第37話 煌めけ闇よ
更新滞ってしまい申し訳ない……
「おはようございます、カリニャン様」
「え、誰ですか?」
居眠りから目を覚ますと、前の座席に座っていた初老の男性に馴れ馴れしく声をかけられた。
「失礼。わたくし、反使徒のサンムと申します。以後、お見知りおきを」
「は、はぁ。アンチプレイヤー……?」
「んむ……どうしたのカリニャン?」
遅れてコハクも目を覚ました。
「我々反使徒は、この世界を破壊し暴虐の限りを尽くす侵略者どもに対抗する組織なのですよ!」
「……その組織が僕たちに何の用?」
「お二人に――特にカリニャンさんに、力を貸していただきたいのです」
「組織の目的は?」
「プレイヤーの一掃にございます」
「なぜ特にカリニャンなの?」
「カリニャン様はプレイヤーに故郷を滅ぼされた経歴をお持ちと聞きまして、恨みがあるのではと」
何故カリニャンの過去を知っているのか。胡散臭いことこの上ない。
コハクもカリニャンもサンムへの警戒心を解くことなく、身構えながらも話を聞く。
「……あの、プレイヤーを一掃するって具体的にどうするんですか?」
「それはですね。……この世界でも特に強き同志たちに次元上昇を施し、上位世界に存在するプレイヤーの本体どもを皆殺しにすることですな。あちらの世界を滅ぼすと言い換えてもよろしいかと」
「……は?」
あまりにも突拍子のない話に、コハクもカリニャンも思わず言葉を失った。
――プレイヤーの住む世界を……つまり、地球を滅ぼす。
そんなことが可能なのだろうか。いや、可能だとしてもコハクやカリニャンにそれを賛成する理由はない。
「……私もプレイヤーに恨みが無い訳ではありません。
でも、プレイヤー全員が悪い人じゃないんです。私を酷くする人もいれば、私を助けてくれた良い人もいました」
「……そういうことだよ。プレイヤーがこちらの世界に来れなくするなら協力できないこともないけど、向こうの世界で皆殺しにするのは無理だね」
「そうですか、……残念です。お気持ちに変わりがあれば、我々はいつでも歓迎いたします」
サンムは残念そうに項垂れると、そのままあっさりと引き下がった。
とはいえすぐ前の座席に座っているので、目的地までは気まずいまま過ごす事になりそうだったが。
*
国境での手続きをさくっと済ませ、隣国までやってきた。
そして国境からさらに数日かけ、ついにブゲナ山脈へ到着した。
山脈とは言うものの、岩山が真円形に盆地を取り囲んでおり、明らかに自然にできたものではないことが遠目からもわかる。
辺りには建造物はほとんど無く、ここが人の住む事のできる場所でない事は明らかであろう。
「あそこに玄武さんがいるんですね」
「説得に応じてくれるといいけれど……」
――神獣玄武
嘗てこの世界を統べた旧き神であるアイリスの眷族神であり、その力の一部を宿した存在の一体。
玄武をこちらへ引き入れる事がアイリスを完全復活させるために必要なのだが、長い時の中で自我を失っている可能性があるのだという。
「自我を失っているような最悪の場合は――」
その時だった。
大地が裂け、武者震いするかのように激しく揺れだしたのは。
「地震ですか!?」
「いや、これは……」
――大地が、生きているかのようにせり上がってきている。
最悪――もしも会話が成り立たず、見境無く襲いかかってくる様子ならば、カリニャンとコハクで倒してしまう事も視野に入れなくてはいけない。
「うっそでしょ……?」
天高くに浮かぶ雲がみるみる内に近づいてゆく。
遠くの景色が揺らいで見える。
玄武――
その全貌が、ついに明らかとなった。
「いやいやいや……デカ過ぎるでしょ」
単純な面積にするならば、300ヘクタールは下らないだろう。
コハクとカリニャンの立つ大地が、この山脈そのものが、途方もなく巨大な亀の背の上にあったのだった。
背に街がまるごと収まるほどの超巨大な亀。
それが、破戒の要塞亀――玄武の姿であった。
「こんなの……どうやったら話ができるんですか? というか戦いになるんでしょうか……?」
「単純なレベルならカリニャンより下みたいだね。一応は僕たちと同格……って事になるのなら、何かしら対等に戦える条件があるはず……」
「その前にまずはお話してみないとですね!!」
カリニャンとコハクは、その甲の上に広がる広大な地を駆けて玄武の頭部へと移動する。
その巨体と比べると比較的小ぶりな頭だが、それでも巨大な事に変わりはない。
「もしもーし玄武さーん! きこえてますかー!!?」
カリニャンが大声で玄武の耳とおぼしき鱗の継目に叫ぶ。
すると……
『ゴオォォォォ……』
轟音のような鳴き声を発しながら玄武は思い切り頭を振るう。
「うわっ!?」
明らかにコハクとカリニャンを嫌がって振い落そうとする動きだった。
そして吹っ飛ばされたコハクとカリニャンへ向けて、まるで蛇のように開いた口を向け……
「ま、まずいですよお姉さま!!」
「自我とか無さそうだし、倒しちゃっても問題なさそうだね!」
「うわあああ!」
玄武の顎の狭間から、真っ白な極太の光線が放たれる。
太さ400mはあろうかというビームは、凪ぎ払った射線上の大地を消し飛ばし抉っていった。
二人は間一髪それを回避して、再び玄武へと接近を試みる。
――討伐。
神獣はたとえ倒されようとも、存在の核とも呼べる部分があればアイリスの力で復活可能なのだという。
ランリバーが出した朱雀の珠は、それに該当するものだったそうだ。
なので二人は、玄武の説得から討伐へと目的を切り替える。
「いっけえ!!」
カリニャンの氷と雷を纏った拳が、玄武の巨大な頭に直撃した。
その大きさと比べるとカリニャンさえ遥かに小さな虫のようであるが、この攻撃は僅かながら玄武に通用している。
「効いてる……!」
玄武が一瞬ではあるが、カリニャンの攻撃で怯んだのだ。
あれほど巨大な体躯にダメージを与えられるカリニャンもまた、玄武と同格の神獣と呼ぶ他ないだろう。
だが玄武は、神獣たちのなかでも途方もなくタフである。カリニャン一人では倒す事は難しいだろう。
一方のコハクはというと。
(僕単体では玄武にダメージを与えるには出力が足りない。かといって範囲攻撃を行う玄武に対して〝魔法少女〟系に頼るのは、弱体化によるデメリットが大きすぎる。ここは――)
幻影召喚による完全召喚。
ただし、今回出すのは前回のような【魔法少女】ではない。
彼女は魔法少女たちに比べると能力もレベルも劣る。
だが、完全召喚によるデメリットを帳消しにできる唯一のカードである。
「〝煌めけ闇よ〟――」
両手を重ね合わせ、表す手印は『翼』。
大いなる夜空を自由に羽ばたく蝙蝠の翼。
呼び出すは、異界の偉大なる吸血鬼の帝王。
「おいで――
――【奈落の灰被姫】」
影魔ちゃん読んでる人なら、今回誰を呼び出したのかわかるかもしれませんね。
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