メリザンドの才能【続編になります】
メリザンドが嫁入りして早くも半年が過ぎた。
メリザンドは、この半年で食事を良く食べて睡眠もしっかりとったことで美しくなった。波打つ金の御髪は煌めき、赤い瞳は常に希望に満ちている。肌の調子も良く、爪は綺麗に整えられ、身体の肉付きも良くなり、今では女性らしい丸みを帯びたスタイル抜群の美女である。
また、体調が良くなった頃から家庭教師もつけられた。メリザンドは理解力はやや低いものの、一度理解すれば物覚えは良かった。教師の尽力もありスルスルと知識を身につけて、この半年で一通りの読み書き計算とマナーだけは完璧になった。
もちろん公爵夫人としてこれからまだまだ覚えるべきことがあり、道半ばではあるが頑張っている方だろう。
使用人たちとの関係も変わらず良好で、夫であるアルテュールからは愛されている。その人柄から夫の親戚との関係も概ね良好。ここまで来たら、後継を産むのを期待されるだけとなったが…。
「旦那様、子供を産むのはどのようにすればいいのでしょうか」
「うーん…それはな、うーん…」
「メリザンドはそろそろ健康になりました!教えてください!」
「…そうだなぁ」
残念ながら、アルテュールは子供を産むということの意味をまだメリザンドに教えられていない。
アルテュールはメリザンドを愛しているが、どちらかといえば庇護欲的な意味で性愛とはまた違うので、いくらメリザンドが美しく健康になったとはいえまだ手を出す気にはなれなかった。
とはいえ。
「子供を産むのは義務だと聞きました」
「必ずしもそうじゃない家庭もある」
「…そうなのですか?」
「…ただ、いずれは必要になることだとも思う。…夜伽について、学ぶ覚悟はあるか?」
「むむ。はい!」
よくわかっていないのだろう。それでも何か役に立ちたい一心なのだろう。その健気さが愛おしいが、やはりまだ早い気もして心配になる。
「…本当に大丈夫か?」
「はい!」
「なら、専門の講師に指導に来てもらう。女性の講師だから安心しろ。あと、最初は座学だけにする。…いずれ、実技を学ぶ必要が出てきたら全部俺が教えるから」
「よろしくお願いします!」
…やはり、ちょっと心配だ。
メリザンドは、家庭教師の先生に色々教えてもらう時間の後、夜伽についても女性の講師から教わることになった。
そこで初めてえっちな知識を知り、なんとなくイケナイコトな感じがしてアワアワしていたメリザンド。
しかしそれで旦那様の役に立てるならと羞恥心をぐっとこらえ色々な知識を身につけた。もちろん旦那様以外とはしちゃいけない、という当たり前の話も講師はきちんと知識不足のメリザンドに教えてくれる。メリザンドはゆっくりと、大人として知識を身につけた。
そして、座学は十分、あとは実技だけとなった時。
「あの、旦那様。メリザンドはあとは実技だけだと先生に太鼓判を押されました」
「…!」
「ただ、その、あの…メリザンドはまだ覚悟が足りません。もう少し、夫婦の親睦を深めてからでは…ダメでしょうか…?」
不安そうなメリザンド。アルテュールは微笑んで言った。
「もちろん大丈夫だ。初めてのことなんだ、ゆっくり進めていこう」
「旦那様…ごめんなさい、メリザンドは旦那様のお役に立ちたいのに…」
目に涙を溜めるメリザンドに、アルテュールは愛おしさが込み上げる。
「大丈夫。私達はまだ夫婦になって半年だ。お互い、少しずつ夫婦として歩み寄り支え合う時期なんだから」
そっと抱きしめるアルテュールに、メリザンドは安心してぎゅうと抱きしめ返した。
「メリザンド、愛してる。君と夫婦になれて、俺は満たされているよ。本当だ。もう十分過ぎるほど、メリザンドに助けられているんだ」
「本当ですか?」
「もちろん」
「メリザンドも…旦那様と夫婦になれて、すごく幸せです」
二人は少しずつ、夫婦として歩み寄っていく。
「…ふむ」
二人で話し合った次の日の朝、アルテュールに一通の手紙が届いた。
「メリザンドの魔力測定、か…」
本来皇族や貴族は十五歳になると魔力測定というものを教会で行う。魔力の属性や多さを測るのだ。
しかしメリザンドは、事実無根ではあるのだが、わがまま放題で暴れん坊だからと言って教会には連れていけないと放置されてしまっていた。
しかし教会としては、一応規則は規則なので今からでも受けにきてくれとのことだった。
「まあ、行ってみるか」
案外眠っていた才能なんかがわかるかもな、なんて呑気に構えているアルテュール。メリザンドを誘って教会に出向いた。
「ではメリザンド様。この水晶に手をかざしてみてください」
「こうですか?」
メリザンドが手を水晶に翳すと眩いばかりの黄金の光を放って、水晶はメリザンドの聖魔力を示した。
「こ、これは!」
「メリザンド…君はまた、とんでもない才能を持っていたんだな…」
呆気にとられるアルテュール。教会の神官は急いで上に報告に行き、肝心のメリザンドははてなマークを頭に乗っけて首を傾げた。
「…め、メリザンド様。ご機嫌麗しゅうございます。私は大神官の一人、アダンと申します」
教会のトップの一人、大神官アダンが急遽メリザンドの元へ来た。
「ご機嫌麗しゅう。メリザンドと申します。それで、一体なんでしょう?」
「は、はい。メリザンド様におかれましては、聖女と呼ぶに相応しい聖魔力をお持ちだとわかりました。ですので、少しばかり教会に協力をお願いしたいのです」
「協力」
メリザンドはアルテュールを見る。アルテュールが頷いたので、メリザンドは再び話を聞く。
「何をすればいいですか」
「聖魔力による、普通では治せない病気や怪我の治癒、結界の修復と強化の二つをお願いしたいのです。また、聖女として教会のシンボルになっていただきたい」
「…良いですけど、一つだけ。メリザンドは、聖女になるのは良いですけど、その前に旦那様の奥さんです。それは大丈夫ですか?」
「え、あの、出家して教会で暮らしていただくのは…?」
「じゃあ嫌です」
プイッと視線を逸らしたメリザンドに、大神官は慌てて言う。
「そ、そう仰らずに!メリザンド様は歴代の聖女様の中でも最高峰の聖女になれますから!」
「じゃあ、出家せず、旦那様の元で聖女になります。いいですか」
「…わ、わかりました」
本来ならダメだ。ダメなのだが…もうすでに二人は結婚済みであり、本人の意思も固い。認めざるを得ない。だから普通、結婚などする前の十五歳の頃に魔力測定をするというのに。大神官は歯痒く思いつつも、メリザンドの魔力測定をあまり強く求めてこなかった教会の責任だとぐっと堪えた。
「では、毎日治癒と、結界の修復と強化しに来ればいいですか」
「はい、よろしくお願いします」
ということで、メリザンドは今までに前例のない出家しない聖女様となった。
メリザンドはその後、すぐに聖魔法の使い方を覚えてたくさんの人を治癒し、結界の修復と強化を毎日行った。またメリザンドの人柄も良い為ファンが増え、結果教会とメリザンド自身の評判は上々に。
公爵家も良い女性を嫁に迎えたとなんだかんだで評判になり、旦那様のお役に立てたとメリザンドは気分を良くした。アルテュールはそんな献身的なメリザンドを可愛く思い、ご満悦である。
そんな風にメリザンドが評判を上げる一方で、そんなメリザンドを冷遇してきた皇帝には白い目が向けられるようになった。メリザンドの悪い噂を流したのは皇帝ではないか、メリザンドを虐待していたという一部の貴族の間での噂は本当だったのではないか。そう囁かれ、支持率は低下。仕方なく息子に早々に代替わりして、隠居生活を送る羽目になってしまった。
しかしその息子にもメリザンド虐待の噂はついてまわり、しばらく皇族全体に厳しい国民の目が向けられることとなった。
「メリザンド。メリザンドの根も葉もない噂が消えて良かったな」
「旦那様が褒められることもあって、嬉しいです!もっと教会での奉仕活動、頑張ります!」
「はは、メリザンドは偉いな。でも、頑張り過ぎるなよ」
「はい!」
環境が変わっていく中で、それでも驕りたかぶることはなく純真なままのメリザンド。そんなメリザンドに、甘く優しい表情を見せるアルテュール。二人の関係は、少しずつ縮まっている。
ショタジジイ猊下は先祖返りのハーフエルフ〜超年の差婚、強制されました〜
という連載をやっています、もしよろしければよろしくお願いします。