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閑話 とある配信者の末路

セイジくんとコルバルトくんの末路です。かなり救いがありません。

『セーロンマスクチャンネル』の悪評は一瞬で広まった。


 他プレイヤーに無実の罪を着せた上、仲間NPCを人質に取り殺そうとした。

 その証拠となる一部始終が、ある無名のアカウントにて生配信されていたのだ。


 もはや言い逃れは不可能。

 謝罪をするしかない状況で、セーロンマスクは――


『はいはい、我々がわるうございましたね。でもあいつだって悪いだろ、レベルが上がってないのにいきなり耐性スキルを獲得する訳がないじゃないですか。

 あのコハクとかいうやつはチーターに決まってる。あんな高レベルなのもチートを使ったに――』


 そう、開き直った。


 それどころかコハクが悪いとまで言い出した。


 セイジ――福村清治は、幼少の頃より決して自分の非を認めない人間だった。


 非を認めず、それでいて自分の主張や意見は押し通す。

 今までずっとそうやって生きてきた。それ以外の生き方を今なお知らない。


 既にセイジらが他にも行ってきた悪行の数々が告発されてきている。


 それらに対する彼の主張は火に油を注ぐ結果にしかならなかった。

 だが、それでもセイジはなぜ炎上しているのかすら理解できていない。


 だから、謹慎することもなくまたヴォルバドスの動画を撮影しようとログインしたのだが――



「ん……なんだ、これ?」




 ――――――――――


 状態:蕃神の呪い(解除不可)


 ――――――――――



 セイジのステータス表記に、見慣れないデバフがかかっているのが見えた。

 ゲームオーバーになった事でレベルが半減している上に、妙な状態異常。


 あまり穏やかな感情ではいられなかった。


 呪いとは。蕃神とは。


 セイジはその状態異常の詳細を開き、フレーバーテキストを読む。

 そこには――




『お前は私から逃れる事はできない。何時如何なる場所で何をしていようとも。決して逃がさない、永遠に』






 *







 コルバルトこと関根浩太郎もまた、清治と同じ〝蕃神の呪い〟に侵されていた。


 デバフなのに何がどう具体的に作用するのか、一切の説明がないのだ。


 だがこれが、ただの文面でないことはすぐに明らかとなる。



「す、スキルが使えねぇっ!? セイジ!! お前もか!?」


「ええ、わたくしもです……。システムに干渉するほどのチートなんて聞いたことありませんよ……」


 続けてセイジは、【配信】を行おうとする。が……


 これもできない。まるで何かに弾かれるように、カメラの宝珠が粉々に砕け散った。


 それだけではない。


「うっ……せ、セイジ……なんか体が……」


「な、なんですかこれはっ!?」


 セイジたちはもう一度自分たちのステータスを確認して唖然とした。



 猛毒


 衰弱


 盲目


 弱化


 麻痺


 エトセトラ……



 ありとあらゆるデバフが、2人を蝕んでいたのだ。


 スキルも使えない上に、ありとあらゆるデバフにかかっている。


 これではもはやゲームどころではない。




「クソッタレがああああ!!!」




 その後、キャラを削除し初めからやり直してみるも、【蕃神の呪い】は消えていなかった。


 こうしてセーロンマスクチャンネルは、『ヴォルバドス』から引退するのであった。










 ……しかし。



 神の呪いは獲物を決して逃がさない。




 その後2人は別のゲームの配信をしようとするのだが、ここでも奇妙な事が起こった。


 どんなゲームでも、なぜかキャラが操作を受け付けなくなるのだ。


 ゲーム以外もそうだ。

 どんな企画の動画を撮影しようとしても、まるで見えざる手が邪魔をしているかのように悉く失敗してしまう。



 ――本当の意味での、呪い。


 セイジは首を振る。そんなものがあってたまるかと、ただの偶然だと思おうとした。




 セーロンマスクチャンネル


 チャンネル登録者数、245981人

 動画投稿本数 121本

 総再生時間 342時間17分58秒


 総視聴回数 90425834回



 彼らの動画配信者としての命は、ここで終わった。




 その後2人は、運搬業のアルバイトで生活を始めるのだが、〝呪い〟は更にエスカレートしてゆく。





 ――業務中、突然金縛りに遭う。




 ――子供でもありえないような、致命的なミスを毎日連発する。





 ――誰も触れていない台車やフォークリフトが、まるで2人を狙っているかのように突撃してくる。




 ――物陰の闇から、誰もいないはずなのに小さな子供の顔が覗きこんでくる。






 1月もしないまま2人はバイトをやめた。


 そしてなけなしの金でお祓いで有名な寺や霊媒師の元を訪ねるのだが、2人を見た瞬間に追い返される。


 その頃になると、『呪い』はもうすぐ側まで迫ってきていた。



 夜な夜なアパートの扉を誰もいないのに〝何か〟が何時間も叩き続ける。


 部屋は4階なのに、窓の外から無数の子供の狂気じみた笑い声が聞こえてくる。




 全てはあの『コハク』というプレイヤーにちょっかいをかけてからだ。


 あんなこと、しなければ良かった。


 後悔先に立たず。

 もはや手遅れ。


 元セーロンマスクチャンネルの2人はすっかり精神もおかしくなりつつあったが、それでも呪いは終わらない。


 実家との連絡もつかなくなった。


 学生時代の友人とも、ありとあらゆる繋がりが断たれていた。











 *










 福村清治 享年25歳



 関根浩太郎 享年26歳






 黄昏時。

 2人はK県のN駅のホームで線路に飛び込んだ。


 当然ながら自殺である。


 だが、動機は『人生に絶望した』からではない。


 あの〝何か〟から逃げるためなのだ。

 アレがこの世の何処へ逃げても追ってくるのなら、死後の世界へ逃げるしかない。




 回収された2人の頭部の表情は、それはそれは安堵に満ちた満面の笑みだったという。


























 しかし。








 ――逃がさない、永遠に。





 無明より、闇は這い寄る。


 何処へ逃げてもやってくる。






 2人が死後も〝それ〟から逃げきれた確証は、この世のどこにもない。



あと、あとちょっとで週間ランキング入りなんじゃ……

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― 新着の感想 ―
[一言]何となくさっしたけどもしかしてこの世界本物?
[良い点] 面白い神様だ 関わりたくないねぇ
[良い点] おっほっほほい!!  良いですねぇこのホラー含んだざまぁ!!!  彼らのアイデンティティを奪う  日常も平常心も精神すら蝕み、命すら奪う  それでもなお許さない憎悪に近い呪い  絶対に楽に…
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