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女神の代行者となった少年、盤上の王となる  作者: 蒼井美紗
第2章 帝国編

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77、アンを勧誘

 俺が空き家までアンを迎えに行き、三人で話した内容を全て伝えた。そして拠点に入ってエルネストから了承を得た新たな仲間だとアンのことを軽く紹介し、もう一度先ほどの部屋に今度は四人で入る。


「アンリエット王女殿下……なのでしょうか?」


 部屋の中で四人になったところで、エルネストは変身ローブを着ているアンに視線を向けて、完全には信じきれていない様子で声を掛けた。


 するとアンは綺麗な笑みを浮かべて頷いてから、ゆっくりとローブを脱いでいく。途中でアイテムの効果が切れると……アンの本当の姿が露わになった。


「久しぶりね。私の護衛を担当してくださっていた騎士さんかしら」

「王女殿下……! は、はい、護衛を務めさせていただいておりました、エルネストと申します。ご無事なお姿を拝見することができ、とても嬉しく思います。道中は御身をお守りすることができず、大変申し訳ございませんでした」


 エルネストは姿を現したアンに驚きを露わにしたが、すぐにその表情を引っ込めて頭を深く下げた。そして謝罪の言葉を口にする。


 そんなエルネストのことを見て、アンは優しい笑みを浮かべながらエルネストの肩に手を触れさせた。そしてそっと顔を上げさせると、その笑みをさらに深めて口を開く。


「謝罪を受け取ります。でももう良いのよ。あれは不幸な事故だったわ。それに命の危険があったとはいえ、不本意な輿入れから逃れることができたんですもの」

「……寛大なお言葉、ありがとうございます」

「それで、私に話があるのよね。リュカとレベッカから、私の不利益にはならないと聞いているのだけれど」


 アンのその問いかけに、エルネストはビシッと姿勢を正した。


「はい。アンリエット王女殿下の不利益になるようなこと、具体的には皇帝へあなたの生存を伝えるようなことは一切致しませんので、ご安心ください」

「ありがとう。信じるわ」

「その上でこれはお断りしてくださっても構わないのですが、我々はこの帝国を正したいと思っております。腐っている上層部を一掃し、健全な国に戻したいと。――もしよろしければ、その手助けをしていただけないでしょうか」


 その言葉を聞いて、アンはエルネストの瞳をじっと真剣な表情で見つめてから、王女としての風格漂う声を出した。


「それは、アルバネル王国に対する願いかしら?」

「いえ、王女殿下個人への、変身ローブで姿を隠されているアンリエット様への願いでございます。国同士の戦争は望んでおりません」

「そう、分かりました。それならば手助けしましょう」

「本当ですか……! ありがとうございます。本当に、本当に助かります。他国の問題に巻き込んでしまい、大変申し訳ございません」

「気にしなくても良いわ。私にも深く関わりがあることだもの。そして何よりも――」


 そこで言葉を切ったアンは、王女の顔を消し去って悪戯な笑みを浮かべると、本音を少し口にした。


「相手がいなくなれば、輿入れは完全になくなるものね。私にとっても利益があるわ。今王国に帰ればまだ相手が存在しているから、死にかけたことを訴えたとしてもお父様は私をまたこちらへ送り出すでしょう。しかし相手がいなければその可能性はなくなる。そうすればお父様も私には無理に執着しないはずよ」


 アンはそうなれば王籍を抜けることも可能なはずだと言っていた。国王が娘としてアンに執着しているのではなく、利用価値があるかどうかで判断しているからこそだそうだ。


 一度輿入れに失敗している姫をわざわざ娶りたい人はいないから、アンの利用価値は帝国の上層部がいなくなった時点でかなり下がるらしい。


 利用価値とか、凄く嫌な話だよな……でもアンのことだから俺たちもしっかりと理解しておく必要がある。


「私の将来のためにも、絶対に成功させましょう」


 アンが最後にそう締め括ると、本音を明かしたアンに面食らった様子で呆然としていたエルネストが、少しだけ表情を緩めて深く頭を下げた。


 これでエルネストは、アンのことを信頼し仲間だと思ってくれるだろう。アンはやっぱり話が上手いな。さすが王女殿下だ。


「とても心強いです。これからよろしくお願いいたします」

「ええ、こちらこそよろしくね。では私はこれから変身ローブを着た姿で過ごすので、敬語はやめてちょうだい。そして私のことはアンと呼ぶように。リュカとレベッカもよ」

「かしこまりました。……アン、これからよろしく」

「アン、よろしくね」


 俺たちがアンに向けて軽い口調で話しかけたところで、エルネストも少し躊躇いながら口を開いた。


「アン……よろ、しく」

「そんなにぎこちないと不自然だわ。もう少し自然に笑って、私はあなたの部下よ」

「……わ、分かった。アン、これからよろしく」


 エルネストのその言葉にアンが笑顔で頷き、アンが正式に仲間へと加わった。


 そしてそれからはアンのことを他の仲間にも紹介して、エルネストからクーデター当日の誕生パーティーについて今までに判明している情報を聞いたところで、その日は拠点を後にした。

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