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第33話 この世界の真実

修正。サブタイトルにある話数をずらしました。内容に変化はありません。

 コハクとヒスイがアイリスと会ったのは2年前のことだ。

 偶然発見したダンジョンを何日もかけて攻略し、ボスの待ち構える最奥へと到達した。


 そこにいたのがアイリスである。


 そのまま両者は戦いに……はならず、ヒスイの持ち込んだ道具や料理に感銘を受けすっかり気に入ってしまったのだ。




 しかしそれ以降、2人がここへ来たことはない。


 まず、現在の転移アイテムを当時は所持していなかったこと。

 ヒスイが受験勉強などで忙しく、いくらコハクといえど単身で巨大樹を攻略することは不可能だったからだ。


 それ故、2人は2年もの間アイリスを待たせてしまうのであった。





「……何を申し訳なさそうにしておるんじゃ? 2年なぞほんのちょっとじゃろうに? それよりヒスイや。当然、土産はあるんじゃろな?」


「もちろんですとも、アイリスさん。今回のお土産はこちらです」


「なんじゃこれは? 本かの……?」


「漫画という、巷で流行りの書物です」


 ヒスイが手渡したのは『ワン・ピースオブケイク』という、地球で数十年前に大流行した伝説の漫画の写しである。


 これは『貴族王に! 朕はなる!!』というツッコミどころ満載な主人公の台詞が代名詞の迷える名作だ。


 それをなんと恐ろしいことに、ゲーム内で10巻までそっくりそのまま再現した猛者たちがいるのだ。


 ちなみに全200巻だ。



「ふむふむ、斬新な書物じゃな……」



 そのまま読み耽るアイリス。



「ぶはははははっ!! なんじゃ、獣に喰われて無くなったと思うた左腕が実は袖の中に隠しておったから普通に無事じゃったじゃと! しかもその腕で目覚ましに虫拳(ジャンケン)始めおったぞ!? なんじゃこれ、馬鹿馬鹿しくも面白いのぅ……!」


「お気に召しました?」


「もちろんじゃ! 続きを読みたいのう!! よこせ!!!」


「いいですよ。ただし、条件があります」


 ヒスイは漫画を読んで気をよくしたアイリスに、そう切り出した。


「あー、さしずめ妾にこの世界が〝本物〟かどうかとか、カリニャンとコハクが平穏に生きるにはどうすればいいか聞きたい、もしくは協力してほしいのじゃろ?」


「うわぁ……こっわ、なんで分かるんだよ……」


「なんじゃ、分かったら嫌かのう?」


「いえ、話が早くて助かります!」


「よろしい。妾もここで自らを封じて数百年……。力も戻ってきたし、そろそろ反撃しなくてはと思っていたからの。全面的にお主たちに力を貸すつもりじゃ」


 首をコキリと鳴らし、無さそうで有る胸を張ってアイリスは三人を見据えた。


「して、妾の目的とお主たちの目的は同じじゃ。だから三人には、この世界の真実を知ってもらわないとならぬのう」


「真実……?」


「それ私が聞いてもいいことなんでしょうか?」


「むしろカリニャン、お主にこそ聞いてほしいことじゃ。だってお主、神の末裔じゃからな」


「えっ?」


「さて、では覚悟して聞くといい。この世界の〝真実〟をな――」










 *










 アイリスは嘗て、この世界に生きる者たちに恩恵をもたらす『龍神』であった。


 人の手に負えぬ災いが起これば鎮め、飢饉が起きれば恵みを与える、人々を慈しみ導く守護神のような存在であった。


 しかし、そんな守護神でさえ手に負えぬ存在が現れる。




「――ヤツは、自らを外来の神……〝蕃神〟と呼んでおった」




 外より訪れし神。


 それが、この世界を支配せんと現れたのだ。


 来訪神は自らの司る世界を広げるため、異界へと侵攻してきたのだという。


 アイリスは戦った。


 眷族である神獣たちと共に、蕃神と激しい戦いを繰り広げた。


 しかし奮闘虚しく、アイリスは来訪神に敗北。

 消滅寸前にまで追い詰められてしまった。


「そこで妾は自らを肉体と魂に別ち、消滅せぬよう別々に封印する事にしたのじゃよ。

 今ここでこうして話しておるのは魔力で造った人形に過ぎぬ。この場の妾は魂のみの存在なのじゃ」


「魔力で肉体を再現してるんですか!? そんなことできるんだ……」


「己の肉体の組成を擬似的に再現しておるんじゃ。応用すれば分身を生み出す事も可能じゃな。……っと、話が逸れたのう」


「なあアイリスさん? ひとつ聞いてもいいか?」


「なんじゃ?」


 一連の話を聞いていたはずのヒスイが、なぜか不思議な顔でアイリスに問う質問。それは――





「さっきからなんでずっと黙りこんでいる(・・・・・・)んだ?」


「ほう?」


 アイリスはヒスイの荒唐無稽な質問に興味津々だ。


「ヒスイ? アイリスさんはずっと話してたよ?」


「いや、ずっと黙ってただろ?」


「やはり、か……。ヒスイや、近う寄れ」


「ん? わかった」


 言われた通りヒスイはアイリスに近寄る。すると、眉間あたりにパチンッとデコピンをおみまいされた。


「いった!? 何すんだ!」


「妾は神である!」


「はぁ!? 神とかいきなり何言って……」


「成功じゃな。この世界の真理に触れる事に対する認識阻害がかけられておった。それを破壊してやったわ」


 ふう、とため息をついてアイリスは戸惑うヒスイに話しかける。


「世界の真理って……どういう事だよ?」


「ヤツにとってぷれいやぁに知られては都合が悪いんじゃろうな。……この世界が、〝本物(・・)〟である事はのう?」



 それからアイリスはヒスイに改めて、自身の事と過去に蕃神と戦った歴史を語った。

 今度はヒスイはちゃんと聞こえていたらしく、全部をすんなり理解していた。



「――とはいえヤツにとっても妾との戦いで負った傷は深かったのじゃろう。数年前までは干渉してこなかったみたいじゃな」


「数年前……?」


「しかし蕃神はここ数年、自らの世界の住人どもを兵力としてこちらへ大量に送り込み、この世界の侵略を始めたのじゃ」



 数年前――

 ヴォルヴァドスがリリースされてから、もう4年は経っている。






「――蕃神(ヤツ)の名は【ヴォルヴァドス】。

 もうわかるじゃろう? ヴォルヴァドスが送り込んだ者ども。それこそがお主たち、【侵略者(プレイヤー)】なのじゃよ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ほうほうほうほう!!!  侵略者とはそういうことか!!!  いやぁ世界の真実らしく、めちゃくちゃインパクトありますねぇ!! [気になる点] ん? ゲームそのものが蕃神なのなら、運営ってこと…
[一言] てことは現実の運営会社もつぶす必要があるのかあめんどうな
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