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第20話 安寧の終わり

ARKってゲームがめっちゃおもろい


2023:5/3 微修正 コハクが死んでからの時間を、1年から1年近くに変更しました。

「ふんふんふふふ~ん♪」


 花畑にお水をあげながら、鼻唄混じりに上機嫌なカリニャン。

 魔境という稀有な環境だからか、この場所では一年中花が咲き誇っている。


 それから日課の水やりを終えると、カリニャンはコハクの元へ行く。


 プレイヤーであるコハクの身体は、食事もいらず垢が出ることもない。常に清潔なのだ。


「お姉さま~っ……」


 大きなベッドに横たわる小さなコハクの身体をぎゅっと抱き締めて、カリニャンは思わず気が抜けて獣形態になってしまう。それでも構わず、コハクの匂いと温かさを堪能すると、カリニャンはぼんやりと想いを馳せる。




 ――もしも奇蹟が起きてお姉さまが目を覚ましたら、どうしましょうか。


 とっても嬉しいのはもちろん、こんなにも強くなった私をどう思ってくれるでしょうか。


 お姉さまはお母さんの愛に恵まれなかったそうです。


 だからそのぶん、私がいっぱいお姉さまを愛したい。

 もちろん今でも愛しているし、これからも愛が色褪せることはないと思います。



 何故って――お姉さまが目覚めなくなってからもうすぐ、1年も経つのですから。


 1年経ってなお、私の気持ちは変わらないどころか一層強くなるばかり。


 きっと私が寿命で死ぬまで、私の魂はお姉さまに囚われたままなのでしょう。


 いいえ、死んだあともきっと……。






 ――カリニャンの愛は、半ば狂気と化していた。


 いや、愛とは元来最も人を狂わせる狂気なのかもしれない。


 1年。カリニャンはここで1年、ほとんど一人で生きてきた。

 ヒスイは週に一回しか来れないし、時たま来れない週だってある。


 それでも尚カリニャンは、大好きなコハクへの濃く深い想いを募らせ生きて行く。


 けれども、世界は、運命は、カリニャンに安寧を許さない。



「……何でしょうか。今良いところでしたのに」



 誰かが来た。


 魔獣ではない、プレイヤー独特の気配。

 メノウが来た訳でもなさそうだ。


 気配から察するに、そのプレイヤーはメノウよりもずっと強い。


 やれやれとカリニャンはメイド服を着ると、そのプレイヤーたちの目の前へと現れた。


「うおっ!? 早速ボスのおでましか……!」


「あの、もしかして私を狩るつもりでしょうか?」


「マジか、掲示板の情報通り言葉を話してやがるな……」


「気を付けろ、会話で油断させた所で襲ってくる手合いかもしれん」


「いや、その、私そんな事しませんけど……」


「まあとにかく、レイドボス【墓守の白獣姫】よ! お前は俺たちが倒す!!」


 まるで話が通じない。

 カリニャンの事を単なる『獲物』としか見ていない。


 このまま下手に屋敷や花園を荒らされるくらいなら――


「そんなに私と戦いたいのなら……後悔しても知りませんからねっ!!」


 カリニャンは、乗り気ではないものの目の前のプレイヤー数名と交戦する事になってしまった。



 ……が、それはもはや戦いとは呼べぬ蹂躙劇であった。





「そ、そんな……強すぎだ、ろ……」







 決着は僅か5秒。


 カリニャンの剛腕から放たれる一撃必殺の猫パンチで、一瞬で3人ほどが消し飛んだ。


 それに驚き反撃しようとしたプレイヤーの背後に回り込み、上から踏み潰す。


 魔法攻撃をしようと詠唱していたプレイヤーには、頭上から白い雷が迸り一瞬で消し炭となった。


 これでもパーティの平均レベルは130ほど。かなりの上位プレイヤーたちである。


 しかし、それすら蚊でも払うかのように壊滅せしめてしまった。


 それが、最強のレイドボス【墓守の白獣姫】なのである。





「情報通り、って言ってましたね」



 今のプレイヤーたちは、あらかじめカリニャンの存在を知っているようだった。


 一体どこからその情報が広まったのか。


 いや、それよりも――



 今後、この場所にしょっちゅう『レイドボスを倒しに』プレイヤーが訪れる事になる。



「私はただ、静かに暮らしたいだけなのに……」


 静かに、それでいて強い怒りを孕むカリニャン。


 今はとにかく、ヒスイが訪れたら詳しい話を聞いてみる他ないだろう。


 あり得ないとは思いたいが、ヒスイが噂を広めた可能性もあるのだ。








 ――







「マジかよ……」


 カリニャンからあらかた事情を聞いたヒスイは、戦慄していた。


 ヒスイの他にこの場所を知るプレイヤーは一人しかいない。


「本人に聞いてみる他ないだろうな。あいつがそんなことをするとは思いたくないが……」


 ヒスイは自身のステータス表記の端にある『チャット』の項目から、フレンドリストに入っている『メノウ』を選択する。




 オンライン中――




 今この場で、答えを聞くことができる。


 この1年間、ヒスイとメノウはそれなりに交流を深めていた。


 覚悟を決めて、ヒスイはチャットに文字を打ち込んで『送信』を選択した。






 ――――



『こんにちはヒスイくん。ちょっと相談したい事があるんだけど、いい?』



『メノウさん今いい? 聞きたい事がある』



 ――――



 送信とほぼ同時にメノウからメッセージが届いた。



 ――――



『あ、ごめん。先どうぞ』


『いや、そっちからでいい。手短に頼む』


『悪いね、ありがと。実はあたしね、パーティを追い出されちゃったの』


『は?』



 ――――



 それに対しヒスイは、思わず口でもすっとんきょうな声を出してしまった。

 それくらい彼女の『相談』は、予想外のものだったのだ。


 ――――


『なんでかっていうとね……。リーダーが、【墓守の白獣姫】のことを攻略サイトの掲示板に書き込んだらしいの。あたしがそれを知って反発したら、ジンくんを人質に脅されて……パーティを抜けさせられちゃったの』


『俺たちが聞きたかったこともそれだ。さっき、カリニャンを少数のパーティが襲ってきたそうだ。そいつらその掲示板の情報を見ていたのか……』


『嘘でしょう? カリニャンちゃんは大丈夫なの?!』


『数秒くらいで全滅させたらしい。さすがはレイドボス様だな』


『それは、本当に強すぎるわね……。倒される心配はなさそうなのが心強いけど』


 ――――



 ひとまず、プレイヤーが屋敷へ襲撃してきた理由は判明した。

 次は人質に取られているジンくんの問題だ。リーダーが一声『自害しろ』と命令すれば、本当に死んでしまう。




 ――――


『それより、ジンくんは大丈夫なのか?』


『……今のところは、としか。ジンくんをパーティ登録してるのはリーダーのライキさんだから……。あたしがジンくんのリーダーだったら一緒に逃げてたんだけどね』



 ――――



 メノウに協力してもらいたいと思いつつも、ジンが人質に取られている以上はそっちの救出が優先だ。


 プレイヤーの命令には絶対服従のNPCでも、『命令』が聞こえない場所まで連れていけばその問題もクリアできる。



「カリニャンちゃん。俺の作戦に乗ってくれる気はあるか?」


 ヒスイは判明した現況を全てカリニャンと共有する。


 その上でカリニャンは、こう答えた。





「必ず助けましょう。そして、そのリーダーに地獄を見せてやるのです……。絶対に許してはいけません。必ず、必ずっ! この手で後悔させてやります……!!」


 それは、普段のカリニャンからは見られない異様な表情だった。


 自身の境遇との重なり。そして、悪質なプレイヤーへの恨み。

 それが、心優しいカリニャンの中にある数少ない黒い黒い感情。





 しかしカリニャンは知らない。






 もしも、カリニャンが本気で相手を『呪う』ほどの怒りと憎しみをプレイヤーにぶつけて殺めれば――


 カリニャンを愛する無明の闇は、今も優しく見守っている。


 


 

そろそろターニングポイントの予定です。


星評価や感想をいただけると狂喜乱舞して更新頻度が増えます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ターニングポイントって何!?  怖い!!   [気になる点] あとそうだよなぁ  カリニャンちゃん殺せるんだよなぁ  その怒りで自分を滅ぼさないかマジ心配…… [一言] 雲行き怪しくない!…
[良い点] カリニャンのコハクへの愛が色あせることなく激重感情にまで昇華されてそうなことコハクの愛も同じようにふかくなっていそうなこと。 [気になる点] カリニャンが負けるとは思っていないけれどピンチ…
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