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女神の代行者となった少年、盤上の王となる  作者: 蒼井美紗
第2章 帝国編

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90、呪いと怒り

「ユベール!」


 思いっきり地面を蹴ってユベールに振り下ろされた剣を弾くと、セザールは眉間に皺を寄せて俺のことを睨みつけた。


「アン! 治癒を!」

「分かったわ!」

「お前ら……何者だ?」

「それはこっちのセリフだ。さっきの呪いはなんだ。呪いは持ち運べるものじゃないはずだ」


 話題を逸らすためとセザールが村の仇かを知るためにその言葉を投げつけると、今まで不機嫌そうにしていたセザールがニヤッと嫌な笑みを浮かべた。


「あの呪いは凄いだろう? 俺の最高傑作だ。あそこまで使えるものにするには、何度も失敗を重ねたんだ」


 まるで武勇伝でも語るかのように告げるセザールに怒りが滲み、剣を握る手に力を篭る。


「……失敗って、他人を巻き込んでないだろうな……」


 奥歯を噛み締めながら絞り出したその言葉に、セザールは何の後悔もないように、楽しい思い出を語るように口を開いた。


「何人も死んだなぁ。村が一つ壊滅したのは楽しかったぜ。でも一瞬で破壊するような呪いだと強すぎて、苦しむ様子も見れないだろ? だからもっと弱く、他人を操れるものを作ったんだ」


 村が一つ壊滅した……


「それは、どこの村だ」

「あ? そんなの覚えてねぇよ。どっかの田舎の村だろ。本当は村人を操るつもりだったんだが、一瞬で死んじまったからな……」


 呪いによって一瞬で壊滅した、田舎の村。絶対にこいつだ、こいつが家族の仇だ……!


 激しい怒りが自分の中に湧き上がり、視界がチカチカと光ったのが分かった。しかし怒りを抑えられない。こいつさえいなければ、皆はまだ生きてたんだ。ただの実験なんかで、村を襲ったのか……!


「お前っ、絶対に許さない……!!」


 怒りに任せて建物が壊れる可能性も忘れ、強大な魔法を次々と放った。そして自分も地面を蹴り、セザールに向けて思いっきり剣を振り下ろす。


「……っ、何だよ突然!」

「絶対に殺すっ!」

「はぁ? もしかして俺の呪いで家族でも死んだのか? それは残念だったな。というかそんなことよりお前……その魔法属性の豊富さ、眷属だろ?」


 セザールのその言葉で一瞬だけ冷静になったが、すぐに怒りが再燃して剣を振るった。


「だったら何だ」

「ははっ、やっぱりそうか! 最後に眷属を倒して破壊を完成させられるなんて、最高じゃねぇか!」


 それから俺とセザールの剣戟が続き、絶対に首を落としてやる。その思考に支配されて視野が狭くなった俺は、セザールが放った細い針に気づかなかった。

 それが左肩に刺さったことで、動きが鈍りセザールの剣が目の前にまで迫る。


 ――間に合わないっ!


 焦って何とか致命傷は免れようと体を捻ったその瞬間、セザールが風魔法によって吹き飛んだ。


「リュカ! 大丈夫!?」


 魔法を放ったのはアンだ。


 そうだ、俺には仲間がいたんだった。怒りに我を忘れ、周囲が全く見えていなかった。


『リュカ! 冷静になりなさい!』

『セレミース様……すみません』


 セレミース様の声さえ聞こえていなかったのか。怒りに思考が支配される怖さに、思わず体が震える。


「リュカ! 大丈夫? 怪我してたでしょ?」


 心配して駆け寄ってきてくれるレベッカを見て、やっと体から力が抜けた気がした。


「レベッカ、ごめん……暴走した」

「しょうがないよ。でも、私たちもいることを忘れないでね」

「うん、もう大丈夫。……ありがとう」


 その言葉を聞いたレベッカは、いつも通りの笑みを向けてくれた。その笑みに、激しすぎる怒りがおさまっていくのを感じる。


「リュカ、治癒をするわ」

「アン、ありがとう」

「あの男がリュカの仇なのね?」

「……そうみたいだ」

「それならば、皆で絶対に倒しましょう」

「そうだよ。四人でなら絶対に勝てるから」


 二人のその言葉に頷き、一人でセザールのことを警戒してくれているユベールの下に向かった。


「ユベール、心配かけてごめん。もう大丈夫だ」

「それなら良かった。あいつ、強いな」

「破壊の神の眷属だからな。……俺は眷属だってバレたから、ここからは能力を惜しみなく使っていく」

「分かった。……アンのことはまだバレてないか?」


 小声で発されたユベールのその言葉に頷いた瞬間、吹き飛ばされて壁に激突していたセザールが瓦礫の中から飛び出してきた。


「はははははっ! 楽しくなってきたぜ!」


 恐怖を覚えるような声音でそう叫ぶと、俺に視線を向けて片方の口端を持ち上げる。


「眷属と戦うんなら、この力を使わないとな」


 そう言ったセザールは右腕に力を入れ、その瞬間。


 ――服が破れ、腕がみるみるうちに巨大化していった。その腕は硬い鱗で覆われていて、鋭い爪が伸びていく。


「これが、竜化か……」

 

 十秒ほどで変化を終えたセザールの右腕は、何倍もの大きさになっていた。あの爪で攻撃されたら、一瞬で体を引き裂かれそうだ。


「この体も久しぶりだな……少しは楽しませてくれよ!」


 セザールは楽しそうな笑みを浮かべ、地面を蹴った。

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