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第65話 外なる闇にて

 ひどく空が狭かった。


 辺りに聳え立つは数多の光瞬く摩天楼。


 ビルの壁を飾る巨大電光掲示板が何かの化粧品の広告を映し出す。


 広く黒い道とそこに塗られた大きな白い横断歩道は、あまりにも有名な交差点として一種の観光地となっていた。

 青信号の時には1度に3000人もの人々が行き交うそこは、しかし今は誰もいなかった。


 信号機は存在しない歩行者のために120秒おきの明滅を繰り返す。

 そして歩行者信号機が緑がかった色に光った時には、閑散としたこの街にとおりゃんせのメロディが虚しく鳴り響く。


 それは今にも車の騒音や雑踏のざわめきが聞こえてきそうな、ありふれた夜の都会の光景だった。




「変な場所ですね……ここがお姉さまの故郷、なんでしょうか? 目がチカチカします」


 〝108〟と看板に掲げられた大きなビルの屋上から街並みを見つめ、カリニャンはそんな感想を抱いた。



「……むっ! 来ましたね」



 遠目に見える駅の中から、数人の人間がぞろぞろ現れる。

 人間たちはカリニャンの方を指差すと、剣やメイスといった武器を抜き構えた。敵対するつもりのようだ。


「やれやれ、人違いですか……」


 カリニャンは肩をすくめると、そのままその人間たちへ手を翳した。


「〝雷火〟」


 雲も星ひとつすらない空から、蒼い稲妻が迸る。


 そしてその場にいた人間たちは、一瞬で黒い煤を残して消滅したのであった。



「……来ていないはずは、ないんですけどね。手早く済ませて、お姉さまの所へ向かいたいです」


 退屈そうに、しかしカリニャンは何かを待っている様子であった。









 ――東京、渋谷。


 ハチ公前広場にて出現――











 ――――



【レイドボス 墓守の白獣姫】


 Lv:1110



 ――――







 †









「夜景ってこんなに綺麗だったんだね」


「なんじゃ、見たことなかったのか。そして妾に同意を求められても困る。妾もこの派手な景色に圧倒されておるからの」


 唐突なコハクの独り言にアイリスが反応する。


 二人がいるのはこの広い東京の街の中で最も高い建造物。

 渋谷とは川で隔てられており、数キロほど離れている。


 それは世界屈指の大都会の中でも特に目を引く輝きを見せる、日本最大の電波塔。



 ――東京スカイツリーである。



 ふたりはその最突端の上に腰かけ、この広大な大都市を見下ろしていた。


「……この世界での僕はずっと不自由だった。でも、嫌いだった訳じゃない。

 だから、せめて故郷の景色を目に焼き付けておくよ」


「そうか。……勝っても負けても、お別れじゃからな」


 地球の神ヴォルヴァドスそのものとの決戦は、アイリスは当然としてコハクも参戦する事と事前から決めていた。


 他の仲間たちは、この東京中から人間(プレイヤー)どもを狩る――あるいは、強力な侵略者(プレイヤー)を討伐する役割である。





 ここは地球にある『東京』と呼ばれる大都市――を模してヴォルヴァドスが作りあげた〝ダンジョン〟だ。


 東京を模したとは言っても、本物と全く同じである。

 言ってしまえば、コピーのようなものである。


 ここは〝外なる闇〟。

 それは、世界と世界の彼岸……時空連続体の狭間に存在する海のようなもので、ヴォルヴァドスはそこに決戦の舞台として地球の一部を再現したのだ。


 ヴォルヴァドスは、地球はもちろんのことこれから支配する予定の世界を巻き込まぬために舞台を誂えたのであった。



「……来るぞ、構えよ」



 大空に荘厳な『門』が浮かび上がる。

 そしてその門が開く――






 ―――



 呼称名:救世神ヴォルヴァドス


 Lv:6974



【己の罪に抗うなかれ】


【懺悔せよ。さすれば救われん】



 ―――




 ……不思議な光が辺りに満ちる。


 黄昏が『門』の向こうから照らしている。


 ――〝地球の神〟が、門より降臨した。



「あまりヤツの顔を見るでない。気が狂うぞ」


 ヴォルヴァドスの『顔』は、まるで蓮根のように穴だらけであった。

 その穴の向こうには、宇宙を想起させる深い黒が広がっている。


 人間の精神では直視に耐えられない。


 そしてその全身はというと、灰色の霞を纏った蒼い炎がゆらめき、人の形を作っていた。


 その背には蒼い炎の翼が天使のように広がっており、あまりの神々しさに思わず膝をつきそうになる。

 コハクがただの人間だったら、卒倒して廃人になっていてもおかしくはないだろう。


 だが、コハクはもう人間ではない。

 アイリスの龍脈と魂を繋ぎ、膨大なエネルギー量を身に宿している。



 嘗ての神獣のように、アイリスに次ぐ神性を宿す存在……さしずめ『亜神』と言ったところだろうか。







 ―――――



【レイドボス:無貌の吸血姫】


 Lv:1283



 ―――――



 コハクやカリニャンだけでなく、ジンとすーちゃんも同様に龍脈を注がれて神性を得ている。


 四人の内でもコハクとカリニャンの2人は特に強い力を得ており、当初はカリニャンもヴォルヴァドスとの戦いに参戦する予定だった。



 ……だが、カリニャンには『宿敵(ランリバー)』がいる。

 根強い因縁だ。ランリバーは十中八九、カリニャンを殺しに来るだろう。


 ヴォルヴァドスとの戦いにおいてランリバーの乱入は不測の事態を招きかねない。

 だから、カリニャンにはランリバーの対応を任せている。


 それに、ヴォルヴァドスと戦うならば手数の多いコハクが最適なのだ。





 手数――






 コハクは道化戦からの2ヶ月の合間に、更に2体の魔法少女の召喚が可能となった。


 その内の一体の能力は、まさにヴォルヴァドスとの戦いにおいて極めて有用だった。


『――龍神と人の子よ。あえてもう一度聞く。この聖戦を歯向かわず受け入れるというならば、新たなる世界で生きることを許そう』


 ヴォルヴァドスは邪神ではない。

 むしろ善なる神に属し、その気質は極めて慈悲深い。


 だからこそ、己の世界の民のために他の世界の人類を滅ぼそうとするのだ。


「……断る。この聖戦とやら、妾たちにも勝ち目はあるからのう?」


『それが答えなのですか。……ならば仕方がない。プレイヤー(我が子)たちでは貴女がたは手に余る。我が直接、祓除してくれよう』


 スカイツリーの頂上に立つコハクとアイリスを、炎の巨人(ヴォルヴァドス)がもろとも握り潰そうとする。


 だが、アイリスの張った結界がそれを阻む。


「嘗めるでないぞ? 神龍化――!」



 黄龍(こうりゅう)


 プレイヤーたちの間で都市伝説として語られてきた、正体不明のレイドボス。


 黄色い姿をしていることから、中国における神獣の名をとり黄龍と呼ばれていた。


 しかし、その色は長年の封印により本来の輝きが損なわれたものに過ぎない。



 アイリスの本当の『姿』は――









 ――――――



 レイドボス:奉ろわぬ旧き龍神


 呼称名:虹龍(アイリス)



 Lv:5180



 ――――――





 七色に彩られた、神々しくも美しき龍。


 虹の光に包まれたこの世界の守護者が、数百年ぶりにこの地で顕現した。


『さぁ蕃神よ、かかってくるがよい!』





 アイリスだけではない。


 コハクも、この日のためにできることは全て準備してきた。


 ――動画配信サイト(ムーチューブ)のアカウントはヒスイと共有している。

 これに関しては、アイリスの力でセクシャルガードや認識阻害は全て外してある。


 そして、ヒスイのアカウントでは普段からカリニャンやコハクの日常を動画にして投稿している。これにより、カリこはファンの登録者数は20万人以上に登る。



「――配信開始」



 コハクはそう小さく呟いた。


 胸元のブローチ型宝珠(カメラ)が宙に浮き、コハクの側からこの世界を地球へ映し出す。


 かくして世界の命運を賭けた決戦は、数多の人々が見守ることとなったのであった。



 ヴォルヴァドスは知らない。

 コハクが配信を行っている事を、その意味を。


 嘗てとある神に挑み散っていった魔法少女たちの無念を、その呪い(しゅうねん)の力を。


 弑逆の時は近い――


 


いよいよラスボス戦開始です

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― 新着の感想 ―
[良い点] いいねぇいいねぇゾワゾワしますよこの空気感!!  これぞ最終決戦って感じっす!!  あとヴァルヴァトスの姿がなんか……あれっすね  外なる神というかクトゥルフというか……ホラーとは違う畏…
[一言] ランリバーへのお仕置きまだかな……(ソワソワ
[一言] ラスボス戦開幕。 アイリスより更にレベルが上のラスボスさんと5分の1程度のレベルしかない状態でどう立ち向かうのか、宿敵は殺れるのか。こちらに犠牲は出ないのか等色々楽しみですね。
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