番外編 ある二人の1日
イチャイチャが足りないと言われたので番外編です。
風に揺られた朝の木漏れ日が、ちらちら窓の外で踊っている。
陽射しは暖かくてどこかうつらうつらとしてしまう。
「紅茶を淹れましたよお姉さま」
「ありがとうカリニャン」
紅茶を啜りぼんやり過ごす朝は、どこかぽわぽわとして夢の中のようだった。
「カリニャン……」
「どーしました?」
コハクはおもむろにカリニャンの大きな手のひらを持つと、白く短い毛の間から露出しているサーモンピンクの肉球をぷにぷに弄りだした。
「むふふ、くすぐったいですよお姉さま~?」
「ん~……」
コハクそのままカリニャンの肉球の狭間の毛並みに鼻を埋め、すうすう吸って堪能する。
カリニャンのふあふあは甘くてどこか優しいいい香りがする。そして体の部位によってまた違った香りを楽しめるのだ。
――手や腕は癖がない。特に掌は優しい甘さで初心者にオススメ。
髪は懐かしいお日様の香り。頬擦りしたくなる。
脇は少し上級者向け。杉の木に似た香ばしさ。
胸からお腹はより強い甘さがある。顔を埋めたくなる香り。
下腹部から股にかけては、甘さに混ざって違う香りが顔を覗かせる。ビターチョコに似ているか。
そして、尻尾の付け根の裏側。
ここには珍しくピンクの地肌の露出している粘膜に近い部分がわずかにあり、そこではたいへん芳醇なカリニャンの香りを楽しむことができる。カリニャンいわくこの部分は汗をかきやすいらしく、つまるところ濃縮されているのだろう。(コハク考察)
太ももから脚にかけてはまだ未検証ながら、たぶんきっと絶対いい匂いがする。確実に。
……閑話休題。
「ふふふ、お姉さまったら……」
穏やかな午前中のティータイムには手のひらの優しい香りが一番だ。
――あの戦いから1ヶ月。
地球へと渡る方法を模索しつつ、コハクとカリニャンは勝ち取った平和と幸せを噛みしめ、二人きりでのんびり過ごしていた。
……けれどずっと何もせずぼんやり過ごすのは、少しばかり飽きる。
「カリニャン。今日は街に行ってみない?」
「いいですね! デートしましょう! むふふ、デートですっ♡」
†
という訳で、二人は街へやってきた。
魔境の奥地から人里までは人の足では半年はかかるが、コハクとカリニャンは転移ができるので一瞬だ。
しかし今回は転移は使わず、カリニャンがコハクをお姫さまだっこして空を駆けていったのだが。それでも一時間ほどで到着だ。
都市ミリムルオン、以前はたくさんのプレイヤーで賑わっていた街である。
あらゆる経済の中央に存在したプレイヤーが消えたことで、世界は大きな混乱を迎えていた。しかしこの街は、ヒスイの残した商会が事前に手を打っていた事で混乱はさほどでもない。
「お姉さまのクレープ美味しそうですねぇ~」
「一口食べてみる?」
「いいんですか! やったあ~!!」
プレイヤーが持ち込んだクレープという食べ物は、今やこの国の定番スイーツだ。
コハクは自身のクレープを屈んで物欲しそうに見つめるカリニャンの顔の前に差し出す。
「あ~ん♡」
瞳を閉じてあんぐりと口を開け、クレープを待機するカリニャン。
コハクはカリニャンのおおきなおおきな口の中を覗きこむ。
長く鋭い犬歯を筆頭にしたギザギザした歯列は、完全に肉食獣のものだ。ぬらりと照り奥にゆうにつれ暗くなってゆく喉は、まるで洞窟のようだ。
それを見てコハクは思い出していた。
ヴォルヴァドスに殺されたあの時、自身が死ぬ前にカリニャンに食べてもらった時のことを。涙を流しながら、躊躇しつつ口に含んだあの時のカリニャンの表情を。
本当に酷いことをしてしまった。コハクの心を罪悪感がちくりとささくれたてる。
「あむっ……もむもむ、美味しいです!」
「ふふっ、それはよかった」
「お姉さまもわたしのを……どうしました?」
察しのいいカリニャンは、コハクの様子に気がついていた。
「……いいんですよお姉さま。あの時、わたしはお姉さまを食べて糧にしたから勝てたんです。お姉さまがわたしの血肉になって支えてくれたから、この世界は救われたんですよ」
「……ありがとう。気を使わせちゃったね」
「いいんですよ。それよりわたしのクレープも一口どうぞです!」
コハクは熱くなる目頭を抑えつつ、差し出されたカリニャンのチョコクレープを一口頬張った。
甘くてほろ苦くて、けれど後味は優しくて。
これが幸せの味なのだろうか。
ヴォルヴァドスを倒すためにみんなと世界中駆け回ったあの日々は、辛いこともたくさんあったけれど確かにコハクの心の中で輝いている。
「カリニャン、口元にクリームがついてるよ。取ってあげるから顔近づけてくれる?」
カリニャンはしゃがみ込むと、コハクの手の届く高さまで顔を下げた。
そのままナプキンで拭われる……と思っていたら。
「んっ……」
カリニャンの口元を、コハクの小さな小さな唇が触れた。
「おにゃっ、にゃ、お姉さまっ!?」
「取ってあげたよ、クリーム」
――そしてこれまでもこれからも、隣にはこの優しい獣のお姫さまが笑っていてくれる。
「もーっ! そーゆーことするならお返しです!!」
「うわっ?!」
そうしてコハクは、顔くらい広いカリニャンの舌でべろりと頬を舐められた。顔が半分カリニャンの分泌物でぐしょぐしょだ。
「やっぱり美味しいですねぇ、お姉さまは……♡」
二人は、改めて『幸せ』の味を噛み締めるのであった。
†
食べて、歩いて、物を買って。
ミリムルオンで一通り遊んで、もうすっかり夕方だ。
「楽しかったですねぇ、お姉さま」
「そうだね。……また、行きたいな」
「これからはいつでもいつだっていけますよ」
もう悪いプレイヤーに狙われることもない。これからはコハクとカリニャンは好きなだけ互いを愛し合うことができるのだ。
行きと同じく、二人は魔境の大森林の上を跳ぶ。
ただしカリニャンは体長10mの『神獣』の姿で、コハクはその頭の上にいる。
柔らかいカリニャン臭に包まれコハクは夢見心地だ。
「見てくださいお姉さま!」
「わぁ……」
地平線へ太陽が沈みこむ。
見事な夕焼けが世界を黄昏に導いていた。
――また明日、と言えるのは、カリニャンとコハクがこの世界を勝ち取ったからに他ならない。
その事実が少し誇らしかった。
――
「ただいまぁ~!!」
と言っても、住民である家主とその従者は今帰ってきたばかりなのだが。
少し前まで住んでいた同居人は独り旅に出て、今はこの広い屋敷に二人きりだ。
それから二人は夕食を共に作って食べて、お風呂に入って……それから――
「にゃあぁ、お姉さまぁっ……ソコ、ソコがいいですっ……」
「ここ? えいっ」
「にゃあぁぁんっ……♡」
……風呂上がりの二人は完全に初夜を迎える直前であった。
しかし今は、なぜか腰をコハクにトントン叩かれて喘ぐカリニャンがいた。
……決戦から一月。未だ二人は一線を越えていない。それはひとえにコハクがヘタレであるからだ。カリニャンが誘惑すると、いつもいい感じのムードになった後に腰トントン祭りが始まる。
そしてそのままひたすら腰トントンされ続け、やがてはうやむやになってしまう。
今日こそは、デートの後こそはっ……!
と思っていたのにこの体たらくである。
「にゃぁっ……ち、にゃ……ちっがーう!!!!!!!!!」
「うわっ!? どうしたのカリニャン!? もしかして痛かった?」
「どうしたのじゃないんですよ! 違うんですよ!! お姉さまのヘタレっ!!! わたしはお姉さまに抱かれたい一心でいつも誘っているのに……お姉さまったらすぐ腰トントンしかしなくなっちゃうのどうにかなりませんか!!!?」
珍しくカリニャンがコハクにキレていた。
実に正当な怒りである。
「そ、それは……」
しかしコハクにも事情はある。
コハクは性に関して忌避感がある。
かつて母が夜な夜な男をアパートに連れ込んでは尊をベランダに追いやり抱かれていたあの光景を。それは未だにコハクの心の一部を凍てつかせ、縛っている。
カリニャンとそういう事をしたくない訳ではない。けれど、過ってしまうのだ。
「……お姉さま、わたしと交わるのは嫌なんですか?」
「嫌な訳ない!! でも……躊躇しちゃうんだ」
「……そうですか。お姉さまの心には、まだお姉さまのお母さんの呪いがかかっているんですね」
「……」
無言で頷くコハクを、カリニャンはそっと抱擁する。
ドクドクとカリニャンの神核の音が聴こえる。
「お姉さまの呪いは必ずわたしが解きます。……今から」
「えっ、今から?」
「わたしに身を任せてください。もし怖いのなら、わたしの体の縞の本数でも数えていてください。すぐに終わらせますからね」
「えっ、ちょっ……」
「今からわたしがお姉さまを抱きます! わたし以外の事なんて考えられないようにして、呪いを溶かしてやりますよ!!」
しゅるりと手際よくメイド服を脱ぎ去ってゆく。
毛皮に包まれた見慣れたおおきなおおきな体がコハクの前に露出する。
「ちょっとカリニャン僕にも心の準備ってものが」
「わたしは心の準備をしてたのに腰トントンで済まされそうになったんですよ?! ……もう我慢の限界です。大人しくたべられてください」
「ひゃ、ひゃい……は、初めてだから、その、優しくして……」
大きなベッドの上に大きなカリニャンに押し倒された小さな小さなコハクの中には、もはや母の呪いが過る隙はない。
「お姉さまはわたしのものです……心も体もぜんぶ……!」
そして白くふわふわした獣の少女は、最愛の小さな人に覆い被さり貪り啜るように堪能する。
カリニャンはようやく訪れた甘い夜に、満足するまで愛する人を味わい続けるのであった。
体格差すごいからコハクちゃんたいへんそ(適当)
星評価いっぱいついたらうれしいな。
好評なら今後も番外編やちょっとした続きを書くかもしれません。




