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第44話 ヒスイはネカママ

「ぶははははははっ!!!? これは傑作じゃ……!! まさかヒスイ、お主が……ぶひゃひゃひゃひゃっ!!!」


「わ、笑いすぎだろ!!」


 腹を抱え、もう降参とばかりにヒスイの肩を叩きながら爆笑するアイリス。


 何故こうも笑っているかというと――




「ママぁ、このちとだぁれ?」


 ヒスイの肩に乗る半鳥半人の少女――孵化したての朱雀の雛である。


「ママには救えぬものじゃよ……」


 その朱雀の幼鳥に、ヒスイはうっかり刷り込んでしまい母親だと思われているのであった。


「どしたのヒスイ?」


「なんだか楽しそうですね、混ぜてください!」


「おお、コハクにカリニャンや。実はのう……」


 アイリスは二人にヒスイが〝ママ〟になったことを説明する。





「くふふっ……それマジ? いやごめん……さすがに笑うわこれは」



「コハクまでひでえぞ!!?」



「ヒスイさんなら素敵なお母さんになれますよ!」



「ママちゅてきー!! ぴぃぴぃ!」


 当の元凶がヒスイの肩の上でカリニャンの言葉を肯定する。




 ―――


 神獣:朱雀


 名前:未登録


 Lv:1(200)


 ―――




「しかし朱雀のやつめ、死の間際に己の全てをタマゴに移したようじゃな。それで一時的に珠となっておった訳か」


 ぶつぶつと考察するアイリスを横目に、コハクとカリニャンのイジりはそれこら少し続けられた。



「ところでアイリスさん。この子、何食べるんでしょうか? おさかな?」


「む? それは決まっておろう、魔力じゃよ。母親たるヒスイの魔力を吸わせるのじゃ。授乳のようなもんじゃな」


「ジュニュっ……!?」


 授乳というワードに愕然とするヒスイママ。

 この少女の姿はアバターであり、実際のヒスイは男なのだが……。


「おなかちゅいた……」


 しかし朱雀の幼鳥には愛着が芽生えだしてきていた。


 ネカママヒスイは、覚悟を決める。


「く、クソっ、セクシャルガードのせいで脱げねぇっ!!」


 全力でママを遂行すべく、ヒスイは服を脱ごうとする。

 混乱のあまり『授乳』という言葉を鵜呑みにしてしまったのだ。


「なーにやっとるんじゃ。魔力を与えるなど指先を吸わせるくらいで十分じゃぞ?」


「えっ、そうなのか?」


「そうじゃぞ? 今さっきのお主、まるで痴女じゃったな」


 顔を真っ赤に染めて、ヒスイはすっかりうつむいてしまった。

 しかし朱雀ちゃんを育てると決めた以上、このまま落ち込んでいる暇はない。


「おいちい!!」


 ちゅうちゅうとヒスイの小指をしゃぶって魔力を取り込んでゆく朱雀。


 必死に小指に吸い付くその様は、ヒスイの中の母性を一層強めてゆく。


「よちよちすーちゃん……」


「すーちゃん?」


「ああ、この子の名前は〝すー〟だ!」


「安直過ぎやしないかのう……?」


 そのまんまの命名にやや呆けるアイリス。しかし


「あたちはすー! すーちゃんなの!」


「本人が納得してるならそれでいいかのう……」


「すーちゃんはかわいいねぇ」


「ママもちゅてきなのー! おーきくなったらママとつがいになるー!!」


 未熟な翼をぱたぱたするすーちゃん。


 この相思相愛な親子を前に、なんだかもうツっこむのをやめたくなってきた。



「お姉さまも可愛いですよー?」


「えへへ、カリニャンだって可愛いよー?」


 こっちはこっちでバカップル。

 どこもかしこも姦しくなってくる周囲にうんざりするアイリスなのであった。








 *






「ママちゅきーっ!」


「ママもすーちゃん大好きだよー!!!」


 それからヒスイは、すっかりすーちゃんにデレデレになった。


 親馬鹿とも言う。


 ログアウト時には体を残してすーちゃんと一緒に寝るようになったし、暇さえあればすーちゃんとべったりしている。


 すーちゃんは今のところ魔力さえあげれば食事は必要ないのだが、ヒスイは『そんなの味気ないじゃねーか!』と、果物や魚をあげたりしている。


 すーちゃんは最近木いちごに夢中だ。


「すーちゃんそんなに頬張っちゃって、リスみたいだね」


「あのね! あたちはやくおおきくなりたいの!」


「うんうん」


「それでね! ママのつがいになるのー!!」


「そっかそっか、楽しみだなぁ」


 嬉しそうに将来の夢を語るすーちゃん。

 するとすーちゃんはおもむろに自分の翼に顔を近づけて――


 ぷちんっ




「あのねママ! これあげるの!!」


 すーちゃんは自らの真っ赤な風切り羽を口で抜くと、ヒスイに渡した。


「これは?」


「やくそく! あたちとつがいになるまで持っててほちいの!!」


「そっか、そっか! じゃあその時まで大事に持っておくね!」


 ヒスイは小さな羽を大事そうに胸ポケットにしまう。


 それからすーちゃんをなでなでしながら、ヒスイは今日も青龍に〝破邪(デスペル)〟を施してゆく。


 その隣には分身のアイリスが呆れ顔で立っていた。


「あのいちゃつき具合、どうにかならんものかのう」


『どう、にも……なるまい』


 アイリスの独り言に、青龍が言語で反応する。



 ここ数日で青龍は、言葉を取り戻しつつあった。


 まだ人の姿とはなれないものの、ある程度の会話が成り立つ程度には理性と自我を取り戻していた。


「しかしまあ、このまま新たな朱雀が育ち神格を取り戻せれば……」



 全てが順調である。




 玄武、白虎、青龍、朱雀




 旧き支配者たる神獣4体が、まもなく集結する。



 全てが順調である。







 全てが順調――







 そう、思われていた。















「ママおきてーっ! ねえ、ママーっ!!」




 なんということもない、普通の朝だった。


「ママぁ、ママあぁ!!!」


 小さな朱雀の泣き声が、魔境の屋敷に響き渡る。


 すーちゃんのためにログアウト時に残すようになったヒスイの身体(アバター)


 幼い朱雀は、ただただその脱け殻にしがみつき縋るしかない。









 ――ある日を境に、ヒスイが目を覚まさなくなった。





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― 新着の感想 ―
[一言]お願いしますほのぼのオンリーのこういう作品を作ってください心があがががががががががg
[良い点] どうせアイツが来るんだろうと思ってたよ!  それか新しい敵が襲来するお思ってたよ!!  まさかそっちに行くとは思わないじゃん!!!  心構えを通り抜けて回避不可鬱が来たよもう!!!!! …
[一言] 今思い出したけどコハクが殺された時に母がカルトにハマってたから、ヴァル某がリアルの方で邪魔なプレイヤーを始末させてるのかね。
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