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第27話 切り札

 ――あり得ない、とまずは思った。


 けれど次の瞬間には、カリニャンの頭の中は疑問も体の苦痛さえも忘れてしまうほどの喜びが洪水のように押し寄せていた。


「お、お姉さまっ……! お姉さまなんですね?!」


「落ち着いてカリニャン。今傷を癒すから」


 コハクの手のひらの中に、光る百合の花が現れる。


 それに触れたカリニャンの身体は、たちまちすべての傷がふさがり全快に近い状態にまで回復した。


「あぁ! おい、せっかく削ったのになんてことしてくれんだよてめえ!! 横取りしやがって!!」


「この子は僕の従者(メイド)だ。人の大事なものに手を出してきたのはそっちだろ?」


「んだよ……んん? そういやお前。一年以上前に街で見かけた吸血陽姫(デイウォーカー)じゃねえか。ほうほう……」


 じっとりとした眼でコハクを〝視る〟ランリバー。


 コハクのステータスを確認しているのだ。


「変だな、前に見たときゃプレイヤーの表記があったはずだが……? まあいい、お前がNPCだってんなら心置きなくぶち殺せるぜ!!! やっちまえお前ら!!」


「!!」


「し、師匠……この数は……」


 増援だろうか。更にたくさんのプレイヤーが何処からか現れ、コハクたちを取り囲む。総勢20人はいるだろう。


 しかも全員もれなくレベル180以上の猛者揃いだ。


「大丈夫です、お姉さまはすっごく強いんですから!」


「背中は任せるよ、カリニャン」


「はい! お姉さまっ!! ジンくんは後方から〝光魔法〟で援護をおねがいしますね!」


「わ、わかった師匠!!」


 ひとたびコハクが刀を振るえば、一瞬で三人ものプレイヤーが光となって消えて行く。


 一撃離脱や防御など許さない。


 瞬きする間に一人、また一人と切り裂いてゆく。


 それは必殺の太刀捌きであった。


 一方のカリニャンは、先程とは違って一人ずつ確実に仕留めてゆく。

 一撃離脱はさせない。掴んで、そのまま握りつぶす。


 そしてジンは、後方から二人に光魔法によるバフと援護射撃を行っていた。


「凄いねカリニャン。僕が寝てる間にこんなに強くなったなんてびっくりだよ」


「いえいえ、まだお姉さまには敵いませんよ」


「はは、けどその調子ならもうすぐ強さでは追い抜かれそうだよ。それにジンくんだっけ? 君もよく頑張ったね。ありがとう」


「へあっ、え、し、師匠の師匠にお褒めにあずかり光栄にございますっ!!?」


 顔を真っ赤にして隠しもせず照れまくるジン。

 そんな悠長にしているのも、この戦闘に余裕があるからだ。


 そして20人以上はいたプレイヤーたちは、あっさりとランリバーとカエデの二人だけになった。


「クックック……厳選したリスナーたちを退けるとは、やるではないか。……え? 魔王みたいだって? そりゃあ魔王プレイが俺のゲーム流儀だからなぁw」


「ランリバーくん、レイドボスたちが来るよ!」


 配信コメントを読み上げるランリバーに、警告を促すカエデ。


 形成は逆転し、3対2となった。


 しかしランリバーは、焦る様子も見せずにイケメンのアバターで残念な笑顔をへらへら浮かべている。


「しかしただでさえ強ぇレイドボスに、体力減らすと増えるギミックがあったなんてなぁ。泣かせる演出だぜ」


「ギミックでも演出でもないんですけど?」


「コハクと言ったかお前。お前、俺とタイマンしようぜ?」


 一方的に話続けるランリバーがそんな提案をしてきた。


 しかし、タイマンなどしてやる道理はない。


「集団でカリニャンを殺そうとしてきた癖に、追い詰められたらタイマン? 断るよ」


「チッ、言ってみただけだ。どうせ勝てやしねえしな。だがなぁ!! 俺にはまだ切り札があるんだよ!!」


「まさかランリバーくん、本気でアレをやる気なの!?」


「本気だ。ここでこそ使わなきゃいつ使うんだっつーの!」


 何かとんでもないことをしようとしてきている。

 コハクは警戒しつつ、その〝切り札〟とやらを探る。


「やるならさっさとしてくんない? 切り札って何?」


「クックック……これだ。これが何か解るか?」


 ランリバーが取り出したのは、炎のように真っ赤な宝珠。

 その内側には実際に炎のような光の揺らぎが見える。


「これはな、レイドボス【焔天の極楽鳥】の討伐報酬、〝朱雀の禍珠〟だ。こいつは一度解放すれば、使用者含めて魔力が尽きるまで周りの全てを焼き尽くすシロモノだ。これを今から解放してやる」


「っ……!」


 禍珠を見たコハクは、唖然とする。




 ―――――


 朱雀の禍珠


 Lv268


 ―――――




 アイテムにレベル表記が出る――

 それはつまり、そのアイテムが『生きている』ということ。


 そして何より『レベル268』という数値が暴走すれば、この屋敷に甚大な被害が出るだろう。


「カエデぇ!! ログアウトするぞ!!」


「えっ?! わ、わかったわぁ!!!」


「お前らが焼け死ぬ所を見られねえのは残念だがなぁ! せいぜい頑張れよ!!!」


 そしてランリバーは禍珠を投げると、そのままふっと姿を消してしまった。

 カエデも同様だ。


 巻き込まれないために逃げたのである。


「チッ……」


 舌打ちをするコハク。


 投げられ宙を舞う珠が突然強く真っ赤に発光し、炎を纏う。

 炎はどんどんと大きくなってゆき、巨大な鳥の形となっていた。


 まだまだ大きくなってゆくのに、既に熱さで肌がじりじりと焼けてしまいそうだ。


「凍りつけっ!!」


 カリニャンが氷結魔法を炎の鳥にぶつけてみるも、すぐに水となって蒸発してしまう。

 全く勢いが衰える気配はない。

 焼け石に水だ。


 カリニャンが本気で攻撃すれば止まるだろうか。

 けれど、止まる前に甚大な被害が起きる事は間違いない。


「ど、どうするんだよ師匠……」


「どうしましょうお姉さま?」


 縋る二人にコハクは軽くため息をつくと、微笑んだ。


「あれがランリバーたちの切り札というなら、こっちも切り札を使うまでだよ」


「切り札、ですか?」


「うん。カリニャンにも見せたことはなかったけど――」













 *













 幻影召喚(アブセントサモン)


 それは、他の世界に存在する『誰か』の力を降ろして使う力。


 コハクが扱う刀や銃は、つまるところ誰かの力の一部を借りているのである。



 では、『一部』ではなく『全て』を召喚したらどうなるのか。





「これ使った後の僕はしばらく弱体化する。後は任せるよカリニャン」


「はいっ! お姉さま!!」



 そしてコハクは、召喚に必要な手印を結ぶ。


 それは両手の指を胸の前で交差させ、十字を結ぶ形だ。



 呼び出すは、〝護る〟ことに特化した力を持つ心優しき少女。





「『護り抜いて――


    ――今度こそ』」




 その詠唱は、これから呼び出される少女の生き様と遺した願望。


 そして少女を降臨させる(いみな)は――





「おいで――


 ――『薄明の聖騎士(アルバ)』」




星評価おなしゃす!

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― 新着の感想 ―
だれか忘れてしまった
[良い点] 安心感がパない……  あのクソが害虫のように叫んでも、ただお姉様が居るっていう安心感が強すぎる  そして能力がカッコイイ……  アルバって響きもカッコイイ…… [気になる点] お姉様はプ…
[良い点] 薄明の騎士! ……これはあちらの世界も復習しとかないとですね♪
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