第21話 リスキル祭り
「やっだぁん、ライキさんったらえっち~♡」
身体をくねらせ、艶かしいリアクションを取って目の前の男を誘惑する、青い髪の少女。
言わずもがな、ヒスイである。
「ふへへ、次はどこ触っちゃおうかなぁ? どーこーにしよーぉーかーなー?」
何故かヒスイは、ライキという男のプレイヤー相手にネカマプレイをかましていた。
このライキという優男、先日までメノウが所属していたパーティのリーダーである。つまり、ジンを縛る悪質なプレイヤーだ。
ヒスイはメノウから得た情報を駆使し、ライキに取り入っていた。
*
2日前。
問題は山ほどあった。
魔境に格別強いレイドボスが住む屋敷がある――と、上位のプレイヤーたちにバレてしまった事もそうだ。
これからここにはカリニャン目当てに多くのプレイヤーたちが攻めてくるだろう。
それも、魔境でも程度通用するような強いプレイヤーたちが。
「それでもまずは……ジンくんをどうにかしないとですね」
「ああ。それに関しては策はないことはない。カリニャンちゃんの力も借りる事になりそうだ」
ヒスイは既にメノウから、リーダー……〝ライキ〟というプレイヤーのリスポーン地点を把握した。
作戦の大まかな概要は、ジンをライキから引き離すこと。
命令が聞こえない場所まで離せれば、後は脅すなりなんなりして隷属契約を破棄させる。
ヒスイはゲーム内で一大商会を営む【大商人】だ。そのため、貴重なアイテムや素材など作戦に必要なものはすぐ手に入る。
例えば、装備している間ステータス表記を改竄するブローチ。
例えば、姿を見えなくするアイテム。
それらのアイテムを用いて、ヒスイはライキを嵌めてジンを奪う作戦を実行に移そうとしていた。
*
「さっすがライキ様~♪ すっごくお強いんですね!」
「そうだろう、そうだろう! 俺はこのゲーム中でも最上位層のプレイヤー! レベルは160もある!」
街から外の山奥で、レベル30ほどの魔物を倒したライキをサルのように褒め称えるヒスイ。
現在のヒスイはレベル15の駆け出しプレイヤーという設定であり、名前も『ひー』に改竄している。
(話には聞いてたが、クッソキモいなコイツ……)
ヒスイはメノウから聞いていたライキという男の話を反芻していた。
『――初めは優しい人だったんです。けれどだんだん、あたしの現実での年齢とか見た目とか住んでる場所とか、プライベートに関わろうとしてきて……。先日なんかは、恋人でもないのに秋葉原でデートしようって誘われて。
それからついこの間、あたしがジンくんと恋仲であることがついに発覚して……。それで〝浮気者が!〟って激怒されてパーティを追い出されました』
なんと身勝手な男だろうか。
なんと気色の悪い男だろうか。
だが、それはむしろ扱いやすいとも取れる。
実際、美少女アバターのヒスイがちょっとおだてただけで鼻の下を伸ばしてこれだ。
正直めちゃくちゃ気持ち悪いが、おかげでつつがなく作戦を実行できそうだ。
ひとまずはジンと引き離す事にも成功している。
あとは……〝合図〟を待つだけだ。
「――それでひーちゃん……。これから俺たちの愛の住処にする場所はどこがいいかな。あ、現実世界での話だよ? 海辺がいいかなぁ」
「キャッ! そんな、ライキさんったらぁ♡」
「照れなくてもいいんだよぉ? 俺と君の仲じゃないか?」
ついさっき会ったばかりなのに、なぜか結婚を前提とした妄想に浸るライキに付き合ってやるヒスイ。
『もしもしヒスイさん。準備、できました』
来た、合図。
これもまた貴重な魔道具で、持っている者たちと無線機のように遠くでも会話できるようになる代物だ。その上、他人に会話を聞かれることはない。
そしてその合図とは何か。
メノウがライキのリスポーン地点にいたジンを救出。そのまま屋敷へ転移し、ライキのリスポーン地点にはカリニャンが入れ替わりでスタンバイ――。
あとは、ヒスイがそれを実行するのみ。
「子供は三人はほしいなぁ……。俺なら毎晩飽きさせないよ? デュフフ……」
「もーライキさんったら……
ほんとキモ過ぎて死ねばいいのにって思いますね?」
「は?――」
ライキが振り返るよりも前に、ヒスイの光の剣はその頭を切り飛ばしていた。
そして体が倒れるよりも先に、全身は光の粒子となって消滅したのであった。
そもそもヒスイは、レベル230もある猛者プレイヤーである。
たかが160のライキでは、たとえ真正面からやりあっていても勝てはしない。
「あとは任せたぜ、カリニャンちゃん」
そう呟いて、ヒスイはお屋敷へと転移で帰還したのであった。
あとはカリニャン次第――
*
「クソ、クソおぉっ!!」
宿屋のベッドの上で目覚めたライキは、ヒスイにしてやられた事に激昂していた。ゲームオーバーになった事でレベルは半分の80ほどまで減少している。
――絶対に許さない。
復讐の2文字が脳裏に浮かんだ、その次の瞬間だった。
「絶対に許しません」
「は?」
リスポーンしたばかりのライキの頭を、背後に立っていたカリニャンが握り潰した。
そして数秒後、再びベッドの上でリスポーンするライキ。
「なっ、なんだお前!?」
「ジンくんの隷属契約を破棄してください」
「はぁ?! なんで――」
ぐしゃり。
カリニャンは躊躇せずライキの胴体をへし折った。
そして再びリスポーン――
「ジンくんの隷属契約を破棄してください」
「っ! は、【墓守の白獣姫】!? なんでここに――」
ぐしゃり。
「もう一度言います。ジンくんの隷属契約を破棄してください」
「く、そっ! ログアウトぉっ!! ……あ、あれ?」
レベル10というかつての強さの見る影もなくなったライキは、ログアウトして逃げようとする。
だがしかし。
――【蕃神の呪い】
それが、ログアウトと全技能の使用を不可能にしていた。
「ログアウトできない!? な、なんなんだよぉぉぉ!?」
ぐしゃり。
レベルは5にまで下がった。それでもライキは、カリニャンの言葉に耳を傾けない。
ぐしゃり。
ぐしゃり。
ぐしゃり。
何度も何度も死亡とリスポーンを繰り返され、ライキの精神は極限まですり減らされていた。
リスポーン地点に敵に居座られると無限に殺され続ける鬼畜ゲーあるある。
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