表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/94

第22話 まさかこの世界は

「わ、わかった!! 今からジンをパーティから外す!!」


「本当ですね? 嘘ついてたらすぐにわかりますからね?」


 冷酷に、冷たい獣の眼で睨み付ける白虎(カリニャン)


 20回ほどだろうか。

 カリニャンがライキを屠った回数は。


 何度も何度も殺され続けるという状況に耐えられなくなり、ライキはついにカリニャンの要求を飲むことにした。


「ほら、はやく契約破棄してくださいよ?」


「は、破棄したぞ! たった今!!」


 その言葉が事実か否か。


 魔境の屋敷で待機しているメノウとヒスイに、魔道具による念話で確認する。


「……事実みたいですね」


「あ、当たり前だ! わかったらさっさと解放しろ!!」


「ずいぶんと態度が大きいんですね。まあもうどうでもいいですが」


 カリニャンはライキの頭部から手を離した。もう殺すつもりも意味もない。


「クソ……なんでたかがNPCを使ってからかっただけでこんな目に……。NPCなんかいくらでも替えが――」


「あなた、まだ勘違いしてますね」


「は? 何をだよ?」


NPC(わたしたち)はこの世界で生きています。痛みだって感じるし、撫でられたら嬉しいです。みんなみんな、掛け替えのないそれぞれ一人の『人間』なんですよ」


「はっ。ほんとよくできた人工知能だ、こんな生意気な説教まで垂れるとは。

 しかしどんなに本物ぶってもお前らは偽物でしかない! NPCが本物の人間様に逆らってんじゃねえぞ!!」


「……話せば分かり合えると思ってた私が馬鹿でした」


 それは、カリニャンの心の内にあった、僅かな良心。

 悪いプレイヤーも、きっとどこかに良心があるのだと。改心する余地があるのだと、そう思っていた。


 けど、たとえ改心の余地があろうと、もはやカリニャンの良心は潰えた。


「もういいです」


「はっ! わかったんなら俺にかけたこの呪いとやらを――」



 ドチャッ


 カリニャンは、明確な殺意(・・)をもってライキの身体を両手で蚊のように叩き潰した。


「どうせ何度殺しても蘇ってくるんでしょうけど」


 殺したくても殺しきれない。プレイヤーは死なない。殺せない。


 半ば諦めつつも、カリニャンは突発的な殺意の衝動を発散した。


 どうせ数秒後にはまたベッドの上で復活するだろう。




 ――しかし




「あれ……?」


 それからライキは、どれだけ時間が経とうとベッドの上にリスポーンすることはなかった。









 *







「う……あ? どこだここ? なんでベッドの上にリスポーンしない……?」


 ライキが復活したのは、どこかの森の中。


 何らかのバグか何かだろうか。

 そう思いつつ、ライキは自身のステータスを開く。




 ――


 名前:ライキ


 Lv:1


 状態:蕃神の呪い


 ――



 何度死んでもこの蕃神の呪いとやらは消えない。それなりにヴォルヴァドスをやりこんでるライキの記憶には、こんな永続デバフは存在しない。


「なんなんだよこれ……ここどこだよ?」




 ――


【蕃神の呪い】


 悔いろ。

 苦しめ。

 許さない。

 よくもあの子の安寧を奪ったな。


 赦しを請うといい。

 私が地獄に導いてやろう。


 ――



「は?」


 そのデバフのフレーバーテキストには、明確な何らかの〝意思〟と強い怒りが込められていた。


 あの子とやらは、おそらくはレイドボスの事だろう。


 この〝呪い〟の効果なのか、ライキは様々なあらゆるデバフにかかっていた。


 猛毒、衰弱、麻痺、技能使用不可……


 それはいい。






 ――ログアウトができない。







 そんなデバフがあってたまるか。


 だが、ウィンドウの端にある『ログアウトする』のコマンドを選択しても――






『逃げるな (つぐな)え』






 とだけ表示され、ログアウトできないのだ。


「か、帰りたい……」


 そう独りぼっちで呟いても、この森にはライキの他に人間などいない。


 だが、言葉を話す存在はたくさん生息(・・)している。




「い、いれ……」


「なんだ……?」


 声がした。

 誰か他のプレイヤーが近くにいるのかもしれない。


「お、おーい! 誰か! 助けてくれぇ!!」


 ライキは叫んだ。

 そして、向こうはライキの存在に気づいてしまったようだ。




「い、いいぃぃ、いれてあげる」




 木陰からライキを覗くそれは、人ではなかった。


 大量の枯れ葉が集まって人のような形を模した、魔物。



 ヒダルガミだった。


「うあ、くっ、来るな来るな来るなああああぁぁ!!!」


 それも、一体ではない。

 木陰から、たくさんたくさん、何十人もの枯れ葉の人形がゆっくりとライキへと歩み寄って手を伸ばす。






「あ、な、い……、なかまに、いれてあげる」












 ――





 ライキのリスポーン地点は不自然な事に、ヒスイやコハクすら訪れた事のない〝魔境〟の最奥に設定されていた。


 何度死んでも殺されても、すぐにその場で生き返り、また殺される。


 レベル1という状態な上で、麻痺に衰弱のデバフ。


 誰も助けることはできず、逃げることすらできず、ライキはそれから2週間ヒダルガミや強力な魔獣に食い殺され続けた。




「かひゅーっ……かひゅー……」




 もはや思考すら手放そうにも、なぜか頭が冴えて逃避すらできない。


 ――NPCだからって、玩具のように扱うんじゃなかった。


 この状況は、明らかに異常だった。

 明確にライキ本人をを苦しめ、〝本当に〟殺しにかかってきている。


 現実世界でのライキの肉体は、極度の脱水と栄養失調で瀕死となっていた。



(まさか、この世界はゲームなんかじゃ――)



 それからまもなく。ライキは誰にも看取られず、苦しみの中で息を引き取った。
















 福嶌(ふくしま) 頼久(らいき)


 享年 36歳







 ご冥福をお祈りいたします。







 あはは! あっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ご冥福をお祈りしますでゾワッときました  怖い……あれホラー小説読んでたっけ怖い……  憎悪とか怨みとかそんな熱いものじゃなくて、ただ呪う  永久に苦しめる  もはや義務のような無機質さ…
[一言] 某反転少女の作品で見たような狂気…あの作品好きですか? 肉体が残っていることが何かしらのフラグになってそう。あるいはレイドボスのギミックとして見られるか、後者はやだな。
[良い点] 想像の、斜め上へと向かって面白さが突き抜けつつある気がしますね……ゾクゾクしました♪ [一言] 今後の展開にも期待です!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ