第61話 Congratulation! You lose!
「ぎゃっはぁ~~~~~!!!」
面の隙間から血を吐き出し、べちゃりと床に撒き散らされる空虚なる道化の破片。
上半身だけとなってまだ生きているようだが、このダメージならじきに絶命するだろう。
「ねえ。なんで玄武さんを殺したの?」
「にゃ、はは……なんでだろうねぇ? 教えよっかなぁ、どうしよっかなぁ。うーんうーん……教えな~い!」
「そう」
今際の際でもヘラヘラと笑う道化の頭を、コハクは仮面越しに銃で撃ち抜いた。
道化はビクンッと身体を痙攣させると、額から血を流しそのまま動かなくなった。
「う……っ」
敵であり、こうするのはやむを得なかった。
とはいえ人を殺すのは気分が悪い。
――帰らなければ
檻に閉ざされた舞台から、コハクはどうやって脱出するか悩んでいた。
月影の刀で攻撃しても、祝福の弾丸を当ててみても。
やはりこの檻を壊す事はできないようだ。
「にゃはっ……」
「っ!?」
コハクのすぐ背後で道化が小さく笑った。
すかさず距離を取り、警戒するコハク。
ぎ、ぎぎぎぎぎっ
床に散らばる道化の身体のパーツが、宙に浮き上がる。
よく見れば、何処かから下がっている細い糸のようなものに吊られているようだ。
そのパーツは、同じく吊られた道化の上半身へと集まり、ぐじゅぐじゅと寄り合わさってゆく。
「にゃははっ、にゃはっ! 驚いたぁ?! 驚いたねぇ!! この身体はフジミなのさ!!!!」
「嘘でしょ……」
元通りに再生した道化は、嬉しそうに楽しそうに跳ね回り躍り狂う。
「これからですヨ! ゲームはまだまだ!
ロールプレイに遊びましょ!
しらないしらない楽しいゲームは
天より賜る久遠の夢!!!」
――辺りの空気に自由が満ちる。
コハクはすかさず手印を結び魔法少女を召喚しようとする。だが、なぜか幻影召喚が発動しない。
「それはダメダメ、ゲームに勝たなきゃ! 誰かを呼ぶのはその後で!!」
(技能の使用制限……。おそらくゲームとやらに勝つ度に、一定時間使用制限が解除される。それがヤツの技能の効果。……とはいえ、魔法少女を召喚したとしてヤツの不死性はどうしたものか……)
コハクの技能には〝一撃必殺〟がある。
文字通り、攻撃した対象を一定確率で絶命させる能力である。
だがそれが果たして不死身とやらの道化に通じるのか?
そもそも通じるとして、レベルが上の道化にはまず通らない。
(――となると、あの魔法少女の能力に賭けるしかないか……)
万一、魔法少女の力でも倒せなかった場合、弱体化したコハクでは道化を相手に立ち回ることは不可能。その時点で詰みである。
それは勝算と呼ぶにはあまりにも希薄であった。
しかし、コハクにはその魔法少女に賭けるしか方法はない。
「にゃはっ! にゃはははははっ!! さあさ次からはサイコロで! 遊ぶゲームは運次第!!」
道化が叫ぶと同時に、舞台の中央に巨大な六面のサイコロが出現する。
サイコロの面には〝ミリオンシェルゲーム〟〝ポーカーゲーム〟〝リングリング〟など様々な目が刻まれていた。
「祈りましょ、祈りましょ! 何が出るかは天次第!!!!」
大袈裟なドラムロールが鳴り響く。
それと共にサイコロは床にごろごろ転がってゆく。
そしてゆっくりと動きを止めた。
出た目は――
「おめでとう! お次は猛獣ショーのお時間です!! にゃははっ!!!!」
バンッ!
スポットライトがステージの中央を照らし出し、〝それ〟の姿を明らかにする。
〝猛獣〟の正体は――
「カリニャン……!?」
「にゃははははっ!!! 1分以内にこの猛獣を倒すか捕まえよう!! できなきゃ彼女はワタシのもの!」
虚ろな眼をしたカリニャンが、ゆっくりと動き出す。
「ぐるる……」
まるでケダモノのような低い唸り声を牙の合間から漏らす。
そして――
「があああぁぁぁぁっ!!!!」
一切の理性も自我すらもなく、コハクへと襲いかかった。
カリニャンの丸太のように太い腕が、鋭い爪を立ててコハクを叩きつけようとする。
コハクはそれを回避、叩きつけは舞台の床に大きなクレーターを作り出すに至った。
(どうしよう、傷つけずに無力化する方法が浮かばない)
避けられはする。
理性が無い故に、今のカリニャンの攻撃は単調で避けやすい。
……等と悠長に考えていると
「ぐあぁぁぁっ!!!!」
カリニャンの口から高密度のエネルギー弾が発射され、コハクの頬を掠め後方で大爆発を起こした。
(――魔法少女召喚ができたとして、カリニャンを傷つけず捕縛するのはムリだ)
「ウウウゥッ!!!」
カリニャンの拳がコハクを捉える。
コハクは薄明の盾を瞬時に召喚して構えるが……
バキッ!
「!?」
カリニャンのパワーは最強の盾をも貫き、そのままコハクを吹っ飛ばした。
「う、ぐ……」
鉄格子に叩きつけられた衝撃で動けなくなってしまったコハク。
そうこうしている内に、とうとう1分が過ぎてしまっていた。
「Congratulation!! You lose!!!!」
道化がパチンッと指を鳴らすと、カリニャンの体にどこからか無数の糸が絡み付いた。
「カリニャンっ……」
そして糸はそのままカリニャンの全身を繭のように包み込む。
それからカリニャンは縮んで縮んで縮んでゆき、白い虎の小さなぬいぐるみと化していたのであった。
「か、返せ!!」
「やーだよっ! この子はもうワタシのものサ! にゃははははっ!!!」
カリニャン人形を愛しげに抱きしめ、道化は相も変わらず躍り狂う。
このままではコハクは負ける。そうなればカリニャンも助けられない。
その時だった。
「にゃははははっ!!! にゃは……あぁ……」
笑いおどける道化が突然、頭を抱えて唸りだした。
「あたしは……あぁ、誰か、ここからあたしを出して……」
その小さな呟きが、コハクの耳に入ることはなかった。
「道化……次のゲームだ。さっさとサイコロを出せ……」
「にゃ? 楽しんでますねぇ?」
「うれしいですねぇ!」
「それじゃいきましょサイコロを!!!」
分身たちと共に道化はサイコロを呼び出した。
そしてサイコロはごろごろ転がり、停止する。
――ポーカーゲーム
サイコロが出した目は、それだった。




