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第7話 街に行ってみよう

「最近はさ、毎日が楽しいんだ」


「へえ、そりゃ珍しいな。何があったんだ?」


「ゲームだよ。ヴォルバドスの世界の中でね、すごく良いNPCに出会ったんだ。側にいるととっても楽しくてね。カリニャンっていう白猫族の女の子なんだけど」


「ケモミミ娘!? そいつは良いな、今度俺にも会わせてくれよ」


「いいけど、カリニャンは僕以外のプレイヤーが苦手みたいだよ? 過去に悪いプレイヤーに酷いことされたみたいで……」


「あぁ~、いるよな。ゲームの世界だからって、NPCに鬼畜なやつ。ランリバーチャンネルとかセーロンマスクチャンネルとか、あんな事やってて何が楽しいんだか」


「……そのランリバーに故郷を滅ぼされたんだって」


「はぁ!? ……そりゃ、可哀想すぎるだろ……」


「そうだね。今でも時々一人で泣いてるみたいだよ」


「そうか……。お前は本当に優しいんだな」


「そうかな?」


「そうだよ。そんな子に親身になってんだからさ、誰が何と言おうともお前は優しい人間なんだよ、古波蔵(こはくら)















 *










 カリニャンはあれから毎日森の中での修業に勤しんだ。

 そしてマンティコアを倒してから2週間後の日のことだった。


 二人は花畑を一望できる屋敷のテラスのテーブルにて、優雅に紅茶と菓子を楽しんでいると。



「そうだカリニャン。こんど一緒に街に行ってみない?」


 ふと、コハクがカリニャンにそう切り出した。


「ま、街ですか……」


 街――そこは、コハクが贔屓にしている、森から数百㎞ほど離れた場所にある都市だ。


「怖いですけど……行ってみたいと思います!」


 カリニャンのプレイヤーへの恐怖心は根深い。ランリバーたちにされた事はカリニャンの心に消えない傷跡を刻んでいるのだ。


 コハクは例外なのである。


「大丈夫。今のカリニャンならそこらのプレイヤーなんて返り討ちにできるよ」



 2週間……あれからカリニャンは本気で鍛練に勤しんだ。

 コハクの助力も借りながらも、森に住む強大な魔物を何体も討伐し、そしてコハクと毎日手合わせを繰り返した。


 その結果、今のカリニャンはこの森の中でもかなりの強者となっていた。


 真正面から戦えば、もはやほとんどのプレイヤーはカリニャンに敵わないであろう。


 だがまだ、コハクには遠く及ばない。


 それでも隣で戦えるくらいの力は手に入れた。守られるだけの、弱い自分はもういない。


 だから、今度は一緒に――












 *



















「あぁ、どの服がいいでしょうか? これもいいですし、こっちも捨てがたい……」


「カリニャン……」


「はい、なんでしょうお姉さまっ!」


「こ、これじゃだめかな……? 今までもこの服で行ってたし……」


「ダメです! お姉さまはこんなに可愛いんですから、もっとお洒落しなくちゃいけないんです!!!」


 街へ買い出しに行く当日。

 コハクがカリニャンを連れ出す……はずなのに、なぜかカリニャンがコハクの外用の服をコーディネートする光景がそこにはあった。


「うぅ、これはちょっと、恥ずかしいよカリニャン……」


「恥ずかしくないです! 可愛いですよ! これにしましょう!!!」


 カリニャンが押し入れの奥から選んだのは、フリッフリのピンクのチュチュスカートだった。

 明らかに子供向け……というか、そういう趣味のあるプレイヤーがコハクに向けてふざけて作ったものであった。


「さ、流石にこれだけは無理っ!!」


 そもそも現実世界でのコハクは男である。

 いくらなんでもこれはないと涙目になりながらふるふる首を振る。


「〝これだけは〟? じゃあ他のならいいんですねっ!!!」


 しまった! 罠だ! ……と気づいた時には既に遅し。

 コハクはカリニャンのコーディネートを受け入れる他なかった。














 そして二人は、森を抜けて街へとやってきた。


 ……と言っても、コハクの持つ魔法道具『転移の翼』を使って数秒で到着したのであるが。

 1度訪れた事のある場所に瞬間移動できる効果があるのだ。


「……ここまでする必用あったのでしょうか?」


「ある。だってカリニャン、割りとプレイヤーから命を狙われる立場にあるからね?」




 カリニャンは〝邪神の狂信者〟という、討伐指定を受けているNPCである。

 討伐……つまりプレイヤーがカリニャンを殺すと、高レア度の武器が報酬で入手できるように設定されてしまっているのだ。


 いくらカリニャンが強くなっているとはいえ、無駄なトラブルは避けたい。


「お姉さまが言うなら信じますけど……」


 コハクは自身とパーティメンバーのステータス情報をある程度書き換えられるスキルを持っている。


 それでカリニャンの情報の一部分を改竄したのだ。

 書き換えた部分は、称号と種族。




 ―――――――――



 称号:かわいいにゃんこ


 名前:カリニャン


 種族:黒猫族



 ―――――――――



 討伐指定の通知が来たとき、プレイヤーに共有された情報は称号とカリニャンの見た目だけである。


 名前やその他の情報までは明らかになっておらず、見た目と種族と称号さえ偽ればまずバレる事はないだろう。


 とはいえ、コハクのセンスは壊滅的であった。


「あの、お姉さま……? かわいいにゃんこって、何ですか……? 」


 プレイヤーのパーティメンバーになったNPCは、自身のものに限りステータスを閲覧できる。


 カリニャンは自身につけられた仮初の〝称号〟を見て、複雑な心境に浸っていた。


「え? カリニャンのことだけど?」


「お、お姉さま……」


 カリニャンはかわいい。

 つまりコハクはそう言っているのである。


「私かわいい……私はかわいい……」


 コハクのかわいい発言に、カリニャンは頬を赤らめて身体をもじもじむずむずさせる。


 カリニャンとて、故郷では可愛いと呼ばれた事くらいある。けれど大好きなコハクから可愛いと言われるものとは別物なのである。


「お姉さまだって可愛いですからね?」


「え? あ、うん。行こっか?」






 全くもって無自覚なコハクは、カリニャンを連れて街の商店街までやってきた。


「わぁ、人がいっぱい……」


 山奥育ちのカリニャンには物珍しいくらいに賑わっていた。


 ここはゴルファルク王国の主要都市、『ミリムルオン』。


 街の中央広場は初ログイン時のスポーン地点であり、多くのプレイヤーがお世話になるであろう場所だ。


「まずは素材を引き取ってもらいに行くよ」


 コハクは森の奥に隠って生活しているが、それでも金は必用だ。

 その収入は、討伐した森の魔獣の素材を売る事で得ている。


「よぉコハクちゃん。珍しいな、連れがいるなんて。お嬢ちゃんや、何て名前だい?」


 二人がやってきたのは、何やら大きな建物の先に建つお店だった。


「わっ、私はカリニャンですっ! お姉さまにはとてもお世話になっています!!」


「がはは、俺はゲルドっつーんだ。これでも武具職人をやってる。よろしくなカリニャンちゃん」


 髭をたくわえた小柄で寸胴な男は、ゲルドというらしい。


「今日はいつも通り素材を査定してもらいたい」


「OK、二人ともこっちに来な」


 コハクたちはゲルドに誘われるまま店の奥へと脚を踏み入れた。


 そこは、とてもとても広い石造りの空間だった。


「それじゃ出すね」


「ああ。いつも通りどっさりいってくれ」


「出すって一体な……きゃっ!?」


 コハクが手を翳すと、虚空から大量の魔獣の死骸が山ほど排出された。

 それらは全て、コハクとカリニャンが仕留めた森の魔物たちであった。


「いやはや、やっぱり凄まじいなコハクちゃんは。どれもレベル100超えの魔獣ばかりだ」


「いや、今回はほとんどカリニャンが仕留めた魔獣だよ」


「ほぉ、そうなのか。ふむ……こりゃたまげた、今まで見てきた中でコハクちゃんの次に高レベルだ」


「え、えっと、あの……もしかしてゲルドさんは……」


 NPCは通常ステータスを閲覧することはできない。にも関わらずゲルドは『レベル』について語っている。


 それが意味する事は――


「あぁ、俺もプレイヤーだ。もしやプレイヤーに悪感情抱いてるクチか? そりゃあ同じプレイヤーとして申し訳ねえな」


「い、いえ、ゲルドさんは悪くないです。ただ、プレイヤーには見えないなって……」


 カリニャンが今まで見てきたプレイヤーは、非常に戦闘能力の高い者ばかりであった。


 しかしこのゲルドという男は、弱くはないが見てきたプレイヤーに比べると遥かに弱そうに見える。


「おー、そりゃあな。俺は職人としての能力に特化させてるからな。戦闘における強さ(レベル)はそこまでじゃねえな」


「そういうプレイヤーもいるのですね。私てっきり、みんな戦いが好きなのかと……」


「プレイヤーにも色んなヤツがいるからな。コハクちゃんみてえな善い子もいれば、〝面白いから〟で非道な事をするヤツもいる。気を付けろよ」


「はい、ありがとうございます!!」


 カリニャンは身をもって知っている。

 善いプレイヤーも、悪意なく他者を傷つけ踏みつけ尊厳を貶めるプレイヤーも。


 この街には多くのプレイヤーが拠点として、あるいは店を構えている。


 恐らくはその殆どが善良なプレイヤーであろう。


 だが、中には『所詮はゲームだから』と悪質な輩もいる。

 そういうプレイヤーこそNPCを大勢殺めたりしているため、高レベルの傾向があるのだ。


「さて、この魔獣の素材は全部引き取りでいいのか?」


「いや、一部はカリニャンの防具……服と武器に加工してもらえると助かる」


「おう、任せろ。造るにあたって何か希望はあるか?」


「私はメイド服がいいです! それと、お姉さまのゴスロリドレスも作ってもらえますか!?」


「か、カリニャンっ!?」


 もはやカリニャンはお姉さまフェチであった。

 コハクの事が好き過ぎるあまり、たまにこうして暴走する。


「ほほお、いいぜ。注文承ったぜ」


「ちょっとゲルドっ!? 今の無しで!!」


「注文の変更は聞き入れませーん!」


「お姉さまのゴスロリ姿……うへへ、楽しみです……」


 もはやカリニャンのコハクへの感情は、狂気と呼ばれる境地に踏み入れつつあった。


「完成にゃ一週間くらいかかるからな。一週間後にまた来てくれ。代金はその時差し引きで渡す。コハクちゃんのゴスロリ姿、楽しみだぜゲヘヘ……」


 そうして数日後。

 コハクはあまりにも似合いすぎるゴスロリを着せられ赤面しながら街を歩く羽目になるのだが、この時はまだ覚悟も何も決まっていなかったのである。

『面白い』

『続きが気になる』

『カリニャンちゃんがんばれ』と思っていただけたら、ブックマークや感想、ページ下部より星評価をぜひともお願いいたします。

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[良い点] ゴスロリ色白吸血鬼お姉様!!!!!!!(挨拶)  いやぁやっぱりTSっ娘がカワイイ洋服を着せられそうになるシーンはとても素晴らしいです  そこからしか得られない栄養で今日も生きています(*…
[良い点] 無自覚おねーさまw カリニャン攻め攻めw
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