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第19話 プレイヤーとNPCのいろんな関係

 すっかりジンも回復し、もう何の心配もなくなった。

 街へ戻るには、ヒスイの持つ魔導具で転移ができるのでメノウは心底二人に感謝するのであった。


「何から何まで、本当にありがとう……。救えなかったみんなのお墓まで作ってくれて……」


「いいんですよ。だって私は〝墓守〟なんですから」


 花園の片隅に、小さな墓標がひとつ立っていた。

 それは、メノウの仲間だったNPCたちのもの。ジン以外はみんな、毒竜に殺されてしまったのだ。


 その骸は回収はできていない。だから、ここに手を合わせられる場所だけ作った。


「もし、何かあったら呼んで。力になる」


「おれも、必ず恩は返すんだからな!」


「そうかそうか。その時はよろしくな、ボウズ?」


「また会えるのを待ってますねー!」


 無邪気に手を振るカリニャン。

 メノウとジンの二人は手を振り返すと、ヒスイと共に街へと転移していったのであった。


 ヒスイとはフレンド登録をしてあるし、後々ログアウト後にはSNSでも繋がる予定だ。


 また、そう遠くない内に会えるだろう。








 *








「メノウちゃん、よくデスポーンしなかったねぇ? ジンくんも無事なようで」


「はい。本当にラッキーでした。まさか森の中に転移のコインが落ちてたなんて」


 転移のコイン――使うと、リスポーンに設定している地点まで瞬間移動できる使い捨てアイテムだ。


 実際にはヒスイが人気の無い町外れに送ってくれたのだが。魔境で救われた事は全て、秘密にする約束なのである。


「NPCはジン以外は死亡(ロスト)か。育て直しだな」


「そうだね……ぼくは思い入れがあった子もいたから凄く悲しいよ……」


 プレイヤーにもいろいろ。

 長いこと一緒に旅してきたNPCたちが死んでも、全く平気そうな者も珍しくはない。メノウが所属するギルドのリーダーはそれに該当する。


「あまり気にするなって。たかがゲームの事だから」


「でも……」


 対して、NPCを本当の人間のように接し、愛着を持つ人もまた多い。


 メノウのいる所は、そういう異なる価値観のプレイヤーが混ざり合うパーティなのだ。


「とにかく、今日はみんな大変だったな。疲れているだろうし、今日のところは早めに解散するとしようか!」


 パンパンッとリーダーが手を叩いて言った。


 仮想のものとはいえ、自分が殺されるのはかなり精神的にキツいものがある。


 既に何人かはログアウトしているし、メノウも疲れたので早めに戻りたい所である。


「宿はいつもの?」


「うん。もう取ってあるよ」


「了解」


 そうしてメノウはジンを連れて、いつもの宿へと入って行く。


 メノウとジンはいつも一緒だ。何をするにもべったりで、周りからはよく『おねショタコンビ』等と揶揄されていたりする。


 事実、いつも二人は同じ部屋で二人きりで寝ているのだ。

 互いに恋慕の感情はとっくに抱いてるし、メノウがプレイヤーの身体でなければとっくに肉体関係を持っていてもおかしくはない。


「あたしが寝てる間、あたしの身体好きにしててもいいからね?」


「し、しないよそんなことっ!」


「ふふふっ、ほんとジンくんったらウブで可愛いんだから~? 女性がそーゆー風にからかってきたらリードしなきゃ駄目なんだぞ~?」


 プレイヤーの身体はゲームの仕様で性的保護(セクシャルガード)がかかっており、全裸になる事や性的なアクションをする事ができない。

 また、NPCの裸や性的なアクションに関しては謎の光で隠されるという仕様だ。


「さ、今日もおねんねしよーかー? かもーんジンくーん?」


 そんなこんなで、2人にできる事はキスとメノウの胸に顔を埋めて眠る程度に留まっている。


 が、それでも13歳の思春期男児であるジンくんの性癖を粉々に粉砕するには十分過ぎるのであった。


 メノウこと和布浦(めうら)明香(さやか)もまた、ジンのウブで純粋な所を見るのが楽しくて仕方がない。




 ――もうすぐ三十路なんだから、さっさと孫の顔を見せなさい


 田舎の実家にはもう何年も帰っていない。


 好きでもない相手と何故、結婚しなくてはいけないのか。

 子供を作るということはつまり、好きでもない男の異物を体内に入れるということ。


 考えただけで寒気がする。


 ――抱かれるなら、ジンくんがいい。

 この場合自分がリードする側になりそうだけれど。ジンくんはとっても美味しそうだ。


 この世界が現実になればいいのにな……。そうすれば――


 既に2人は依存し合い、お互いになくてはならない存在だった。











 *












「ジン。起きてるか? 俺だ。開けてくれ」


「リーダー?」


 夜遅く――

 プレイヤーの誰もが寝静まった頃。


 部屋の扉を叩き、パーティのリーダーがやってきた。

 何かあったのだろうか。


「ちょっとジンに聞きたい事があってな。いいか?」


「答えられる範囲なら」


 扉を開くと、リーダーはジンを見て微笑んでいた。

 なぜだか、少し不気味だった。



「――命令だ。〝魔境で何があったかを、包み隠さず全て言え〟」


「そっ、それは……」


 ――プレイヤーに隷属するNPCは、そのプレイヤーに逆らえない。


「〝嘘をつくな〟〝黙秘するな〟」


「う、ああ……おれたちは、あの時――」







 ――レイドボス【墓守の白獣姫】に救われた。


 ――魔境の最奥に出入りする超高レベルのプレイヤーがいる。





「う、はぁ……はぁ、ごめんなさい、カリニャンちゃん……ごめんなさいっ!」


 ジンは、全て話してしまった。

 何もかも、魔境の秘密の花園その全てを。


「よく話してくれた。俺は嬉しいぞ……! 魔境のレイドボス……これは攻略しがいがありそうだ!」



 彼の瞳は、無邪気な闇で濁っていた。




おねショタはいいぞ……

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― 新着の感想 ―
[良い点] コイツらはほんと……プレイヤーなんだなぁ  悪意じゃないのが凄くタチが悪い  人が人を簡単に貶めるような好奇心、それが何よりも気持ち悪くて生々しい  めちゃくちゃ絶妙過ぎて、ほんとキモ素晴…
[良い点] 攻略を進めることはプレイヤーとしては当たり前のことなんですよねぇ。 視点が変わるとこうも……。 カリニャンが平和に暮らせますように!
[一言] カリニャンさん、また悲しい事になってしまうのか。
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