第28話 『星』の魔法少女
「〝護り抜いて――
――今度こそ〟」
その少女は、誰よりも強く成ろうとした。
誰も泣かないよう、もう誰も傷つかないよう。
己が誰よりも強く在ることで、世界を、愛する人たちの未来を護ろうとした。
最期まで、決して諦めずに。
それこそが
儚き命を尽くし、己を貫いた『星』の魔法少女――
「おいで――
――『薄明の聖騎士』」
夕暮れだろうか。
まだ昼間だったはずなのに、世界が逢魔時のように薄暗く妖しい帳に包まれてゆく。
そして薄明の夜空より、白く光輝く五つの五芒星が地に墜ちる。
星たちはある一点を中心に公転を始めると、やがてその中心に白く眩く輝く少女の肉体が形成された。
白く細い肢体には、純白の細かな装飾の施された――所謂ドレスアーマーを纏い、白髪の頭は白金のティアラで飾られていた。。
その背には星をあしらった大きな大きなマントがはためき、目元は仮面舞踏会で着けるような金色のマスクに包まれている。
片手には背の丈ほどはある金色の槍を携え、いかなる敵をもここより先には通さんとする確固たる意志があった。
それはその魔法少女が、誰かに護られつつも守りたくもあった矛盾から生じた姿。
そして薄明の聖騎士は、今度こそ全てを護ると誓って眼前に浮かぶ焔の大鳥に向き合った。
『キュエエェェェッ!!!!』
焔の大鳥――朱雀が、薄明の聖騎士に向けて業火の塊を吐き出した。
まるで隕石のような火球が薄明の聖騎士とその後ろのコハクたちへと迫り来る。
あんなものをまともに食らえば、カリニャンですら即死――
そんな巨大な火球に対し、薄明の聖騎士の周りを公転する金色の星の盾が塞がった。
キンッ――
大岩ほどはある巨大な火球と、それに対しあまりにも小さな盾がぶつかった。その次の瞬間――
火球が弾け、凄まじい轟音とともに大爆発を起こした。
ただしその爆発は指向性を持ち、薄明の聖騎士たちとは真逆の方向へと放射状に放たれていった。
屋敷は無事。
ただし、爆発に巻き込まれた森は見渡す限り真っ黒に焼け焦げ消失している。
朱雀の攻撃がいかに規格外の熱量と破壊力を持っていたかがその光景からは窺える。
そして、それを弾いた薄明の聖騎士の星の盾の強さも――
―――――
残り召喚可能時間 00:04:36
称号:『星』の魔法少女
名称:薄明の聖騎士・幻影体
Lv:450
―――――
――レベル450。
その数値は、この世界のほとんどの存在を圧倒できうる力。
5分という制限時間付きなものの、1度誰かしらを『召喚』してしまえば敵なしとなるであろう。
「凄いです……あれもお姉さまが――お姉さまっ!?」
「カリニャン……」
コハクはふらふらと立ち眩むと、そのままカリニャンの腰にもたれ掛かるようにして倒れ込んだ。
「完全召喚をすると……代償として一時的にレベルの9割と魔力を持っていかれるんだ……」
「大丈夫なんですかそれ?!」
「だいじょぶ、1日もすれば元通りだよ……」
現在のコハクのレベルは28にまで低下している。その上、魔力もすっからかんだ。
更に、今のコハクの肉体は『プレイヤーのアバター』ではない完全な生身となっている。
魔力切れとなれば、立っていることすらままならなくなるのは必然であった。
「だからカリニャン……ちょっと頭借りるね?」
「へっ?」
ぼふんっ、と白い煙をたててコハクの姿が消えた。
突然の事に戸惑うカリニャンだったが、すぐにコハクの居場所は判明する。
「ここだよ、ここ」
「あ、お、お姉さまが頭の上に?!」
大きさは成人男性の拳大ほど。
カリニャンの頭の上に、ちょこんと銀色のコウモリが座っていた。
カリニャンの巨体からすると、一口にも満たない小さな小さなサイズである。
吸血鬼の固有スキル、〝蝙蝠化〟である。
人の姿よりもこっちの姿の方が今は消耗が少なく済む。なにより楽なのだ。
「こ、こ、コウモリのお姉さまも可愛い~~~!!!!!」
「うりゅ、ちょ、やめっ」
掴んで降ろして、ほっぺをつんつんしたり頬擦りしたりと、カリニャンは可愛いコハクに夢中になっていた。
二人だけの世界を作り出している横でも、朱雀と薄明の聖騎士は空で戦いを続けている。
――――
名称:朱雀之御霊
Lv:301
――――
朱雀のレベルが上がっている――
コハクがそれに気づいたのは、薄明の聖騎士を呼び出してから3分ほどが経過した時の事だった。
考えられるのは、魔境の濃密な魔力を吸って成長している事だろうか。
朱雀の攻撃はより苛烈さを増してゆき、薄明の聖騎士が守っている範囲外は全てが焦土と化していた。
「こ、コハクさん。ずっと防御しかしてませんが、このままでいいんでしょうか?」
ジンの疑問はもっともだ。
薄明の聖騎士は防御特化の魔法少女。『守る』事に関しては魔法少女たちの中でも最も秀でているだろう。
しかし、攻撃面ではやや難がある。
けれどもコハクは
「大丈夫」
と、問題ないとした。
薄明の聖騎士は、攻撃を防げば防ぐほどに守りが堅牢になってゆく特性がある。
彼女を公転する星の盾はより大きく、そして数を増やしてゆき、そして薄明の聖騎士自身の内包する光もより強くなってゆく。
「そろそろかな。ジンくん、カリニャンにバフをかけてくれる?」
「え、はいっ!!」
「何かするんですねお姉さま! 任せてください!!!」
ジンの光の魔法がカリニャンを包み込む。
ゲームシステム的に言うならば、20秒間被ダメージ10%カット、与ダメージ15%アップの効果がある魔法だ。
それを受けたカリニャンに、コハクは指示を出す。
「全力で朱雀に攻撃をぶちかまして。一瞬の隙を作れればそれでいい」
「わかりましたお姉さまっ!!!」
そしてカリニャンは、むんずとコハクを掴み
「えっ?」
そして、もっふもふな自身の胸の谷間に突っ込んだのであった。
カリニャンはそれから全身より魔力を放出、氷の魔法で『それ』を構築してゆく。
ヒスイが持ち込んだ武器に、コハクの書斎にあった知識。
それらを組み合わせ、カリニャンは『それ』を完成させた。
「いきますっ!」
カリニャンが雷と氷の魔法で作り出したのは、超巨大な白い弩弓――。
氷で本体を作り、弦の部分は稲妻。
そして射出される『矢』は、カリニャンが現在持つ魔力の半分以上を圧縮した氷の弾。
「凍獄弓弾!!」
今のカリニャンの力では、朱雀を仕留める事はできないだろう。
しかし、ほんの一瞬でも怯ませられたなら――
「いっけええっ!!」
空気がひび割れるかのような凄まじい衝撃が迸る。
とてつもない反動がカリニャンにかかるが、その頑強な肉体は完全にそれを耐えて見せた。
そして放たれた『矢』は、音速を遥かに超す速度で朱雀の身体に炸裂。そして熱と冷却のエネルギーがぶつかり合い、朱雀の身体が大きく弾け
『い、タイ……』
朱雀の腹部から尾部にかけてが、まるごと消失していた。
朱雀に肉体はない。
あくまで流動する魔力に形を持たせているだけなのだ。
すぐにでも失った部位は再生してまた元通りに暴れだすだろう。
しかし、薄明の聖騎士はその隙を見逃さない。
耐え忍びその身に集めた『星』の力を、今こそ解き放つ――!!
『ギッ……?!』
隙を見せた朱雀の身体に、無数の金色の星々がまとわりつき互いに光の鎖で繋がり縛り上げる。
星の鎖は肉体を持たぬ精神生命体の動きすら止める力を持つのだ。
そして薄明の聖騎士の反撃はまだ始まったばかり。
周りを公転する無数の星々が、彼女の持つ金色の槍へと吸い込まれるように集まってゆく。
星屑の濁流は槍の一点へと集まると、槍の形をした光の塊と化した。
薄明の聖騎士はそれを朱雀へと向ける。
――〝星の怒り〟!!
瞬間、天空は光の奔流に飲み込まれた。
薄明の聖騎士が槍を介して全ての星を解き放ったのだ。
光の河が天へと立ち昇るその光景は、さながら巨龍のようでもあった。
もしもこれが空ではなく地上へ向けられていたならば。
都市や小さな国ひとつ消えていてもおかしくないだろう。
朱雀はそんな星の怒りに飲み込まれ、跡形もなく消滅したのであった。
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