪獣、もうあんな距離まで?」


 意外な展開に思わずポカンとしてしまう中、綾那を担いだギルがやって来た。

 綾那の「ギルさん、すっごい力持ちなんだね……!」という尊敬の台詞を聞きながら、私は《亜空間》からケインを取り出す。


「今すぐエイ怪獣を追うわよ。綾那、私の後ろに乗って」


「えっ、後ろ?」


 今から、あのエイ怪獣の追跡を試みるのだ。

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仲間が増えたよ、やったねエドナさん(* ̄∇ ̄*)
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