第9話 一方的な茶番劇
1日二話投稿したいのですが、なかなかうまくいきませんね。
ほとんどまともに動けないままに、カリニャンは無理やり引きずられるように運ばれてゆく。
「カリニャン……」
隙を見て助け出せないものか。
衰弱の〝呪い〟というデバフなら、屋敷の物置に呪詛を解除する魔法道具があったはずだ。
コハクは思慮を巡らせるが、良い解決手段はなかった。
「レベル280ものプレイヤーなんて初めて見ましたよ。そんなプレイヤーを、我々が討伐する。視聴回数100万……いや、200万超えも期待できそうです」
結局、この三文芝居に付き合うしかなさそうだった。
だがコハクが倒された後に、カリニャンが解放される確証もない。
せめてもの保険は既に手を打っているが、それはカリニャンの生存を保証するものではない。
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称号:鮮烈の呪い師
名前:セイジ
Lv118
性別:♂
種族:普人
ジョブ:呪術師
サブジョブ:盗賊
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レベルは118。【一撃必殺】の瞬殺範囲内だ。
もう片方の粗暴な男も、若干レベルは上だが誤差である。
二人ともカリニャンよりレベルは低い。あのデバフさえなければ、カリニャンが負けるはずもない。
ちなみにだが、粗暴な方の男の名前は『コルバルト』というらしい。
――僕のせいだ。
そもそも、コハクだけなら【状態異常無効】のスキルがあるので衰弱など効かないのだ。
だから、耐性を持たないカリニャンが狙われた。
コハクだけだったなら、この間のランリバーのように多少付きまとわれるだけで済んだだろう。
カリニャンを連れてきてしまったから……。
全て、自分のせいだ。
「私は……ぜぇ、お姉さまが犠牲になるなんて……嫌です」
「大丈夫だよカリニャン。プレイヤーは、殺されても死なないから」
「それでも、私は……嫌なん、です」
お姉さまが殺される所を見るなんて、カリニャンには耐えられない。
たとえすぐに蘇生するとしても、だ。
プレイヤーにだって苦痛の感覚はある。
現実のものほどではないが、攻撃を食らえば痛いし水に沈めば苦しいのだ。
カリニャンは、それが嫌なのだ。
「ごちゃごちゃうるせえよ!」
コルバルトがカリニャンの頭を殴りつけ、無理やり黙らせる。
「カリニャンっ!!」
「おっと。これ以上怪しい動きをすれば、このカリニャンちゃんを即殺しますよ?」
「くっ……」
主導権を完全に握られている。
このまま〝打ち合わせ〟通りにコハクが悪役として倒されるしかないのか。
4人がやってきたのは、街の広場。初期リスポーン地点の噴水の前である。
「それではコハクちゃん、打ち合わせ通りにおねがいしますね?」
「……はい」
噴水の前に立つコハクの足元に、声すら発する事もできないほどに衰弱させられたカリニャンを横たえらせられて、セイジとコルバルトは距離を取った。
「リスナーの皆さんこんにちは、セイジです。現在緊急で配信を行っています。
我々が始まりの広場を通りかかった所、なんとあのプレイヤーが猫耳の愛らしいNPCを酷く痛め付けている所に遭遇しました」
事実とは全く異なるストーリーを黒い珠越しの視聴者たちに展開する。
「コルバルトが割り込んで止めに入ったのですが、どうやらかなり強いプレイヤーみたいでした。けれど我々は悪には屈しない! あの猫耳少女はこのセーロンマスクチャンネルが救うのです!!」
セイジはコハクを悪役に仕立てあげようとしているのだ。
コハクがカリニャンを痛め付けて弱らせた、というような認識を視聴者に抱かせ攻撃を正当化した上で、コハクを殺す。
レベル280超の悪きプレイヤーを、レベル110前後のプレイヤー2人が倒すのだ。
下らない三文芝居だが、視聴者からすれば映像に写るものが全て。
「絶対に我々は諦めない! たとえ絶望的な戦力差があったとしても! チャンネル登録おねがいします!!」
うんたらかんたら一通り御託を並べたセイジとコルバルトは、いよいよコハクに襲いかかってきた。
セイジはレイピア、コルバルトは拳で直接殴る格闘家タイプらしい。
――遅い、弱い。
本来のコハクならば、二人とも簡単に対処できる雑魚だ。
だが、カリニャンは喋る事すらままならない状態にまで衰弱させられてしまっている。
このままでは死んでしまう。
そんなカリニャンを救うために、コハクはこの2人の茶番に付き合わなければならないのだ。
ある程度〝戦って〟から負ける。
2人をヒーローに仕立てあげなければならない。
コハクは大して効きもしない攻撃をわざと喰らい、少しずつ少しずつ耐久力を減らしていったのであった。
*
このままではお姉さまが殺されてしまう。
その上、ありもしない汚名を被せられている。
耐えられない。
せっかく幸せな日々を手にしたのに。
お姉さまを守りたくて強くなったのに、またプレイヤーに奪われてしまう。
またお姉さまに守られてしまう。
そんなの、お断りだ。
「おね……さまっ……!!」
まぶたの筋肉ひとつ動かす事すら難しい極度の衰弱状態のなか、カリニャンはまるで糸に引っ張られているかのように立ち上がった。
カリニャンの肉体を動かす原動力は、狂気に等しい感情。
そこらのNPCではとうに死んでいてもおかしくないほどの状態で、カリニャンはプレイヤー二人と戦うコハクへと手を伸ばそうとする。
すると――
『君はどうしたいの?』
無明の闇の中より、〝何か〟が応えた。
次回こそざまぁします。
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