第79話 UNKNOWN
2024-3/19 大幅改稿済み
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むかしむかしあるところに、小さな兵隊さんが10人おりました
その内9人が死んじゃって、残りは1人になりました
残った1人はどうするの?
首を吊るの? 指輪をはめるの?
どっちにしたって……
ふふふ……
――『〝双子の新星よ〟〝契り交わり〟〝破滅の仔を成せ〟』
蒼く白く、破滅の凶星同士がぶつかり合う。
――〝キロノヴァ〟
発生すればこの仮初の世界を虚空に帰すほどに、強大で破局的な天体現象。
「お、ね……さ、ま……」
もはや意識も朦朧としているカリニャンへとトドメを刺すべく、機械仕掛けの神はそれを発動させようとしていた。
カリニャンは胴体を上下に両断され、上半身だけで生存している状態だ。再生能力を封じられている今、このまま放置していても絶命は免れないだろう。
それでも、念には念を入れてトドメを刺す。
『さらば、人類の愚かなる一個体よ』
カリニャンを仮初の世界ごと消し去ったら、次は侵略の続きだ。プレイヤーの手による『慣らし』は整っている。
あとは自らあの世界の先住民を8割ほど間引き、残りは移住した地球人の家畜として飼育する。
間もなくキロノヴァは発動する。
しかし――
――パリンッ
キロノヴァを発動させるための『星』は、不思議なことに粉々に砕けてしまっていた。
『……?!』
凶星が……中性子星が物理的に砕かれるというあり得ない事態に、驚愕する機械仕掛け神。
中性子星はブラックホールに次ぎ高密度の天体である。それを砕くなど、同じ中性子星かブラックホールでなければ不可能。
いや、砕けただけではない。
その破片はヴォルヴァドスの意思とは無関係に、虚空に霧散してしまっていた。
アイリスの幻想打破で消されたのとは違う、何か圧倒的な力で掻き消されたかのようであった。
『何が起こっている……。っ!!』
突然の事態に戸惑う機械仕掛けの神に、更なる異常事態が襲う。
カリニャンの体が、宙に浮き上がったのだ。
上半身が、千切れた下半身が、零れ落ちた臓物が、溢れ出た血液が。
細胞ひとつ残さず、何処かへと連れ去られるかのように消えていったのであった。
『――いいわよ。これで最後ね』
――黒い風が泣いている
†
仮初の世界は、『それ』の意思に塗り潰された。
摩天楼建ち並ぶ東京は瞬く間に闇に融け、代わり今にも雪に溶けてしまいそうな白き花々が地面を埋め尽くす。
この世界には白き花の他には何もなく、ただ果てなき無明の闇が広がっていた。
『馬鹿な……まさか、こんなことは……』
びきり
空間に亀裂が生じた。
それはまるで、向こう側から何かが乱暴に突き破って現れようとしている様を想起させる。
間もなく、空間はまるで薄氷のようにひび割れ砕かれた。
そして無明の闇の中に、異次元の色彩が顕現する。
円形のステンドグラスに酷似した、異次元より来たりし彩色。
それの更に上から、何処からともなく紅い縄で首を吊る少女のような何かが降臨した。
――こいつだ!!!!!
一目見た瞬間、機械仕掛けの神……いや、ヴォルヴァドスは理解した。
コハクに幻影召喚を与えたのは――
ヒスイの破邪に手を加えたのは――
そしてカリニャンの背後から度々ヴォルヴァドスの邪魔をしてきたのは――
――すべてこいつの仕業だ、と。
『それ』の存在を薄々ながら感じてはいた。そして干渉を防ぐべく、ヴォルヴァドスは早くに手を打った。『それ』の加護を持つカリニャンを処分しようと、『レイドボス』としてプレイヤーに抹殺させようとしたのだ。
しかしその目論見は全て失敗した。
「ふふっ……」
〝蕃神〟は、くすりと笑った。
『〝あまねく新星よ! 彼の敵を穿ち崩し浄化し賜え!!〟』
機械仕掛けの神は、4本の腕より全力で消滅の神矢を放った。
カリニャンに使ったものよりもより強力な、言うなれば燃費を度外視した全霊の攻撃であった。
ぱしっ
しかし――消滅の神矢は、機械仕掛けの神よりもはるかにはるかに小さな彼女の手のひらによって、葉虫のごとくはたき落とされるのであった。
『……!!』
恐らくはカリニャンが命と引き換えに呼び出した、意思ある界游魚……『神』と呼ぶに値する存在。
機械仕掛けの神は、4本の腕それぞれの武具を換える。
『剣』『戦鎚』『弓』『盾』
攻防一体の武装であり、それぞれが触れるだけで消滅する究極の対神武器であった。
『名もなき神よ。我にこれを使わせたこと、誇りに思うがいい』
機械仕掛けの神はその巨体に見合わぬ速度で間合いを詰め、数百分の一もの大きさの少女へと武器を振り下ろした。
『……』
バツンッ
突然、機械仕掛けの神の2対の腕が千切れていた。
少女は何をするでもなく、ただ縄に吊られて揺れている。
――見えなかった。ただ、何かをしたのは確かだろう。
ヴォルヴァドスに匹敵するほどの力を有しているのは明らかだ。
――しかしこやつさえ倒せば
『かくなる上は……!
〝貪欲なる神焔よ、尽く燒き滅ぼせ〟!!!』
それは嘗てヴォルヴァドスが遭遇した中で、最も強大な敵の力を模倣したもの。
更に……
『〝双子の新星よ、契り交わり破滅の仔を成せ〟!!!』
ヴォルヴァドスが発動できる攻撃の中で、最も強大かつ凶悪な二つを同時に起動する。
自身さえ危険だが、これならば格上すら斃せる切り札であった。
「ふっ」
機械仕掛けの神が呼び寄せた凶星と神の焔は、まるで蝋燭の火のように吹き消された。
『馬鹿な……掻き消しただと!?』
あり得ない。幻想打破でさえ影響を0にすることは不可能なはず。
であれば、この神は――
――――
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Lv:1700017
技繝溘ぞ繝シ繧「:これを見ている暇がお前にあるのか?
――――
『……は?』
それのステータスを視てしまった機械仕掛けの神は、思わず間抜けな声を出した。
嘗てヴォルヴァドスが遭遇した貪欲なる焔神でさえ、存在値換算で10万ほどだったのだ。
あれは……ヴォルヴァドスより遥か高次の存在――
その神は、ありとあらゆる世界に神出鬼没に現れる。
そしてその度に特定の人間1人に固執しては、無明の闇より見守り時として力を貸す。
彼女は何が目的なのか。一体何者なのか。それを知る者はいない。
しかし彼女の目的を邪魔する者は、善も悪も神も人も分け隔てなく滅び破壊されてきた。故に数多の世界の人々は、彼女を恐れ、怖れ、畏れた。
『久遠の守護者』
『魂を狩り立てるもの』『殺戮の神』
『猟犬どもの大君主』『禍つ神』
『太歳星君』『星影の女神』『極地からの光』
『殃禍の主』『約束の女王』
『メアリースー』『生と死の女主人』
『あまねく魔法少女の始祖』
『〝死神〟の魔法少女』『未明の神』『薄明の神』
『雀殺しのクックロビン』『黒死姫』
これらは、彼女が顕現したいくつもの世界でつけられた、数多の姿とその異称である。
そして、この世界――いや、カリニャンたちの世界での異称を規定するのであれば――
――〝死兆の蕃神〟
†
「ずいぶんと必死そうね」
ヴォルヴァドスを見下ろし、〝蕃神〟は嘲笑った。
「あんた人類を、己の統べる世界の住民を守り救いたいんだっけ?」
『そうだ。それがどうしたというのだ』
「くっだらない。カリニャンを通して見ていたけど、あまりにも滑稽過ぎて笑っちゃったわ」
『……!! 我が我の世界の住民を護ろうとして何が悪い!!!?』
それは、ヴォルヴァドスにとって数千年ぶりの強い感情の発露であった。
「……あのさ。救世の神を自称するんだったらどうして同じ目線に降りて寄り添ってあげないの? なんで人間を知ろうともしないの?」
蕃神は肩をすくめた。
「それで一方的に自分の都合を押し付けて守り救いたいだなんて、ほんと滑稽だわ。あの子も言ってたけど、独りよがりなのよねぇ」
『黙れッ!! 貴様のような存在に何が解る!!』
「解ってないのはあんたの方よ。私にとっては人も神も大差なく虫ケラ。そんな虫ケラにこうして目線を合わせて会話までしてやってるというのに、それすらわからないとはね。これだから下等生物は……」
『我が下等だと……? ふざけるな、人類を統べ星に救いをもたらす我が下等なわけがないであろうが!!』
「問答はもう飽きたしいいわ。――〝跪け〟」
『……!?』
蕃神の〝命令〟に、ヴォルヴァドスの機械仕掛けの体は意思に反し平伏していた。
『……ああそうそう、〝愛〟が下らないノイズだとか言ってたわよね? それもなーんにも解ってない発言で笑っちゃったわ。
愛はね、時としてこの私すら退ける至高の狂気よ。それを下らないだなんて……』
蕃神は両手を前に翳した。
すると、闇の中から真っ黒な影のような巨大な両腕が現れる。
それは機械仕掛けの神の体すら小さく見えるほどに大きかった。
「さて。私の大事なお花を傷つけた害虫は、ちゃんと潰しておかないとね」
『……!!!?』
〝腕〟は、蕃神の両手の動きに連動して機械仕掛けの神の頭と胴体を掴み持ち上げた。
ヴォルヴァドスはその〝腕〟に消滅の神剣で斬りつけるなどして抵抗するが、全く効いていない。
「ほらほら、頑張れ頑張れ♥」
『……っ!!』
巨大な両腕の掌に挟まれた機械仕掛けの神は、ミシミシと身体を軋ませながらゆっくりゆっくりと圧し潰されてゆく。
『この我が……こんな虫のように潰されていいはずがない!!!!』
《ファイル1 ロード完了》
機械仕掛けの神は、歯車を巻き戻す。
機械仕掛けに時計の針を巻き戻す。
「へぇ、そうするんだ?」
――蕃神はヴォルヴァドスを遥かに凌駕する怪物だ。それこそ、単身で銀河系を破壊したり、世界すら創造できるほどの力があるだろう。
まともにやりあって勝てる見込みは零に等しい。
しかし様子を見るにどうやら、こうして顕現し力を行使するには何らかの縛りがあるらしい。そして恐らくその縛りには獣の意思が関わっている。
ならば、奴が顕現するよりも前に時を戻してカリニャンを即死させてしまえばいい。
時は遡った。世界はヴォルヴァドスが作り出した仮初の東京へと戻される。
――今度こそ、だ。今度こそ失敗はしない。あの蕃神を呼び出させはしない。
一撃で頭蓋を――
『これで終わりです!!』
金色の鉾が、機械仕掛けの神の脳天に突き刺さらんと振るわれていた。
――ヴォルヴァドスは見誤っていた。
蕃神は既に『ファイル1』に手を加えていたのだ。
〝無かったことになった〟はずのカリニャンの一撃が、機械仕掛けの神を貫いた。
『バ、カな……』
《ファイル1 ロード失敗》
《おきのどくですが ファイル1は消えてしまいました》
もう巻き戻すこともできない。
『愚かねぇ。そうやって巻き戻そうとすることなんて始めからわかってたわよ』
カリニャンの背後から、あの蕃神の声が聴こえてくる。
『さようなら、下等生物。花につく害虫さん』
カリニャンの一撃は、ヴォルヴァドスの核を捉え粉々に撃ち砕いた。
その声を聞いたのを最期に、ヴォルヴァドスの意識は永遠の闇に消えていったのであった。
*
「お姉さま……」
黒幕は倒した。
カリニャンの住む世界は救われた。
「ヒスイさん、すーちゃんさん、アイリスさん、メノウさん、ジンくん、麒麟さん……」
しかし、失われたものは戻ってこない。
「う、ああああああああっ!!!」
そして誰もいなくなった東京に、獣の慟哭がこだまする。
ああ、いっそのことこれがただの悪い夢だったなら……
ヴォルヴァドスが消滅したことで、仮初の東京は少しずつ崩壊しつつあった。
「うぅ、ううっ……」
泣いた。哭いた。啼き続けた。
そしてただでさえ戦闘で疲弊していたカリニャンは、やがて糸が切れるようにその場に倒れこむ。
「かえ、らなきゃ……」
……どうやって?
やがて仮初の東京は完全に崩壊し、カリニャンは外なる闇に投げ出された。
何もない、物理的な時間すらも流れない闇の世界。
神となったカリニャンに寿命はなく、このままではただ永遠にここで彷徨うこととなる。
……けれど。
――君はこんなにも頑張ったんだから。
こんなにひとりぼっちな結末なんて認めない。……私みたいな思いはさせない。
だから、ちょっとくらい都合のいいハッピーエンドがあったっていいわよね。
蕃神は闇に漂うカリニャンに触れ、まるで我が子に向けるような慈悲の笑みを浮かべた。




